第十七話 都市への道中
「竜人ってのは……こんなに怪我の治りが早いもんなのか……?」
「さぁ?……あたしも竜人を見るのは初めてだし……」
「ん?」
天気は快晴、暖かな陽射しに照らされながら街道を幌馬車が進む。街道は舗装などされておらず、轍の後がある道を進む馬車はよく揺れる。普段から馬車に乗る彼らは慣れているから平気なんだろう。私は竜だから平気だ。
あの後、彼らから言葉を教えてもらったおかげで片言ではあるが、会話はできる様になった。
ちなみに、聞き取りに関しては問題なくなった。今までは異世界語を称号の効果で強制的に理解させられていたけど、暫く会話していたら普通に聞くだけなら大丈夫になった。
残る課題は発音だけだけど……多分人化しても喉とか歯とかの構造が違うからか、上手く発音できないみたい。片言がデフォルトになりそう。まぁしょうがないねぇ、人化しても歯は鋭いままだったしね。
こうして馬車を走らせているのは理由がある。まぁ、単に私が頼んだだけだが。
私の胸の傷が開かないように気遣ったジェイド達は、あと数日はあの場所に野営するつもりだった。
けどジェイド達に世話になりっぱなしで迷惑をかけるのは嫌だから、出発してもらったのだ。
ジェイド達の予定を私の為に崩してしまうのは避けたい。ただでさえ助けてもらった恩があるのだから、少しずつ返していかないと。
一応、傷口は少し回復した魔力を使って塞いだから、暫く安静にしていれば大丈夫だろう。心臓の修復は……今すぐには無理だけど……
「ん~……」
「ぬぐぅっ……!」
「あ~……ずいぶん懐かれたねぇジェイド?」
「イータ頼む場所変わってくれ……!」
「やだよ、面白いもん。」
馬車に揺られながらジェイドに寄りかかる。彼は命の恩人だから、近くにいると落ち着ける。
嫌がられるかとも思ったけど、前世で父が美少女に近づかれて喜ばない男はいないと断言していたし、大丈夫だろう。今世の私が美少女かは分からないけど。
「お嬢ちゃん、やっぱ可愛いな~!ジェイドの奴じゃなくて俺の隣に、いってぇ!?おい、何しやがるドズル!離せぇ!俺には美少女と仲良くなるという使命が!」
「お前は見張り番だ、嬢ちゃんばかり見てんなよ。」
ふむ、ふむふむ、アレクの発言からして、どうやら人化した私は美少女らしい。良かった、ならばジェイドは喜んでくれるだろう。恩返しになっている、はず。
「それにしても……貴女の髪、スッゴい綺麗よねぇ!」
「ん?……イータ?…なに?…髪?」
イータが私の容姿について話題にし始めた。自分で見てもよく分からなかったから、他の人が評価してくれるのは助かる。このまま話の流れに乗っかろう。
「うん、そう!そのスッゴい真っ白な白髪!綺麗よねぇ……憧れちゃうなぁ。」
「綺麗?……すごい?」
「うん、もうスッゴく!はぁ~……肌も白いから、まるで雪の精霊みたい……角や鱗の黒色が良いアクセントになってる……ホントに綺麗ねぇ~……」
「ふーん?」
私は最初、あまりにも肌が白すぎるから、もしかしてアルビノ?太陽光は大丈夫?とか思ったけど……多分この白色、白狼種の特長が表に出てるんだと思う。竜の姿では白狼種の要素が表に出にくかったから、人化したことで顕在化したのかも。
まぁ単に肌が白いだけで、防御力は人間の皮膚と大差ないけど。鱗がある部分は竜の時と同じ防御力みたい。手は人の形をしてるだけで竜のそれだから、気を付けないと爪が痛いんだよね。
「そういえば聞き忘れていたけど、嬢ちゃんの名前は?」
「名前?」
「あ、確かに!聞いてなかったね。」
あぁ名前か、これにしようと思っていたのが在るんだよね。
「つ、ヴぁい」
「ツヴァイか?いい名前だな。」
今の私は、二度目の生だからね。だからドイツ語で2を意味するツヴァイ。私はそう名乗ることにしたんだ。
ちなみに、ドイツ語にした理由はカッコいいから。
名前も名乗ったし、気分が良いから眠ろうかな?って考えてたら外から大声が聞こえてくる。
「馬車を止めろドズル!草原狼だ!」
「襲撃だ!ジェイド、イータ、馬車を降りて手伝え!」
おぉ、襲撃。のどかだったのに急に騒がしくなるね。
「冒険者上がりの商人ってのは、こういう時は便利だよな。」
「あんたはまだまだ現役でいけるでしょ……」
「はっはっはっ。商人は楽しいぞ?」
ふーん……ジェイドは商人なんだ。革鎧を着てるから冒険者かと思ってた。
