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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第八話「0と1を超えて」
87/134

8-5 vsリン&シロ

              ♦

 カイワレ平原の夜は時折発される獣の遠吠えを除けば夜風が草木を薙ぐ音だけが聞こえる静観な土地という設定だ。だが今夜は様子が違った。今平原に響くのは爆発音そしてそれに伴うガラガラという倒壊音であった。音と破壊が連鎖するその中から叫び声が聞こえて来る。


「あぁぁぁぁぁぁぁああああああ!早く早く早く早く!!」


 アークたち一行だ彼女たちは崩壊しつつある整備された通路をメアを抱えて全力で疾走している。這い寄る崩壊の足音に追いつかれぬよう必死だ。


「む、外からの明りが見えてきたでござるよ!」


「あ、あと少しじゃあ……!」


「じゃあお先にシン・アーク!」


「のぉだ~!?」


「「ズルイ!!」」


 出口まで一直線になるとメアを連れたアークはそうそうにジェット加速で抜け出してしまった。後に残された二人はちらりと顔を見合わせると一層必死な顔で加速する。残り六歩、五歩、三歩。


「脱ッ……」


 残り一歩、そして。


「出じゃあ……!!」


 無事に脱出したパーティメンバーたちは外に出た後も崩壊の影響を受けぬように遠くへ遠くへと歩みを進める。その背後で一層巨大な崩壊音が響き彼女たちが振り返ると元来たダンジョンは完全に倒壊しており二度と入ることはできない有様になっていた。

 その様子をみて助かったとばかりに皆一様に胸を撫で降ろすと一息つき先程までの状況を回想する。


「まさか戦車を破壊するとダンジョン全体が崩壊する仕組みになっておったとはでござるなあ。自爆スイッチとは乙なものでござる」


「行きに宝箱やらを全回収しておいてよかったわ。取り逃しに重要アイテムがあっては困るからのう」


 彼女たちはゲーマーらしい行動基準によってダンジョンで得られる最大の戦果を手に入れた。この世界がゲームの世界であるならばそういった視点こそが生き抜くために必要になってくるのかもしれない。


「やー死ぬかと思ったけどとにかくこれで依頼は達成。Gガッポガッポだな!」


「早速村に返って報告なのだ~」


「「お~!!」」


 片腕を上げ意気揚々と帰路につくそんな時だ。


「残念だがそれは叶わないな」


 不意に割り込んできた一陣の風がアークを遥か後方にまで蹴り飛ばしたのは。


「は?ガッ!?!」


「アーク殿!?」


 突如として現れたのは燃えるような蒼髪、きつく締められたネクタイとその横に垂れている髪房は情熱的な赤の色をしていた。そしてスーツスタイルの袖から覗く無骨な鋼の両腕が彼女のくぐってきた修羅場を現しているようにも見える。


「SHヒクイドリ リンそして……」


 GAMECHANGE!GUN SHOOTING!エコーのかかった叫び声が夜空に響く。見ればリンと名乗ったSHから少し離れた場所に赤と青の二丁銃を構えた亜麻色髪の小柄な少女がいた。彼女は銃口をランカとラムルディへと向けると相方と同様に自らの名を名乗る。


「SHオオミチハシリ シロだ」


 そして銃声が鳴る。


 甲高い銃声が夜の高原に連打する。音の主はオオミチハシリ、力の走る先にはピラニアとコウモリだ。銃撃を受けるランカとラムルディは激しいタップダンスのような動きで忙しなく弾丸を避けている。

 銃火の間隙を縫って二人は抗議の声を上げた。


「な、なななななんでござるかお主らは!?」


「そうじゃそうじゃ!同じSHであるならば襲われる筋合いなどないはずじゃぞ!」


 そんな二人を半目でみつつシロと名乗ったSHは腰に装備されたホルダーに二丁のグリップの底を一瞬収めた。すると空になっていた二丁の側面に記されていた5本のメーターが急速に回復してく。二人への返答として引き抜く。


「何を世迷言いってんだ?裏切りもんとグルんなってあたしらをこんなとこまで連れて来たくせしてよ」


「「は?」」


 銃声が再開すると同時に戦場にも変化があった。先程遠方まで蹴り飛ばされたアークが復帰したのである。彼女は腕を振り上げヒクイドリのSHへと躍りかかる。それは尋常の速度ではない、シン・アークによる加速を伴なったものだった。


「てんめいきなり何しやがんだボケ!」


「何か問題でもあったか?」


 アークの緩急をつけた奇襲だったがリンと名乗った相手はひらりと見かわした。その事実にアークは内心で脅威を感じていた。


 ──野郎。シン・アークのジェット加速はリクでも最初は対応しきれなかったんだぞ。それをこいつは初見でかわしやがった……!


