第十二話 邪竜
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……………………あぁ、気分が良いなぁ…………なんでだろ……?
『……アハ……ハ、ハハハハ……!アハハッハッ!ハハハアハハ!』
楽しい……からぁ…………いっかぁ……♪
□□□□
真夜中のフィリフィス大森林、その奥地……其処は"何か"がのたうち回ったかのように木々が倒されていた。
その倒された木々の中央…………其処に"何か"がいる。
その"何か"は、黒い鱗を持つ竜だった。だが、竜というにはどうにも不可解な姿だ。
全体的に見れば竜だが、細部が特徴的だ。
頭部で特徴的なのは角だろう。竜種には竜角という角が存在するが、この竜は少々変わっている。角自体は二対四本ある、一対は大きく前向きに生え、まるで装身具の様に禍々しい美しさで頭部を飾っている。もう一対は狼の様な獣耳と一体化しており、竜の角よりも獣の耳の様な印象を受ける。
そして、身体は竜種としては細く、しなやかだ。黒い鱗と純白の体毛に覆われた身体は狼と竜の二種を彷彿とさせる。
竜の尻尾は種によってかなり形状が違う。だが、この竜の尻尾は異様に長く、そして獣の様に白い体毛に覆われていることを除けばいたって普通だろうか。
そして竜種の身体的特徴の中でも特に注目されやすいだろう翼。彼女の翼は異様な形状をしていた。
しいて言うなら、"翼腕"、だろうか。翼としての形状は残しているが、鋭く、肉を抉る様な形状をしている翼爪と発達した腕としての形状をみるに、空中戦ではなく地上戦を意識している様に思える。
総じて言えば、禍々しい異常な竜種である。だが、月明かりに照らされるその姿は誰が見ても綺麗だと思うだろう。
「……クルルルゥァ」
進化による眠りから眼を覚ました竜は……エレフセリアは、以前よりも高い音がなる様になった喉を鳴らしながら、ゆっくりと起き上がり…………
「ルゥゥオオォォォォォォォン!!!」
咆哮をあげる。まるで、抑えきれぬ衝動に歓喜するように。
「クルゥオォン!」
バサリと折り畳まれていた翼腕を広げ、翼を開く。其処に風の魔法を使って風を生み出し、翼に風を受けて飛び立つ。翼腕となったことで落ちたであろう飛行能力も、風を自ら起こせるのであれば関係ない。
「ルゥゥオオォォォォォォォン!!!!」
暴風のごとき風を自ら起こし、凄まじい速度で空を飛翔するエレフセリア。
その姿を、見ていた者がいた。
「はぁ、はぁ……ありゃぁ、なんだ……?」
辺境都市フィリフィスのCランク冒険者のダストだ。つい先程目を覚まし、都市に戻って竜がいたことを報告するために慌てて荷物からコンパスを取り出し、方角を確認しているところだった。
「竜が他にもいたのか?………ヤバイな、どっか……都市とは別の方向に行ってるといいんだが…………ヤバイな…………」
コンパスの指す方向、遠くに見える山脈、近くに流れる川、これらから予想した現在地と、そこからわかるさっきの竜の向かった方向は…………
「あのクソ竜……都市に向かってやがる…………急がねぇと……っ!」
竜が飛び去った方向に走る。幸いにも周囲の生物は全て竜に喰われた為に邪魔はなかった。
「はぁっはぁ、クソっ!」
暴風を受けて空を飛翔する竜に、地を二本足で駆ける人が追い付けるはずがない。だが、それでもダストは走る。
「ハァッ、ハァッ、ミリアムッ!」
夢敗れて腐っていく自分を見捨てずにいてくれた、彼女の無事をダストは祈っていた。
