1-9 ありがとーなのだ
「あー、ばっちぃばっちぃ。どっかで手ー洗わねーとなー」
事を終えたアークは濡れた手をパッパッとスナップさせて手を乾かす。目立った水滴が飛びきったのち彼女は笑顔で後ろに振り返る。
「おーし。メア、もう大丈夫だ……ぞ……」
そしてアークは見る。そして絶句した。
巨大な鳥類の翼を生やしてパタパタと浮かんだメアがそこにいたのだ。若干頬も紅潮している。
「お前……まさか……飲んだのか?」
「そのとりなのら~。そしたら。は、はえてきたの~~ら。はははははは」
見ればメアの足元には空になったミキサー容器が転がっている。そして若干アルコール臭がする。間違いなく酔っている。
葡萄のアルコール操作とオレンジの鳥翼獲得能力の影響をもろに受けた悪ガキが誕生した。
「おっ……まえ!馬鹿!アホ!ガキ!メア!!そんな得体の知れねーもん飲んでんじゃね~!!」
「ふふふ~今日はもうこのまま飛んで帰っちまうのら。楽ちんなのら~」
「母ちゃん卒倒すんぞ酔っ払い!」
その言葉にハッとなり未成年酔っ払いは羽ばたきを止め地面へと墜落する。
「そ、それはまずいのら~!何とかならんのだー!?」
「待ってろ今すぐ元に戻してやる!チェーンソード!」
「手術イヤ~~~!!!」
チュイイイイイイインというエンジン音と共に酔っ払いが泣き叫ぶ声が街に木霊する。
♦
<良く通る女性の声>
かくして一人と一匹は出会い。この世界の裏側に一歩足を踏み入れました、と。そんなところかな。
今回の事件はこんなところで解決だろう。しかしラムルディはとんだとばっちりだったね。ご愁傷さまってところだ。
ん?
おや、先ほどまで気付かなかったけど彼女たちの後ろ……死角に誰か……。
緑髪の、少女がいるね。近づけてみよう。
「あれが欠けた円環の継手の裏切者、アークですか……なるほど少しは楽しめそうですね」
そう呟くと彼女は行ってしまった。
僕も彼女たちを見ていればしばらく退屈はしなさそうだ。こんなところで今日の出歯亀は終わりにしようかな。
じゃあまた。
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太陽が落ち空は蝙蝠たちが幅を利かせる時間になった。そんな街中を一人と一匹がとぼとぼと歩いていく。
「結局夜になっちまったなー」
「なー」
「なー。じゃねえんだよ!てめえがあんな得体のしれねえもん飲まなきゃもっと早く帰れたんだよ!大体なあ……なんであんな場所入ったんだよ……。不法侵入だろ……」
呆れかえったような口ぶりで文句を垂れるアークの最もな質問にメアは口をとがらせる。
「アークが……やっぱりいいのだ」
「あん?アタシがなんだって?言ってみろよ」
メアは隣に並んで歩くアークから顔を逸らし。呟くように話す。
「アークがSHだからSH以外の友達はいらないって言うからSHを連れてきてやろうと思ったのだ!……でも失敗したのだ」
アークはメアの供述に惚けた顔をしそして
「言ってね~~!そんなこと言ってね~~あれはお前が面……「面!?」
「いや……いいや……とにかくもうあんな無茶すんじゃねーぞ。お前ちびでよわっちぃんだからさ」
「べ~~!アークの言うことなんか聞かないのだ~~!懲りぬ、退かぬ、省みぬなのだ!」
「あっ、テメ!」
舌を出し駆けだしたメアを追ってアークは走り出す。己についてくることに少しはにかむ。
「でも」
昨日から続いたモヤモヤはもうなくなっていた。笑顔で言う。
「助けてくれてありがとーなのだ!」
華のような笑顔を前にアークは。
耳の横に片手を添え、前に突き出してやる。聴こえなかったというように。
「ふざけんななのだー!耳にアークが詰まってるのだ!?絶対聴こえてたのだ!」
「あー?ガキは声もちっちぇいからなーんも聴こえなかったな~?んー?もっかい言ってみー?礼金でもいいぞ?」
「ホアッチョー!!」
「てめぇ手錠をヌンチャク代わりにするやつが……いて、いてぇ!このガキ……覚悟はいんだろうなぁ!?」
喧噪は続く。
SHs大戦第一話「アークとメア」
第一話完結です。こんなノリでドンドカやってまいります。