第二話 逃走劇の終幕
走る、走る、走る。振り向かずに、立ち止まらずに。
何故そんなにもひた走る?と今聞かれれば、彼女はこう答えるだろう。
『足を!止めたら!死ぬ!!死んじゃう!!!』
走り始めて数時間、いまだに命懸けの逃走劇は続いていた。
しかも……
『何で!増えてんだよ!!』
最初は金属質の牛擬きに帯電羊、爆速鳥だったが今は愉快な仲間達を迎え入れたことにより、火を吹くラプトル、草みたいな色合いの狼、デカイ二足歩行の蜥蜴、飛行する山羊、その他大勢をパレードに加えている。
『普通この数の別の種が集まったら喧嘩しない!?何で仲良くオレを追っ掛けて来るんだよ!?』
不思議な事に、何故か彼らは互いに争わず、一心不乱に此方に迫って来る。
追っ手の総数は順調に増えていっている。
『このままだと不味い、いつか体力が尽きて追い付かれる……!』
彼女は焦っていた。故に気付かなかった。
スカッ
『……は?』
彼女は気付かなかった、崖に。
『ちょぉ!ッま、あぶっ!』
ドラゴンの本能で咄嗟に翼を開こうとするが……
『イタァ!!って、お前えぇぇぇ!』
「ギュアエエ!」
最初から追いかけてきていた爆速鳥がそのまま突っ込んで来た事で、翼を広げられずに真っ逆さまに谷底の川に落ちる。
『フザケンなぁ!死んでたまるかぁ!』
「ギュギャアエエエェェェ!」
無我夢中で爆速鳥に噛み付く。
鳥の方も抵抗してくるがより強く食らいつき、身体全体で抱え込む。
『この鳥はオレよりもデケェ、上手くいけばクッション替わりになる、筈!ッグハァ!』
背後、即ち上から衝撃、横目で確認すると……
『ハァ!?』
「グギャギャギャ!」「ウォーーーン!」「メエエエエエ!」「ブモオオオオ!」
次々と落ちてくる、後続の奴ら!
『フッザケンナ!』
「メエエエエエ!!」「ブモオオオオ!!」「ウォーーーン!」
『ウルセエエエ!』
もはやこうなるとどうしようも無い。谷川が深い事に賭けるしかない。
『お前らいつか絶対ブッコロス!』
種族を根絶やしにする事を誓いながら、川に落ちる。流れの速い谷川では障害物に気を付けなくてはならない。
『ぐぅぅぅ!冷たい!寒い!これ雪解け水!?』
冷たい水の中で懸命に眼を開き鳥を盾にして激流を流されていく。
『こう言う転生物って最初はゆっくり現状確認からのステータス調べが定番でしょ!?何このハードモード!?ってかヤバい!意識が……』
激流に流されながらオレは意識を失った。