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「…………遅いな……馬鹿ダスト……」
夜も深まってきた頃の冒険者ギルドのフィリフィス支部では、職員のミリアムがダストがなかなか帰って来ないことでソワソワしていた。
「ミリアムさん……12回目です……そのセリフ……」
ミリアムと同じくフィリフィス支部所属の職員である男が半ば諦めたように指摘した。
「何かあったのか……?やはり私も行くべきだったか?」
「ミリアムさん……調査依頼ですよ?時間がかかるのは普通ですよ………あとミリアムさんに抜けられたら仕事が滞ります…………」
「うめぇなこの腸詰め。ダストの兄貴が居なくて寂しいんですかい?ミリアムの姉御」
「こっちの果汁水もうまいぞ。ダストさんも羨ましいなぁ、ミリアムさんみたいな美人に好かれて……」
「おいその肉はおれのだ!」
「少しぐれぇはいいじゃねぇか!」
職員の男は情けない声をあげ、冒険者ギルドのロビーに併設された酒場で冒険者達が飲み食いしながら騒ぐ。
「うるさいぞお前達。それに寂しくはないし別にダストを好いてもいない。あと仕事が滞るのはお前の体力が無いからだ。もっと鍛えろ」
「そんな無茶な……これでも平均はある、はずなんですけど……」
男性職員が自分はもしかして体力がないのかと、自分を疑い始めた所で、異変が起きた。
「ん?なんだ?これは……風か?」
冒険者ギルドの入り口はスイングドアになっている。そのドアが風を受けてバタンバタンと開きっぱなしになっている。
「こんな時期に強風が……?妙だな……」
「考えすぎでは?ミリアムさん」
違和感を感じるミリアムだが、職員の言う通り自分が考えすぎなだけの様に思えた。
「それもそうだ、「グルルルゥゥオオォォォォォォォン!!!!」っ!!?なんだ!?」
「うわぁ!?なんの音ですか!?これ!?」
「代金置いとくぞ店主!お前ら武器を持てぇ!」
「「「おう!!」」」
夜の都市に響き渡る咆哮、静かだった都市に混乱した住民達の声が聞こえ始める。衛兵達は森から魔獣がやってくると考え、門へと走り始める。
「クソッ!お前は住民の避難誘導をしろ!私は衛兵達と冒険者達に合流し指揮をとる!!」
「ミリアムさん!お気をつけて!」
「俺らはギルドに待機しといて良かったぜ。ダストの兄貴ほどではねぇが、ついて行きますぜ!ミリアムの姉御!」
「よし!お前達ついてこい!」
「「「「おう!!」」」
ミリアムはギルドにいた冒険者達を引き連れて門へと向かう為にギルドの外に出た。
まだダストが戻ってないが、それでも衛兵達や冒険者達は日和見な都市長官やギルドマスターと違い、様子の違う森を警戒していたし、大きくは無いが壁だってある。森から魔獣が溢れてきたとしても、少しは籠城できるだろう。時間が経てば近隣都市から援軍だって来るだろう。
余裕では無いが、切り抜けられる筈だ。そうミリアムは考えていた。
だからこそ、目の前の光景がミリアムには信じられなかった。
「…………は?」
「なんだ、こりゃあ……」「炎の風が、壁を覆ってる……」「どうなってんだよこれ!?」「俺が知るかよ!?」
都市を囲う壁をまるで薪にするかのように、燃える暴風が壁を造っていた。その燃える暴風は誰一人逃がさないと雄弁に語るように存在していた。
さて突然だが、異常事態が発生する時に必ずあるものはなんだろうか?
