第十三話 Aランク冒険者
遅くなってしまい申し訳ないです。
「ハァッ!ハァッ!っ見えた!」
ダストが森を抜けたのは、もうまもなく夜が明ける時間帯だった。移動速度の違う為、竜が都市に着いたのは数時間ほど前だろう。どう考えても手遅れだ。
「ハァッハァッゲホッ、壁が、焼き払われてやがる……」
フィリフィス大森林から採れる潤沢な木材資源で造られた壁は、見る影もなく焼け落ち、所々に炭の柱が立っているだけだった。
更には……
「ウッ……なんて数だよ……」
大量に地面に転がっている人の形をした炭の塊。判別することが不可能な者が、無数に転がっている。それがここで起きた事をものがたっていた。
「……まだ暖かい、鎮火してから時間が経っていない筈……」
ドゴォォン……!
「っ!まだ戦ってる!生きてる!」
響いてきた音は固い岩が砕ける様な音だ。この都市では殆どの場所が土だから砕ける音が聞こえて来る場所は…………
「都市長官の屋敷前、中央広場だな!」
急いで中央広場に向かう。途中で見掛けるのは、岩に潰された者、建物の倒壊に巻き込まれた者、焼けた死体、死体、死体…………瓦礫の山ばかりだ。人の気配は……まったく無い。
「ミリアムっ!無事でいてくれ……!」
瓦礫が邪魔で進みにくいが、そろそろ広場に着く。目の前の瓦礫を力の限りで倒す、これで広場に行ける。
「ミリアム!!…………っ!!」
広場にはたくさんの衛兵達と冒険者達の死体が散乱していた。その殆どの死体が酷く損傷していた。
そしてその死体の散乱する広場には…………二つの影があった。
一つは竜だ。未だに燃えている炎に照らされる身体には、何処にも傷が見られない。どうやら万全の状態の様だ。これだけの者達が決死の攻撃をしたのに、奴にはろくに届かなかった………
そしてもう一つの影は……
「ミリアムッ!!」
「っ!?……ダ……スト……」
ミリアムだ。彼女は竜と数時間も戦い、生き残っていた。だが無傷ではない、彼女の左腕は既に無く、傷口を焼くことで止血している。右足には深い裂傷ができている。他にも大小様々な切り傷打撲火傷など。無事な場所が無い程に重症だった。
「ウォォォ!ミリアムから離れろぉーー!!」
直ぐ様に剣を抜いて、こちらに背を向ける竜に斬りかかるが…………
「クルルルル!」「ゴホォッア!!」
長く、白い体毛に覆われた尻尾に、鞭の様に打たれて弾き飛ばされる。一瞥さえされなかった。
「がふっ!ゲホッゲホッ!ぅぐぅ、ま、だまだぁ!」
瓦礫に激突したが直ぐ様に剣を握り直し、竜に突貫する。が、今度は馬鹿正直な突撃では無い。
「ふっ!」「クルル?」
竜の眼に向けて石を投げ、意識をそちらに向けさせる。
(一瞬でも気を取られてくれりゃぁ上等!ミリアムをかっさらって逃げる!)
「逃げるぞ!」
「ダ、ス……ト……」
目論見通りミリアムを抱えて走る。だが…………
「グルルルルゥ!」
「うおわぁぁーー!!」
「ウゥッ……」
竜が腕のような形状の翼を地面に叩きつける。ギリギリ避けられたが、衝撃で大きく吹き飛ばされてしまった。咄嗟にミリアムを両腕で抱いて守る。
「グルルルルゥ……」
直ぐに起き上がるが、当然の如く目の前には竜がいた。
「クソッ!どうすれば……ッ!?」
「ダス、ト……私を、置いて……いけば……っ……」
「置いて行けるかよ!」
落ちぶれた俺を見捨てずに着いてきてくれた"仲間"を、黙って殺させる訳にいくかよ……ッ!
