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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第八話「0と1を超えて」
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8-6 パーティ結成

ランカたちが凶刃に晒されている中、アークはより凶悪な脅威に晒されていた。それは脚そして鍵爪。リンの刃物よりも鋭利な蹴りが幾度もアークの身を打ちすえていた。


「ガッハ……!?こいつ……!!」


「SHたちを次々に返り討ちにした強者と聞いていたが……この程度か」


 敵の落胆を隠そうともしない言動に歯を噛みしめながらもアークは冷静に敵の戦力を分析していた。

 現状こちらの攻撃は一つも通せていない。鋼鉄の腕とそれ以上の強度を持った剛脚によって全て捌かれてしまっている。対して向こうの攻撃は的確にこちらを捉えていた。実体のない炎のように揺らめく変幻自在さと業火のような威力を合わせ持つ蹴りはそれだけしか使用していないという前提をおいてなお脅威の一言であった。

 回避不能、防御不能の蹴りを更に殺人的にしている要員がある。それがリンの足先の異形。ヒクイドリの特徴を有した彼女は三本の指を持ちうち一つに名刀よりも鋭い爪をたたえていた。 

 強化態。自身の動物的特徴を通常よりも一時的に強めるSH特有の戦闘技法である。社会に溶け込む必要のあるSHにとって擬態は基本技能であるが強化態を、更に戦闘に応用できるものはそう多くはいない。少なくともアークにはできない技能だった。それをリンは使いこなしていた。

 レベル差のない現実世界ならとっくに死んでるかもなと自嘲しつつ。アークは眼の前の敵をアルトリウス以来の格上と位置付けた。だからといって少しも気後れなどしない。こちらは悪夢のような人鬼を超えたのだ。アレより恐ろしくなれるのであればなってみればいい。


「さっきの反応を見るに随分と炎が嫌いに見えるなぁ?」


「だったらどうした?」


「テメェの大嫌いなもんで囲ってやるっつってんだよ!アークネード!んでぇシン・アークだ!」


 風の結界で自身でと相手を一瞬で閉じ込めると流れるようにアークは竜巻に炎を纏わせる。対殺人鬼における決定打となったコンボ。だが今ここにいるのは人間ではなく超常の力を振るうSHだ。リンは少しの焦りもみせることはなくただ不快を現す眉を作るだけだった。


「何をするかと思えば見下げさせてくるものだな。量を用意すれば私の腹を満たせるとでも思い上がったか?私を満たせるのはシロだけだ。見ろ!貴様の用意した粗末なジャンクフードなど瞬く間に平らげてやろう!!」


 二人を取り囲むように展開されていた炎の渦だったがリンの完食宣言と共に急速に形状を保てなくなっていく。大炎の行き先はただ一つヒクイドリの嘴だ。無間の闇に落ちるようにとめどなく吸い込まれていく。

 リンの炎喰いに温度や質に対する限度はない。場合によっては昼天に座す日輪すらその腹の内に収めてしまうことが可能であろう。だが一瞬のうちに食すことができる量については吸引口が小ぶりな口唇であるため制限が存在していた。アークが放った炎を完全に吸いきるまでは2秒程はかかるだろう。それだけあれば戦闘を主とするSHであれば余裕を持って一手を打てる。

 炎を喰らいつつもリンの戦闘の構えには一分の揺らぎもない。そんな彼女だからこそ自らに集まる炎の海から突然鋭利な刀剣が飛び跳ねてきても冷静に回避することができた。だが対応できたのはそこまでだ。彼女の横っ面にはアークの拳骨が叩き込まれていた。


「ぐッ!?貴様……!!」


「ははっ。パーフェクトゲーム失敗だなおい!わかるぜ~お前の気持ち。思うようにいかずについ投げちまいそうになるよな。ま、我慢してもこれから投了させられるんだけどな~」


 炎喰いによって規則的な流れを持って一点に集中した炎はリンからアークの動きを隠すのに最適なものであった。アークは手放した刀剣をアークネードで炎の軌道に乗せるとリンの顔面を狙った。後はそれに驚いた彼女の回避した先にシン・アークの加速で奇襲をしかける。ハンマーナックルがないため致命打にはなり得ないがレベル差により威力は十分。仕切り直しだ。