答えは簡単だ。
異常事態の発生には、"原因"が必ずあるのだ。
「グルルルゥゥオオォォォォォォォン!!!!」
「っ!!?あれは!?ま、さか……っ!」
燃える暴風に煌々と照らされ、夜空を飛翔する影。今まさに辺境都市フィリフィスを襲う"厄災"にして、今なお謡われる伝説上の存在。
"黒竜"が、夜空を舞っていた。
「黒竜、なのか!?」
「冗談だろ!おいウソだろ!?」「救世主伝説に登場する邪竜、実在したのか!」「相手が竜種ってヤバくねぇか!?」「ヤベェんだよ!勝てるわけねぇ!!」
都市にいる者達は皆が呆然としていた。突然の襲撃、その相手が伝説の存在だったのだ。大抵の者は呆然とするだろう。
夜空を暴風に乗って舞うように飛翔する黒竜は、都市の中央である広場の上空に留まり、自身の周囲に魔力を巡らせ始める。
「何かする気だ!奴を止められないか!?」
「無茶言うな姉御!?あんな上空じゃ無理だ!」「魔術師なんかこの都市に居ないぞ!!」「じゃあお前の弓はどうだ!?」「届くわけねぇだろ!!」
魔術師でないミリアム達では魔力を感じ取れないが、黒竜の動作から何かをするつもりだとは分かった。
しかしこの都市にそれを止められる者は居なかった。
「グルルルルゥゥゥゥオオオオオォォォォォォォォォォォォン!!!!」
一切の邪魔が入らなかった為、かなり早くその魔法が完成した。
エレフセリアの周囲にある魔力から岩が生成され、その岩を炎が覆い、暴風に打ち出される。暴風に押される岩は重力により更に加速する。そんなものが無数に撃ち出された。
端的に言えば……隕石の雨、流星群だ。
「っ!?避けろぉぉーーー!!」
「うっおぉーー!!」「うぅぅわぁーーー!!」「ああああ死ぬぅーー!!」「むちゃくちゃだこんなの!!」
都市中に落ちる隕石により、市民達は一気に恐慌状態へと陥った。建物に逃げこんでも建物ごと隕石に潰されて燃える。都市から逃げようとした者は炎の暴風壁に焼かれて死ぬ。冒険者や衛兵達も必死に攻撃するが、高空を舞う黒竜に矢は届かず、無念を抱きながら炎に焼かれ岩に潰された。
「クソッ!ギルドが!」
冒険者ギルドも隕石の直撃を複数回受け、倒壊した。中にはまだ職員や酒場の店員がいたが、この有り様では全員死んでしまっただろう。
「ミリアムの姉御!逃げ場がねぇぜ!?」
「そんなこと分かってるっ!!……っ?なんだ!?」
人々の悲鳴と怒号の中に、明らかに違う音が響いている。その音は悲鳴の様に高い音ではなく、怒号の様に低い音でも無かった。
その音は、高空から風に乗って都市中に響いていた。
「クルルゥ♪ルルゥオォォン♪クルルルルル♪」
音の主は空を飛翔する黒竜だった。黒竜は楽しげに空を舞いながら、喉を鳴らしていた。
いや…………
「アイツっ!笑ってる!!」
「クルルゥゥゥ♪クルルルル♪クルル♪」
黒竜は、都市の惨状を、人々の恐慌を見て、笑っていた。楽しんでいた。嘲笑っていた。
それが分かった瞬間、ミリアムの怒りが爆発した。
「貴様ァァーーー!!降りて私と戦えぇ!!殺してやる!!」
「姉御……っ、降りてこぉぉぉい!!びびってんのかぁ!!あぁ!?」「直接戦うのが怖いんですかぁーー!!」「頭かち割ってやんよぉ!!」「掛かってこいよぉ!!」
ミリアムと冒険者達が広場に出てそれぞれの武器を掲げて叫ぶ。それを見た戦える者達もまた、広場に集まり各々の武器を掲げて叫び始めた。「竜よ、我らと戦え」と。
その戦士達の叫びを聞いた竜……エレフセリアは…………
「クルルゥゥ♪グルルルゥゥオオォォォォォォォォォォォォン!!!!」
戦士達の叫びに応える様に咆哮し、降下を開始した。
「っ!降りて来るぞぉーー!!弓使いはありったけの矢を放て!空に逃がすな!!剣士達は奴の翼を切り刻め!!盾使いは奴を自由に動かさせるな!!」
「「「「「「おう!!!」」」」」」
「グルルルルルゥゥゥゥオオオオォォォォォォォォォォォォン!!!!」
燃え盛る都市の広場にて、希望の見えない決戦が始まった。




