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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第八話「0と1を超えて」
93/134

8-11 四天王戦

             ♦

「たく。なんだよこのバケモンは……昆虫型の戦車ってやつか?」


 騒動の大元まで駆け付けたアークたちはその威容に圧倒されていた。

 遠目に見てもなお巨大に感じた影は間近で見るとその比ではない迫力を持つ。何の感情も魅せない無機質な昆虫の顔は怖気すら感じさせた。同じ巨大ロボであるマーリンとは親しみやすさが余りに異なっている。

 これは明確に敵のデザインだ。そう判じたアークは無人の廃道を行く甲殻戦車の前に立ち塞がる。するとこれまで前進を続けていた戦車は脚を止め、代わりにくぐもった合成音声が発せられる。


【私は魔王軍四天王が一人。重翔双士デスピナ。この惨状を見てなお私の前に立つとは……どうやらお前が勇者で間違いないようだな】


「四天王ぉ?」


「ああ、魔王直属の強大な戦闘力を持つ四人の幹部のことを言うらしい。馴染のある言葉が出てきていよいよゲームっぽくなってきたろ」


「つまり敵が堂々と人類の本拠地まで攻めて来たというわけでござるか」


「みんな!集まったのだ!」


 騒ぎを聞きつけたパーティメンバーたちも加わり万全の構えで目の前の敵を迎え撃つ。【いいだろう。王族共の前にまずは魔王様にあだなす貴様らから大地の元に還してやろう】

 その言葉を契機にデスピナと名乗った怪虫は再び蠢きだした。大地が犇めき、巨体が侵略を開始する。対するアークたちもそれぞれ武器を構え迎え撃つ。


「ジョブチェンジしてから初のボス戦じゃあ!みなのもの、闇の力を得た吸血鬼の真の力を存分に拝謁するがよい!」


「あ、馬鹿!」


 陣形からいち早く躍り出たのは暗黒騎士となったラムルディだった。彼女は呪文の準備を進めつつ新調したハルバードを振りかぶる。


「黎明覗きのヒュンメル!!」


 デスピナの側面に向って振り下ろされたハルバードの軌跡を後追いする形でラムルディの背後から顔を覗かせた暗い闇が溢出した。

 見た目通り相当の防御力を備えていたデスピナには斬撃は殆ど通らなかったが、それに付随した闇は別だ。景気のいいダメージ表記が発生しラムルディは自慢気に口の端を釣り上げる。


「どおーじゃこれが暁の簒奪者の力よ。毎度通話のたびに暁の散逸者だの垢すりだのと呼びおってからに。反省せよ」


「簒奪者うえうえ!」


「ん?ぬおおおおお!?」


 ラムルディが顔を上げると視界に飛び込んで来たのは実に現代チックな小型ミサイルの数々だった。彼女は爆風に晒されながら大慌てでパーティの元に逃げ帰ると荒い息を吐いた。


「おかえりなのだ。回復なのだ~」


「はあ……はあ……ただいまじゃ。なんじゃあ折角人が気持ちよくロールしておったというのに無粋な敵じゃのう!」


「NPCで敵だからな。こっちのこだわりなんざ考慮してくれねえよ。それにそんなもんはプレイスキルで押し通すもんだぜ?」


「特化ではないとはいえ近接職のラムルディ殿のHPの減り具合を見るに中々の威力でござるなあ。範囲も広い」


「安心しろ。攻撃は全て私が受け持つとも。そのための転職。そうだろう?」


「んじゃ相手の攻撃パターンを見つつ……アタシは攻めんぜ!」


 攻撃を回避しながらの作戦会議を終え勇者一行はそれぞれ持ち場についた。まずパーティの盾役であるリンがヘイトを集めるスキルにより敵の攻撃を集中して受け持った。襲い来る弾幕を彼女は持ち前の戦闘技術で流し、防御力で受けとめ後ろに通さない。

 リンに守られた後衛はランカの攻撃範囲の広い魔法とシロがSH能力、GAMINGSWITCHのGUNSHOOTINGモードの銃撃によって弾幕を薄くし、メアが回復をかけることで盾役をフォローした。

 アタッカーはアークとラムルディ。二人は両サイドからそれぞれ多彩な属性攻撃を交えた近接攻撃で敵の装甲の薄い部分、脚関節を狙って攻撃していた。ミサイルなどの遠距離攻撃の大部分はリンが受け持っているとはいえ油断できるものではない。時折飛んで来る鎌のような伸びる手による攻撃も読みづらく厄介だ。しかし退かない。それは自分たちこそがこの場の攻撃の要であることがよくわかっているからだ。ゲームの集団戦において役割の順守は非常に重要。一度役割が崩れればそのまま全滅が見えて来る。アタッカーは一秒でも早く戦いを終わらせることでその可能性を低くすることができる職だ。遂行する。