「どうやら私は少々貴様を侮り過ぎていたようだな。非礼の詫び代わりだ。我が師から受け継いだ蹴りの神髄。とくと馳走してやろうサメのアークよ」


「どんだけうめーもん持ってこようが代金はこれっぽちも払う気はねーぞナルシ野郎!」


 イーブンに持ち込まれたことによってかえって加熱する戦意の炎。それが互いを焼き尽くすそのまえに。


「やめるのだ~!!!!」


 児童の叫び声が高原を、夜を、SHたちを震わせた。

 音響系の魔法であろうか。脳を直接揺らされたような感覚を得たSHたちは一時戦いを止め声の主へと視線を向けた。

 声の主メアは両手を腰にあてご立腹を示すと遠くから続きを話始める。


「まったく!勇者同士で争うとはなんたることなのだ!同じ境遇なのだからちゃんと手を取り合うのだ!!」


 メアの言を受けリンはアークに向き直り訝し気に尋ねる。


「同じ境遇……?お前たちが私たちを排除するためにここに引きずり込んだのではないのか?」


「さっきから違うっつってんだろ」


「ほんとうか……?」


 なおも疑惑の目を向けるリンに相方のシロから言葉が寄こされた。


「信じていいんじゃねーか?色々不可解な点はあるがあたしが相手した連中からは積極的な攻撃の意思は感じられなかったからな。裏切りもんのサメ野郎はしらね」


「そうでござる~やランカたち”は”無関係でござるよぉ~!」


「そうじゃそうじゃ~わらわたち”は”無関係じゃ~」


 シロの保証を好機とみた二人はここぞとばかりに事件とついでにアークとの関与を声高に否定する。それを聞き入れたリンはじっとりした目でアークをみつめ。


「……やはり」


「だーっ!!アタシも関係ねーよ!おいオメーラ劣勢だからって何アタシを売ろうとしてんだ道連れだオメーラも!!」


「「しーらない!!」」


「大人しくするのだ~!!」


 もはや危険はないと判断したのか遠方ではらちがあかないと判断したのかメアはトテトテとSHたちの元までやってくるとアークとリンの手を取ると誓わせる。


「ほら、仲直り!なのだ」


「なんだこの幼子は……君もSHなのか?」


「メアはメアなのだ!」


「アタシの部屋にいたしょーがくせー」


 メアの言動に毒気を抜かれたのかシロに続きリンもまた肩の力を抜き深く息をつく。


「いいだろう。この娘に免じて話だけは聞くとしようではないか」


「おーおーエラそーに」


「こらアーク!ちゃんとお話するのだ!」


 アークがはいはいと気の抜けた返事をして誤解から始まったこの戦いは幕を閉じた。

 依頼の報告と夜を超すために村へ戻る道すがら彼女たちは自己紹介もそこそこに今に至る状況を話始めた。


「私とシロは同じ部屋でメルヘン……リング、だったか?」


「ゼルデンリンクな。そのゲームに繋いだら二人揃ってゲーム機に吸い込まれてこの世界にってわけだ」


「わらわといっしょじゃな」


「やランカともでござる」


「アタシらともだな。やっぱあのゲームが原因か」


「続けるのだ~」


 促しにシロがこの世界に来てからの情報を補足する。


「来てしばらくするとローブ野郎が出てきたのは見えてたんだがあたしはリンを探すことを優先した。すぐ見つかったけどな」


「我らの絆を考えれば当然のことだ。私はシロの居場所ならば例え千里離れていたとしても……」


「そういうのいいでござるから」


 リア充への憎しみ混じりのシャットアウトを受けしかたなくリンは続きを話した。

「その後はゲーム世界に興奮したシロが街中隅々まで探索してその全ての人間に声をかけたりしていると村に到着するのが深夜になってしまってな。村に着くと尻尾のある旅人がを出ていったばかりと聞く。急いで向かえば裏切者たちがいたというわけだ」


「あたしらはこんなもんだ。結局お前等なんでパーティ組んでたわけ?」


「え!?あ、な……なりゆきじゃあなりゆき……のう!」


「そ~でござる~偶然ローブを追って広場に辿りついたら遭遇したでござるぅ!知らぬ仲とはいえそこはSH同士未知の状況に対し協力するのが筋だと思い申してな」


 裏切者と親交を持っていたSHたちの誤魔化しにふーんといった視線を向けるシロだったがそれ以上の追求はなかった。リンも相方の意向に沿い何も言わない。それを好機とみたメアはある提案をしかける。


「さてお互いこの世界では敵同士ではないとわかったのだ。それどころか世界を救う勇者同士なのだ!ならばここはパーティを組むしかない!のだ!」


「え~こいつらとー」


「異議は挟ませんのだ~!!」


 不満を唱えようとしたアークの尻を杖でびしばしと叩き異論を封殺しようとするそれに対して他の面々は。


「まあ、実力は申し分ないし。入ってくれると助かるの」


「正直このパーティは戦闘系が少なかったでござるからなあ」


 肯定的な意見を受けた当人たちもやぶさかではなく。


「どうするシロ?私は二人旅でも望むところだが。こういったことはお前の方が判断に長けているだろう」


「完全に信用するってわけにゃいかねえがこれが他所のありえん。の攻撃の可能性だってある。取れる戦略は多い方がいい。加入するこれでいいな」


「うむ。なのだ」


 こうして新たに二人のSHを迎えたアークたち勇者一向は村に帰還し歓待と共に報酬をたんまりと受け取った。戦力と資金を調えた彼女らの次の行く先はこの世界の中心、王都。

 アークは期待に胸を膨らませ床についた。


「───ッ!───ッ!」


「シロッ──!シロ──!」


 が、別に眠れはしなかった隣室がずっとうるさかったからである。

 翌日、村を後にして広原を行く勇者一行の表情は対照的なありさまだった。メアを除いて目に隈を作った大部屋組とやけに肌をツヤツヤさせたリンとシロではテンションが異なり次第に歩測が乱れていく。それを不審に思ったリンが振り向き声をかける。


「どうした?先ほどから進行が遅れているようだが……もしや昨夜十分に休まなかったのか?道程はまだ長いぞ」


  あっけらかんと言葉にランカが呪詛のような声を絞り出した


「お二人とも……昨夜はお楽しみだったでござるな……」


 静寂な広原に真っ赤なオオミチハシリの甲高い悲鳴がどこまでも響き渡っていったとさ。


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