第三話 現状把握
穏やかな風が吹く平和な森。森に流れる川の川辺には多くの獣達が水を飲みに来ていた。
流れる水は美しく透き通っており、川辺で種族問わずに穏やかに過ごす獣達、吹く風は木々を撫でる程度、戦場を渡り歩いた歴戦の傭兵でも穏やかな気持ちになるだろう光景。
其処に、黒い鱗の竜が忍び寄る。
「ゴアァァァーーーァア!!」
黒い鱗の竜は隠れていた木々をへし折りながら川辺の獣達を強襲する。
だが、森と川辺にはそれなりに距離がある。片翼の無い竜では走るしかないが、それでは獣達の大部分に逃げられるだろう。
しかし、竜に焦りは無かった。
「ゴァァァ……!」
息を深く吸い込む様に首を引く。この動作から起こること、それは……
「ゴアアァァァァアァ!!」
竜の吐息、竜種の象徴と言われる、最大規模の攻撃。
放たれた猛炎は獣達を焼き殺し、川に撃ち込まれてから爆発した。たった一発のドラゴンブレスで穏やかな景色は一変してしまった。もし、あの穏やかな景色を知っている者がこの状況を見たら悲鳴をあげる事だろう。
そして、その原因たる黒い鱗の竜は……
「ゴァァルルゥ……」
ブレスに焼かれて炭みたいになった獲物を、空腹で腹を鳴らしながら悲しそうに眺めていた。
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『ブハァァ!ハァ!ゲホッ、ゲホッ!酷い目に会ったー!』
あの平原の駄獣共から逃げ出し谷川に落ちてから流されること何と不明時間!
気絶しては目覚めて呼吸して溺れかけてと、水死体一歩手前を行ったり来たりしてたら時間なんか分からん!!
『ハァ…ハァ……此処、何処だ?』
視界に写るのは森と川。もはやトラウマの域に達する草原とは違う景色だ。
川の上流の方向に眼を向けると山脈が見える。例の草原はその麓辺りに広がっているのだろう。二度と行かん。
『さて、現状把握に動こう』
周辺に目に見えた危険は無し。今のうちに色々と確認しておこうか。
まず、するべき事は、決まってるな。
『オレは誰なのか、だな』
オレにある記憶は……
・前世の知識
あくまでも"知識"、現代の知識を覚えているだけ
・前世の願望
前世の"私"が持っていた願望
オレが覚えてるのはこの二つだけ。
逆に覚えてないのは……
・前世の自我
知識だけでオレは前世の頃を覚えてない
他に何かあるかな?オレが忘れていること?うーん?
……分からん!考えるのは止めよう、オレには合わないし。
前世は前世、オレとは違う。
オレにあるのは前世から続く願望と"オレ"だけだ。
さて、次はテンプレ回収といこう。
『ふっふっふ、ステータス!』
……な に も お こ ら な い
………………次いこう
『鑑定!』
…………………………じょうだん?
『分析!』
……………………………………まじ?ステータス無い系のやつ?
『……』
あっはっはっは、ステータス無いってよマジかよ……
思わず水面に写る自分に話し掛ける。テンプレ回収ならず……ん?
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名前 NO NAME
種族 下級竜種・黒鱗種・魔獣種・純竜種
レベル 12/30
剛力 C+
耐久 C
持久 D++
敏捷 C+
魔力 B--
《称号》
転生者
純竜
《状態》
欠損:右翼
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で、でたーーーーー!!
ってか、
翼が、千切れてるぅぅーーー!!