そう思い打開策をいくら考えても、どれも上手くいきそうにない。元々の状況が絶望的で、更なる危険に両足で踏み込んだのだから当たり前だ。
「グルルルルルルゥ!」
竜が翼腕を振り上げる。炎に照らされるその黒い爪は、元々その色だったかのように赤く染まっている。
「ッ!!!(使うか!!?いや、やるしかない!!)」
ダストはかつて自分が落ちぶれた原因である、二度と使わないと決めた"祝福"を使うと決めた。
「限界、ッ!?」
「ウゥゥォォォォォォォォ!!」
だが、その覚悟は乱入者によって不要な物となった。
「グルルルルルルゥ!?」
ガギィギィィと凄まじい音を鳴らしながら竜の黒翼爪が騎士の様な鎧を着た冒険者の盾に防がれる。
「"炎よ 槍となりて 我が敵を 貫け"【炎の槍】!」
「"主よ 我が弓に 聖なる力を 授けたまえ"【聖なる矢】!」
続けてやってきた三角帽子をかぶった魔術師と弓を持った神官が、それぞれ炎の槍と光の矢で竜を攻撃する。
「グルル!ッ!?ルゥゥオオォォォォォォォン!」
炎の槍と光の矢を岩の柱を造り防ごうとする竜だが、炎の槍に一瞬で岩の柱を砕かれ、僅かな時間差で放たれた光の矢が向かって来るのを確認した瞬間に今度は柱ではなく岩の壁を造り光の矢を防いだ。
「やっぱり竜種の攻撃を防ぐのはキツイな」
騎士風の男が盾と剣を構え直しながら油断無く竜を見据えながら言う。それに対して魔術師の少女が言う。
「文句言うんじゃ無いわよ。何回までなら防げるのよ?」
「援護してくれるんなら、いくらでも防げるさ。フィー!そこの二人の治療頼む!」
「もう始めてますよ。大丈夫です、必ず助けます」
何故か杖ではなく弓を持っている神官の女性がこちらに駆け寄り、ミリアムの傷を癒し始めた。
「あ、あんたらは……」
「私達はAランク冒険者パーティ[銀の誓い]です。貴族からの依頼でフィリフィス大森林に採取に来たのですが、辺境都市の方向に大量の黒煙が見えたので急いで救援に来ました」
「A、ランク……!」
Aランク冒険者は、Sランクを除けば冒険者ランクの最高位だ。並大抵の実力ではAランクには成れない。よくて大国の王都に数組とかだろうか。
しかも、それに加えて彼らは若い。つまりそれだけ才能溢れる者達という事だろう。
「あの竜について分かっていることはありますか?」
「殆どねぇよ、多分数週間前にこのフィリフィス大森林にやってきたって事ぐらいだ。俺が偵察に出た時に見た竜とは姿が違いすぎるし、二体いるかも知れねぇ」
「なるほど……私達もあの様な姿の竜は初めて見ます。凶兆の兆しでなければ良いのですが……っ!?」
突如凄まじい破砕音が響き渡る。今までのそれとは桁違いだ。一体何が起きた!?
「クルルルゥゥオオォォォォォォォン!!!」
「うっおぉーー!!?コイツッ!?急に動きが変わったぞ!?」
「ちょっと!?何よあれ!?何なのよぉ!?」
さっきまで竜と互角に戦っていた二人が防戦一方になっている。騎士風の男は先程の様に竜の攻撃を防ぐのでは無く、盾と剣で逸らす様に動いている。魔術師の少女は炎の魔術では無く岩の魔術で動きを阻害するようにしている。
「クルルルゥゥゥゥオオオオォォォォォォォォォォォォン!!!」
竜の雰囲気が一変していた。全身にはバチバチと雷が這い回り、ゴウゴウと音が聞こえて来る程の暴風を纏っている。ドクンドクンと心臓の音が少し離れた場所にいる俺にまで聞こえて来る。頭部を飾っている角はまるで宝石の様な青紫色に煌めき始めた。
おそらくだが、これがこの竜の本気だろう。
「ぐぅぅ!!すまん!逸らすので手一杯だ!!」
「後ろに通さないで!!全滅するわよ!!大丈夫よ!あんなに魔力を消費するんじゃ長続きしないわ!!お願い耐えて!!」
風向きが怪しくなってきていた。このままだとまずいだろう。
「最低限の治療で申し訳ありませんがっ、仲間達の援護をしなければ!すみません!」
「いや、大丈夫だ!行ってくれ!」
ミリアムの傷は最初と比べれば出血は止まっているし、呼吸も安定している。もう大丈夫だろう。
戦闘に神官が加わり、弓と光の矢で援護するがそれでもやはり防戦一方だ。やがて押しきられるだろう。
だが、少し違和感がある。
「Aランク冒険者パーティにしては、人数が少ない様な……ん!?」
いつの間にか竜の背後に全身が黒で統一された奴がいる。そいつは少し反りのある剣を逆手に構え、一息の間に竜の背中を駆け上がり突き刺した!
「クルルルゥゥオオォォォォォォォン!!?」
「ぐぅっ……!」
直ぐに翼腕によって振り払われたが、かなりのダメージだろう。
「無事か、ネア!?」
「急所外したッ!ごめんっ、アレク!」
どうやらたいしたダメージを与えられなかったらしい。もう不意打ちは効かないだろう。
「ちょっと、何外してんのよ!このままだとヤバいわよ!?」
「ボクにっ!文句言ってる暇がっ!あったら魔術を唱えろリアナ!」
「二人とも!喧嘩してる場合ではありませんよ!?」
「おい!いくら俺の"祝福"が防御向きとはいえ限界があるぞ!どうするんだ!?」
不意打ちに失敗したからか、戦局はかなり怪しくなってきている。
「グルルルルゥゥオオォォォォォォォン!!!」
竜は未だに元気いっぱいに暴れている。スタミナが尽きる様にはまだ見えない。
「クソッ!(今の内に、逃げるか……?)」
Aランクパーティでも敗色濃厚、逃げるのが賢明な判断だろう。
だが…………
(ここで逃げたら、何かを失う気がする……っ!)
「がふっ、ゲホッ……ダス、ト……」
「喋るな、ミリアム!」
ミリアムが目を覚ました。何かを言おうとしている様だが、傷口は出血が止まっただけなので喋らない方が良いだろう。
だがそれでもミリアムは何かを俺に伝えようとしてくる。
「ミリアム、何を言いたいんだ?」
「ダ、スト……け、ん……剣、を……」
「お前の持っていた剣か!ほら、こ……れ……この、剣は……」
見覚えがある。いや、忘れるはずが無い。ミリアムが使っていた剣は、かつて俺が使っていた剣だった。
他者視点はもう少し続きます。