 戦いを続けていると見えて来るものがある。それは敵の攻撃パターンであったり攻撃のよく通る属性、部位であったり設定された勝敗条件などもそうだ。

 敵の巨大セミの幼体は戦闘を開始してから一切左右方向への転身を行っていない。いいかえれば攻撃の回避もせずにただ真っすぐある一点を目指して侵攻しているといえる。それは一つの戦闘条件を意味していた。


「この先には王城がござる……この怪虫が踏みこめば城壁など粘土のようなものでござろう。つまりやランカたちが全滅していようがいなかろうが奴さんがそこまで辿り着けばその時点でゲームオーバー。時間制限付きのバトルなのではござらぬかこれ?」


 城が蹂躙されたとてこれはゲームなのだ。リアルだが恐らく人が死ぬわけではないし支援を受けていたわけでもないので今後の旅にも不都合はそこまでない。だがゲームだからこそ強制的にゲームオーバーという処理を取られる可能性もなくはない。その場合自分たちがどうなるかはあまり考えたくはないとランカは思う。敵をラインの奥に行かせてはならない。

 今は戦闘開始地点から王城まで半分も来ていないところだ。このペースで削っていけば何とかなる。とはいえ敵は四天王。魔王軍幹部だ、どんな奥の手を持っているかわからない。ゆえにマージンをとっておきたいのが総意だ。シロが動く。


「リン、ちょっときつくなるけどちゃんと耐えろよ?絶対だからな!」


「誰に言っているんだシロよ?私は必ずお前の元に帰って来るとも。気にせずやりたいことをやるといい!」

 リンの頼もしい返事を聞きシロは腰の十字キーを弾くように操作していく。今必要なのはパートナーの身を守る力ではなく敵の進行を遅らせる力。すなわち。

 GAMECHANGE! PUZZLE!

聞きなれぬ男の声が異世界に木霊するとシロの手にしていた赤と青の二丁銃は姿を消し、代わりにその頭上には多色のアイコンが配置された半透明の板が現出した。まるでパズルゲームの操作画面のようなデザインである。

 画面の上方からは下に向って色ごとに形状の異なるアイコンが落下していくがシロはそれを指運によって操作していく。同色を一定数纏めることで弾けるようにアイコンが消失。アイコンの山が崩れ連鎖的に消失現象が重なっていった。するとどうだろう現実に変化が訪れた。街を我がもの顔で闊歩する巨大怪虫の頭上に先程ゲーム画面上で消失したアイコンを丁度透明にしたような物体が雪崩のように降り注ぐ。


「何なのだ……!?ボスの侵攻がゆっくりになったのだ!」


 GAMINGSWITCHにて現在選択できる5つのゲームの一つであるこの能力はゲーム画面で消したアイコンの数と連鎖ボーナスの数に対応した荷重を相手に与える。一つ一つの透明アイコンは大した荷重を与えはしないが粘着性のあるそれが重なっていくと次第に自重にすら耐え切れなくなる。使用者が無防備になってしまう欠点を除けば優秀な能力だ。そしてその欠点は守り長けた相棒によって問題になどなりはしない。


「流石にパワータイプ。この程度じゃバタンキューとはいかねえか。ならもっと派手な連鎖して荷重が天井衝くまで重ねてやるよ!」


 荷重が積み重なるごとにボスの動きは鈍る。それは当然攻撃も通しやすくなるということだ。好機とみたアークとラムルディは一気呵成と大技を連発させた。敵のHPが徐々に、しかし確実に後退していったその時だ。デスピナが動いた。


【なるほど。これが勇者の力か……これは力圧しでは目的を達するのは難しいようだなならば】


「何だ!?背中が割れ開いていく……気を付けろ!内部から何か出て来るぞ!」


 リンの警告通り想像以上に特撮兵器のパイロット席じみた内部構造の中から人型の影が姿を見せる。

 近未来的なボディスーツに身を包んだ女性のような柔らかいボディライン。ここまではさしてこの世界の人間と差異はない。だが背に生えた双の茶羽と長い口吻を始めとした蝉の成虫そのものな頭部が明確に人外の存在であることを示していた。

 異形の女は眼下の勇者たちを軽く一瞥すると、その羽を震わせ天へと舞い上がっていく。


「逃げんのか!?アーク……うぉ!?あぶね!」


 その動きにいち早く気づいたアークが竜巻で叩き落そうとするも主を失ってなお稼働する怪虫の鎌によって阻まれる。もう間に合わない。


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