8-7 ジョブチェンジ
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道行く人々を呼び止めんと景気のいい文句が飛び交う賑やかな市場、様々な種族の人間が共に暮らす住居、彼らが信仰する神を祭った荘厳な神殿、そしてそれら全てを統括する王族の住まう王城。あらゆるものがこの王都には揃っていた。
幾つかの村とダンジョン、そして海原を越えてアークたち勇者一行もまたこの人種のるつぼにやってきていた。ここにきたのはゲームクリアの為の情報集め、装備の更新そして一番大きい要員が……
「ジョブチェンジだ~!!」
王都に存在するハロワ兼神殿で手続きを行うとステータスなどに影響する職業を変更することができるのだ。人数が多いこのパーティにおいて個々の役割の明確化するのは必須といえた。それゆえ彼女らは王都に乗り込んだ足で真っ先に神殿に向ったのだ。
アークたちは受付で転職可能な職業が記されたパンフレットを受け取ると転職を前に相談を始めた。既に希望を決めている者たちから順に手があがる。
「私は聖騎士とやらに志望しよう。仲間を守ることに長けているというのが気に入った」
「護衛が本職なだけあって上手いでござるからなあ。やランカは肉盾の役割から解放されて殲滅術師という職にするでござる。多数を相手にするのはおまかせあれ」
まずリンとランカが決まった。次いで興奮気味に手を上げたのはラムルディであった。
「わらわはコレじゃ!暗黒騎士、これに決まりぞ!」
「ええ……おまえ直接戦闘系じゃなくて支援系だろ?止めた方がいいんじゃねえか?」
「なーにを言うておるか!暗黒魔法に強いフィジカル!これぞ吸血鬼じゃ。弱点属性が多いのもよいの!」
「ラムルディ殿はフレーバーにこだわる性質でござるからなあ。これは譲らんでござろう」
「ゲーマーとしてはわからんでもない。わったよ、バランスはあたしがとるから好きなのやりな」
「やった~!やったぞ~!!」
ラムルディが周りの気遣いで希望の職をゲットしたのを見たアークはここぞとばかりに自分の希望職を上げる。
「じゃーアタシは遊び……」
「「ダメー!!」」
言い終わる前からすかさず全員から止められるがこれにはアークも反抗し。
「何でだよ~ステータスは低いし戦闘だと役に立ちそうなスキルがねえけど幸運の値だけはたけーんだぞ!!」
「その幸運を言い訳にカジノやらに金を突っ込む気じゃろうお主……!」
「どれだけ運が良くなっても元がアーク殿ではすぐにすっからかんになるのは見えているでござるよ!」
「真面目に世界を救うのだ~!」
猛反対にあい真面目に戦士を志すことになった。残り二人。
「メアは白魔術師になるのだ。回復するのだ」
「じゃーあたしは野盗だな。トラップも最近多くなってきたし丁度いいだろ」
メアとシロもそれぞれ職を決定しそれぞれ別れて手続きを行った。
そうして目的を達したアークたちは次なら目的地に向かっていった。転職して新生活を迎える彼女たちにとって必須なもの。
「衣装変えじゃ~!!」
アークたちが向かった先は武器屋。武器屋といってもここ王都で取り扱われているのは単なる武器だけではない。防具としての機能も有した多種多様な衣服、アクセサリーも販売する巨大ブティックとしての側面も有していた。
彼女たちはここで新たな職に適した装備を購入し、また心機一転新たな衣装に身を包もうとしていた。今はそれぞれ好みの防具や武器を見繕って順に試着を行っている。
「終わったぞ!」
試着室から姿を現したのはラムルディだった。彼女は装飾過多なハルバードを手に鼻を鳴らすと自らの新衣装を皆にお披露目する。
「見よ。この深淵より帰還せし暁の簒奪者の新たなる装いを!かっこええじゃろう~!」
赤と黒に覆われた装飾の多い優雅なデザインの鎧は魔界の貴族が戯れに戦場に現れたようないでたちを見せた。これに対する周りの反応はまずまずで。
「いいんじゃね。暗黒っつーからもっと露出多いとなおいいな」
「ラムルディ殿らしさが出ていると思うでござるよ」
「かっこいいのだ~」
次に試着を終えたのはリンだ。
白基調の荘厳な鎧姿は潔癖さをアピールしておりともすれば衣装の神聖さに着るものが押されてしまいかねない代物であったが、モデル並みのスタイルを持ちホストやアイドルといっても十分に通る顔立ちの彼女はそれを完全に着こなしていた。
「ま、まぶしい……目が焼けるでござる……!」
「お、お前等……あんま見んな!見んなよ!」
「なんでネクタイつけてるのだ?」
三度目に試着室から姿を現したのはシロ。彼女は髪に巻いたターバンや口元を覆うマフラーに丈の長い衣服など極力己の正体を晒さないような隠密的なスタイルを見せる。
「ああ、シロ!普段と違うスタイルもまた格別に可愛らしいな……お前はいつでも私の心を奪っていく」
「最近あった知り合いに似て……ちょっと気分悪くなってきた……」
「イリーガルなのだ~」
その後に装備を整えるのはランカ。彼女は木製の箒に長帽子、黒いローブといったおおよそ世間一般の人が魔女と言えばこうという衣装をチョイスしていた。
「クラシック魔女スタイルじゃな。なんだかんだと言って伝統を重視しおるのう」
「様になっているな。深い知性を感じさせる」
「オタクなのだ~」
五人目はアーク。長剣を携えた彼女は軽装の上に胸当てや肘当てなどを装備した動きやすい衣装を身に纏っている。肌に多く刻まれた傷跡も相まって荒野をさすらう傭兵のような趣を放っていた。
「荒くれっぽくていいんじゃねーか?」
「粗野さがよく表れておるわ」
「アークはアークなのだ~」
そして最後のメアはシャーっと更衣室の布地を開けるとその愛らしい姿を現した。リン同様白をベースカラーとした法衣はちんまりとした彼女が着るとまるで雪の精のようにも見えた。更に彼女は心境の変化か髪を分け、ツインテ―ルスタイルを見せている。
「うむ、愛らしいいでたちだな。こういった娘を迎えるのもいいのではないかシロよ?」
「突然ぶっこんで来るんじゃねえ!」
「馬子にも衣装というやつじゃのう」
「くっ、写真に収めてリクちゃん様に献上すれば好感度を稼げたものを……!」
などSHたちからも好感触だ。その中でもアークは何かを思考しているかのように黙りこくるとどこかに行ってしまった。
「アーク殿?」
「どーしたのだアーク。気にいらなかったのだ?」
しばらくするとアークは仲間たちの元に戻ってくると不安そうにしているメアと視線を合わせるとその前髪に何かをつけてやる。
「ん、これ合うんじゃねって思ったから取ってきた。どうよ」
メアの髪につけられたのはアクセサリー、星があしらわれた髪留めだ。メアはパタパタと試着室の鏡の前まで足を運び自らの姿を認めると顔をほころばせる。
「ほぉー、なかなかよいのだ褒めて遣わすのだアーク!」
「へいへい。じゃこれで買うか」
「「お~」」