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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第八話「0と1を超えて」
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8-8 隠された因縁

「ったく。なんなんだよアイツらはよぉ~!!」


 アークは心底頭に来ているというように大股で王都の市場を歩いていた。そんな彼女を周囲の仲間たちが宥める。


「まあまあ。ゲームだからといってアポなしで突撃したのはやランカたちでござるから」


「常識的に考えて突然現れた勇者と名乗る不審な輩を王族の元には通さんだろうな」


 彼女らが先ほどまで訪れていたのはこの王都の中心、王族の住まう王城だった。魔王に関する情報を少しでも得ようとするための行動だったが案の定入り口にて凄まじい反復横跳びをみせる兵士たちによって謁見を阻止されてしまったのだ。今は渋々追い返されさてどうするかというところなのだが。


「流石にゲームで王都まで来て王城をスルーするということもないと思うんじゃがな」


「んー、アレじゃね?王城に入るフラグが立ってねえんじゃねーか。あたしらまだ王都に来たばっかだろ。いってねーとこがあるわけだしさ」


「みんなで手分けして王都を探索するのだ~」


「二、三日ぐれーやってもなんもなけりゃ夜に無理矢理忍び込んでもいいしな」


 アークが補足したメアの提案に皆が頷くと、彼女たちは三組に分かれてそれぞれ王都の探索を行うことになった。


              ♦


 カジノ。それは一夜にして巨万の富が動き欲望に囚われた者たちが破滅を迎える嘘栄に満ちた楽園。


「はっはぁ!ジャックポットォ!!またしてもランカ様の大勝ちだぜぇ!でござるぅ!」


 そんな場所にイキリ散らかしたオタクはいる。彼女は普段装着している分厚い伊達眼鏡を外し凶悪な面構えで周囲を威圧すると荒っぽい動きで周囲から賭け金を回収した。彼女の獲得したチップは既に両手に抱えるのにも苦労する程だったが、カジノ特製チップ入れは持ち運びの不便を一瞬で解決する。袋を開けるとランカのチップは瞬く間に吸い込まれていった。

 チップをしまい込むと彼女はテーブルを離れ次の獲物が待つ池を探し始めた。元々リクの元で借金取りから労働所の監督、カジノのディーラーまで務めるランカにとってこの場所はいわばホームのようなもの、どのようにすればチップを効率的に増やせるかなどはよく熟知している。水を得た魚のように賭場を荒らして回った。気が大きくなるのも無理からぬことだ。


「さてお次は……スロットか。悪くねぇ、でござる」


 ランカはドスリと無遠慮に座席へ腰を下ろすとスロットマシンにチップを入れてやる。

 動き始めたスロットマシンは高速で次々に異なるイラストに切り替わるが換歴特有のプラズマや真空が発生するほどの勢いで回転するものに比べると非常に優しいとものといえた。SHであり手慣れているランカであればいとも簡単に目押しが可能。スロットマシーンは際限なくチップを吐き出す機械へと成り下がってしまった。


 「ハッハハハハハ!ヌルゲ~にも程があるぜぇ~でござるぅ!さあ中身がなくなるまでどんどん吐き出してもらうじゃねぇかぁ、でござるぅ」


 欲深いものなら誰もがうらやむであろう光景に下卑た高笑いを上げるランカ。普段とは異なり近寄り難い空気を纏う彼女の横に優雅に腰掛けるものがいた。


「ふむ、これがスロットマシーンか。私には縁遠いものだと思っていたがせっかくの機会だ試してみるとしよう。ランカ、私にやり方を教えてくれないか?」


「あぁん!?ゲ、リアじゅ……リン殿でぇござるかぁ……」


 ランカに声をかけた爽やかなイケメンはリンだった。ランカは先程までのオラオラとしたオーラは鳴りを潜め渋々スロットの遊び方をレクチャーしていく。


「なるほどこうやって絵合わせをしていけばチップが吐き出される仕組みになっているわけか……ふむ、ふむ、なるほど単調だがこれで金銭が増えていくのならば身を崩すものがいるのもわからないでもない」


 戦闘を主とするSHであるリンにとっても目押しはさして難しい技術ではないのだろう自身と同じようにチップを溢れさせていく彼女をランカは得意分野を侵されたオタクのように苦々しい目で見る。

