プロローグ
それは事実であることは間違いないが、でも本当に現実だったのだろうか。
確かめたくなるほど時間は流れ、薄れゆく記憶に抵抗するかの如く思い出しながら生きてきたのかもしれない。
何故なんだろう。
忘れられないような濃度の距離ではなかったし、高校3年生の英語の授業で1年間、右側に座っていただけの最上純子のことが、常時ではなかったにしろ、いつも自分の中に存在していたこと。それが27年も続いてしまった。
それらは喜びや癒しを与えてくれて、時には永遠に取り戻せない時間なのだという現実として、虚無感の雨となり容赦なく降り注いでくる。
これまでの人生で何人かと恋に落ち、結婚もして息子も授かり、思ったようにいかない時期も少なくはなかったが、それなりに充実感もあり幸せな日々であった。
そのような日常の中にも、度々純子はモノクロームな蜃気楼に紛れて登場しては、そっと龍司のコアな魂の中心に微かに触れ、消えていく。
恋しくなったり愛おしくなる訳ではなく、ただ美しい記憶の断片として、切なく、儚く、爽やかな暖かさを伴いながら、純子の残像がこの人生の中にいつも存在していた ──