8-13 四天王戦 完
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戦国の矢のように降り注ぐ半誘導ミサイル弾を己の脚力のみによって回避し続けるリンは心の中でこう思った。今の状況はまるでハリウッド映画のようだ、と。
シロとのデートの際に時折見るそれの主人公たちはこういった危機的な状況を超えた後にヒロインと抱き合ってキスをしていたように思う。その気になった。終わったらキスしようそれも長いやつ。
砲火を避けつつ相方の可愛らしい反応を想像してリンは気持ちのいい笑みを見せる。とはいえその輝かしい未来に辿り着くには済ませてしまわねばならないことがある。彼女はミサイルの発生源へと声をかけた。
「サメのアーク!まだ終わらないのか!?いつになったら破壊できる!!」
僅かに叱責を含んだ言葉に抗議の声が返されたそれは巨大怪虫の、その中から電撃音と共に聞こえて来る。
「ああ!?こっちは忙しいんだよ!文句があんなら乗り込んできて手伝いやがれ!」
アークの声だ。彼女は操縦者不在となった機械怪虫のコクピットに乗り込み内部から攻撃をしかけていた。ラムルディがいない分火力は落ちていたが内部は外部と比べて格段に攻撃が通りやすい。ひたすら暴れてボスの体力を削っているのだが何分体力が多く倒せてはいない。正直さっき出ていった連中が帰って来ても倒せてなかったらどうなるだろう。文句いわれるかな?とか考えている。
「そんなことをすれば逃げ場のない閉所で天井から襲い来るミサイルの集中砲火を受けるぞ。貴様がまだ生きているのは私が攻撃を一手に引きつけているからだと知るがいい……いや待てよ」
ミサイルを右に左にと躱しながらもリンは顎に手を当てて頭をよぎった事柄について思案を巡らせる。自分に危険はなし。シロにも影響は及ばない。上手くいけば早く終わるかもしれないし帰ってくる前に終わらせておけばシロは惚れ直してくれるかもしれない。ならば実行に移すのみ。
「気が変わった。私も今からそちらに向かうぞサメのアーク」
「は!?ちょ!?……オメーそれやったら共倒れってテメーで言ったばっかだったろ!?くんなくんな!」
アークは慌ててリンを追い返そうとするものの相手は爽やかな声でそれを投げ捨て。
「私は問題ない。貴様もまあ大丈夫だろう。脱出の準備だけはしておくといいんじゃないか?ではいくぞ」
「聞け!」
リンは無視した。直近に迫ったミサイルを回避すると転身し逆に怪虫に向って疾走を始めた。当然発射されるミサイルとは互いに近づく関係上これまで以上に回避が難しくなるはずだが慣れを得た彼女にとっては容易いことだ。軽々避けて後ろに引き連れて走る。
怪虫の眼前までたどり着くとミサイルをギリギリまで引き付けてからサイドへと退避。ミサイルの角度は確認済み。上手く擦り付けた。着弾する。
「おおおおおお!?何やりやがったテメー!?」
「別に?貴様を手伝ってやっただけだ」
言い捨てたリンは同様の方法で次々にボスにミサイルを着弾させていく。それもアークのいる内部には入りこまないように調整してだ。とはいえ衝撃で内部が揺れるのは止まりはしない。
「テメエ!ほんとイイツラしてやりゃ何でも許してもらえると思ってんじゃねえぞこの鳥頭が!」
「なんだと!?貴様は本当に口が悪いなサメのアーク!少しはシロを見習ったらどうだ!?」
「アイツとアタシそんなに口調変わんねーだろが!!」
「シロの語彙はウェットに富んでいる一緒にするな!意味はたまにわからないが」
「通じてねーじゃねえか!」「なにぃ~!?」と怒鳴りながらの応酬を続けつつも両者は手を緩めない。褒められたいものと怒られたくないもの。感情の方向性は逆でも求める結果は同じだった。
仲間が戻って来る前にさっさと終わらせたい。その一心が巨大怪虫を打ち砕く。
【────!!】
「やばいやばいやばいやばいシンアーク!」
HPゲージが尽き崩壊を始めるコクピット内部からアークは天高く飛びあがった。真下では巨体に相応しい派手な爆発が巻きおこっている。
今からあそこに着地するのか。炎耐性あるからまあいいけどなーなどと火災を眺めていると何かに掴まれたような感覚と共に落下が停止したのを感じる。
「あん?」
「お疲れ!なのだアーク……そして……重い……の……だぁ……」
彼女の体を空中で捕まえたのは羽を生やしたメアだった。彼女は力んだ真っ赤な表情でアークを支えている。
「あああメア殿ぉ?そんなに重いんでござったらやランカが運ぶでござるよ~?」
「オメーら何さっきから重い重い連呼してんの?軽いだろアタシ!」
「重いのは放っておいてはよう合流しようぞ。あまりなごう飛んでおると翌日肩が凝るでな」
「お、あいつ手ー振ってやがる……さっさと降りてやるか」
途中アークが暴れたが無事パーティ全員が合流することに成功する。合流直後にリンがシロにディープなキスを行い風紀が乱れたが後はいつも通りレベルアップの恩恵を互いに確認したりドロップアイテムの鑑定を行っていた。そのようにしていると王城の方から兵隊たちを伴なった身なりの整った老紳士が現れた。
彼はアークたちの前で跪くと。慎重に言葉を紡いだ。
【あの四天王を撃退されるとは……あなた方こそ伝説に語られる勇者様だとお見受けいたします。王が直々にお礼がしたいと申されておりますのでどうか共に王城へとお越しくださいませんでしょうか?】
誰に相談するまでもなくお礼の二文字に釣られたアークによって一行は王城へと向かうこととなった。