多分だけど、普通の商人は剣と盾を装備して魔獣の襲撃を迎撃しないと思う。
「おい早くしろ!草原狼がすぐそこに来てるぞ!」
「おいアレク、さっさと射かけろよ。」
「無茶言うなよドズル!ここら辺は草が長くて狙いにくいんだよ!」
草原狼……私がジェイドに助けられた時の奴かな?あの時はエレフセリアが起きていたから無理だったけど、眠ってる今ならいけるかな。
「ほっ、と……」
「おい、ツヴァイは馬車の中に居た方がいいぞ?一応怪我人だろ?」
「大、丈夫。」
馬車を降りてジェイド達に並ぶ。心配されたけど、問題は無い。これから私がしようとしていることは傷に響かないからね。
さて、と……獲物の数は……
「グルルル……」
「ガウッガウッ!」
街道に出てきてるのが二匹、草むらに隠れてるのが三匹、その内の一匹は反対側から奇襲しようとしてる。結構賢いね、これならいけるかな。
「フゥーー…………」
何も考えない。これを上手く使うには知恵は不要だと感覚で把握する。
意識を深く沈めて、私の憶えてない記憶を思い出す。永劫に続くように思えた、あの日々を。
私の心臓は損傷していて、魔力を少ししか生成することが出来ない。つまるところ、私の心臓は死に近しいということ。
「おい、ツヴァイ……?」
「なんだこれ、寒ぅ!?」
「魔術、なのか……?」
「ちょっと、大丈夫……?」
「"心臓、停止"」
鼓動が鳴りやむ。私の心臓が動きを止める。身体を巡る魔力の流れが無くなり、魔力の代わりに氷のように冷たい何かが私の中を循環し始める。
私の中の何かが取り返しがつかなくなった様に感じるが、どうでもいい、さっさと殺ってしまおう。
「"常世の冷風"」
私の中を循環する冷たいそれに、指向性を与えて放出する。
「うぉぉぉ!?」
「寒ィィィィ!!」
「こいつはっ……!?」
「ナニコレーーッ!?」
霧の様なそれは、ジェイド達を避けるように地面を這い、通った所を凍てつかせていく。
「ギャウ!?キャンキャ…」
「グルルル!?ガウッガ…」
「ガルル!ガルルル…」
霧は私を中心にだいたい30メートル程の位置で止まった。
周囲を囲ってこちらを襲おうとしていた草原狼達は、みんな氷の彫像に変わった。
「フゥーー……」
吐いた息が白い。周りが寒いからじゃなくて、私が冷たいからだろう。少しだけど、身体の表面が薄く凍ってる。
「"雷よ"」
停止した心臓を雷の魔法で動かす。鼓動が鳴り始めると同時に、冷たかった身体に熱が戻り魔力が再び身体を流れ始める。
取り敢えず、これで心臓の損傷で魔力が少ない今でも戦えるね。普段使いも出来なくは無いだろうけど……エレフセリアに悪影響が出そうだし、止めておこうかな。
ん?ジェイド達が何か集まって話をしてる。
「なぁ……竜人って、すげぇなぁ……」
「うん……」
「あの娘、怪我人だよな?」
「逆になぜ彼女があれだけの大怪我を負ったのか、気になるな。」
わぁい、ジェイドがすごいって言ってくれてる!
「すごい?すごい?」
「おぉ、凄いぞ、すげぇ驚いたわ。ツヴァイ、お前めっちゃ強かったんだな。」
「ふふふー♪」
恩人に褒められちゃった!良い気分~!
「どぅどぅ!大丈夫だ、落ち着け。」
「おぉ、凄い、完全に凍ってるよ。」
「二人とも~!馬を落ち着かせたら都市に向かうよー。」
あぁ、馬か。馬車はちゃんと避けたけど、馬が驚くのは考えてなかったな。
「あぁわかった!すぐ行く!」
「ジェイド、ジェイド。」
馬車に向かうジェイドを呼び止める。ちょっと聞きたいことがあるんだ。
「ん?なんだ、ツヴァイ。」
「どこ、向かう?」
ジェイド達が何処に向かってるのか、聞き忘れてた。ちょうどいいし、今聞いてしまおう。
「そういや言ってなかったか?俺たちが向かってるのは、エルブラント王国東部の自治領。親竜都市カロンドフィスだ。」
親竜都市……カロンドフィス…………親竜都市?
「竜、が、いる?」
「あぁ、守護竜がいる。その力によって王国から自治権を勝ち取った都市国家だ。火山の麓にあってな、鉱石がたくさんあるんだ。カロンドフィスで鉱石を買って、それを別の都市に運んで儲けるつもりなんだ。」
火山の麓にある都市の守護竜……か。なんて好都合。
「楽、しみ。」
「お、そうか?楽しみにしてろよ~!カロンドフィスはすげぇ綺麗な都市だからな!」
うんうん。本当に楽しみだな~。