 そんな視線を知ってか知らずかリンはぽつりとランカへと声をかけた。


「ようやく二人になれたな、ピラニアのランカよ。よもやこんな形で君と会うことになるとは思ってもみなかった。ワニのリクは健在か?」


「あ~……やっぱりリクちゃん様の話になるでござるか……こうなりそうだったからこの組み合わせは避けたかったんでござるがなぁ……」


 王都探索の組み分けはメアの鶴の一声によってアーク・メア、ランカ・リン、シロ・ラムルディとなっていた。ランカを筆頭に不平も上がったがメアは断じて受け入れず「これからのために親睦を深めるのだ」という一言で一蹴した。

 カジノへはイベントフラグ立て兼旅の資金集めとして二人で訪れていたのだが、ランカはリクの話題を出すのを避けるため、リンのキラキラオーラを避けるため着いて早々別れてゲームに興じていたのだ。

 とはいえ直球で話題に出されてしまっては答える他ない。


「そうでござるな。リクちゃん様はやランカがこの世界にやって来る前日も打倒アーク殿を目指して訓練に励んでいたでござるよ。あのミニマムサイズが訓練場で懸命に汗を流す姿は極上でござった……薄着なので色々とチラ見えするのでござるよな……ぐふ、ぐふふふふふ」


「そこまで聞いていないのだが……君、少し気持ち悪いぞ」


 ねっとりとした声にリンが少し引いているとランカは正気を取り戻し警戒した様子で話を続ける。視線は相手の鋼鉄の腕に落ちている。


「その腕……やはりリクちゃん様を恨んでござるか」


「奴との争いによって腕を失ったことで私は一度絶望の淵に立たされた。恨みはないなどとはとても言えぬさ」


 リンは獲物を見据えるような厳しい視線をランカに向けて飛ばし宣言する。


「奴に伝えておけ。いずれ借りは返す、とな」


 遥か格上から放たれる射殺すかのような眼光に身を竦めさせながらもランカは眼鏡の縁を上げ、真っすぐに視線を返した。


「リクちゃん様へ危害を加える気があるならばこのやランカ、容赦はせんでござるよ。幾度蹴り砕かれようともゾンビの如く蘇りその道程を阻もうぞ」


「ほう?」


 リンは興味深げな声を上げるとその温度を感じさせない鋼鉄の腕でランカの顎を掴むと力強く引き寄せる。


「面白いな。戦闘系でもない君がこの私を止めるというか」


「か、顔がひい……!!」


 ランカは超ド級の王子様フェイスに至近距離で見つめられ声にならない悲鳴を上げるが視線は決して外していない。しばし見つめ合うとリンの口元から微笑が零れ手が離される。


「な、ななななななななんでござるか今の意味深なスマイルは!?イケメンの余裕でござるか!?オタクを舐めてるにござるかぁ!?」

 顔面兵器の威力から解放されたランカは慌てて距離を取ると早口でまくし立てるが当のリンは柔らかく応じた。


「いやなに。ワニのリクは気骨のあるいい部下に恵まれたなと思ったまでだ。どうやら奴への雪辱を晴らすには大きな障害が立ちふさがっているようだな。用心するとしよう」


「むう……何だかやたらむず痒いでござるな」


 雑に扱われ慣れている身で慣れぬ賛辞を贈られたランカは居心地悪さを誤魔化すようにスロットに向き合い再びチップを稼いでいき。リンもまたそれに倣った。

 二人でチップの落ちる音を流していると落ち着きのないランカがおずおずと言葉を切り出す。


「……やはり、苦労されたでござるか」


「当然だ。だがおかげで得たものもある。私は以前より遥かに強い力を身に着けたしシロとの穏やかな生活を手に入れた。出会いもあった、この腕は忌刻十二支である─」

 リンが言い終わる前にカジノの奥の扉が乱暴に開かれる音がホールに響き渡る。見れば扉からは黒い衣服に身を包んだ屈強な人間たちがわらわらと姿を現していた。

 彼らを指しリンは率直な疑問を呟く。


「何かの出しものか?それにしては随分とものものしさを感じるが」


「イベントには間違いないでござろうなあ。ランカたちは店にとって稼ぎすぎたのでござるよ。出ていく前に力づくで回収しようというやつでござる」


「なるほど」


 やりとりを重ねながら二人は席を立ちできるだけ広い場を陣取った。敵の数は多い、味方は一人だけ。しかし、この程度では恐れは得ない。


「攻撃はやランカにおまかせでござる。雑魚狩りのやランカ様の力を見せつけてやるでござるよ」


「では私が君を守るとしよう。この世界から帰還するまでは君たちの無事は私が保証するとも。下卑た輩に指一本触れさせはしない」


 呉越を乗せた舟が賭場を征する。


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