 どの道これよりも速度の高い攻撃もない。まぐれか否か。確かめるためアークは再度シン・アークの起動も試みる。が、相手の様子がおかしかった。


「貴様……今、火を使ったな?」


「おー……うん?」


 一瞬の炎を視認していたのかという驚きとは別にわなわなと震えるリンに対して気の抜けた返事を返してしまうアークだったが直ぐに糾弾が来た。


「私の前で!炎を使ったな!?」


 激昂する様に不気味を感じたアークは力を入れ直し能力を発動する。背部から排出される炎がアークに加速の力をもたらす。その前に。


「炎喰い」


「!?」


 アークの求めていた加速は来なかった。代わりに寄こされたのは口元に炎を湛えたリンの横薙ぎの蹴りだ。アークは再び場外へと吹き飛ば(スマッシュ)された。


「欲の油にまみれた不味い炎だ。このようなものでは碌な調理など叶わんだろうな」


 リンは炎を咀嚼しきるとアークを追う前にちらりと相棒を横目に見た。視線の先には景気よく撃ち放つシロと逃げ惑う二人のSHの姿がある。


「確かにアーク殿とは行動を共にしておるがやランカたちは関係な……殿っていっちまったでござる、あいたぁ!?当たった!やランカ当たっちまったでござるよぉ!?もうダメでござるぅ!?ラムルディ殿後は任せた……」


「落ち着け。お主生命力ゾンビ並みじゃからヘッドショットでなければ何とかなるじゃろ!わらわも当たった~!?もうだめじゃあ」


「うるせぇ!そもそもお前等さっきから結構HITしてんじゃねぇか!さっさと死ねよ!!」


 相手方からの冷静なツッコミにそれもそうと我に返った馬鹿共は銃撃を避けつつ互いに顔を見合わせると一つの事案に思い当たる。


「「レベル差!!」」


 相手のステータスを再確認してランカたちは方針を考え直す。少なくとも相手は自分たちのようにダンジョン一つを攻略しボスを倒したという経験はないのだろうそれは彼我のレベルの差で分かる。そしてレベル差というものはこの世界での戦闘において想像以上に影響を及ぼすということもたった今理解した。ならば話は早い。


「弾丸の雨なんぞ密林の豪雨に比べれば恐るるに足らずぅ!」


「ははははーっ!吸血鬼を相手にするのであれば銀弾ぐらい用意して来るべきだったのう狩人よぉ?」


「あ~~!ヘタクソ共が開き直ってきた!最悪なんだけど!!」


シロのうんざりした声も納得。二人は弾丸に当たっても殆ど……いや数発に1、2ダメージほどしか発生していないことに気付くと一転。被弾するのも構わず銃手へとまっしぐら。現実では決して取れない戦法でもこの世界では有効だ。最短距離で駆ける。


「あいたたたたたたたたたたた!?ほぁっちゃあ!!」


「ダメボうるさすぎるだろ!さっさとパッチ当てるか死ぬかしろ!」


「お主こそ、はよう観念して足と発砲を止めるのだな!止めっ!?止めるのじゃ!!」


 シロは元々スピード特化なのか引き撃ちのバック走であるにも関わらずかなりの速度で移動していたが、追う二人はダンジョンで拾ったりエネミーからドロップした薬草をはみながらじりじりと距離を詰めていき。


「とっ」


「たぁ!」


 ラムルディが先んじてシロの細腕に、次いでランカがシロの胴体へと取り付いた。


「つーかまえたでござる~」


 速度に比して力は心元ないのかシロは苦々しい顔で銃を手放し空いた手で腰の十字キーを高速で操作する。


「ぬ、こやつ一体何を……!?」


 ラムルディが言い終わる間にGAMECHANGE!ACTION!という声が再び広原に木霊した。それから二拍と待たぬままシロが二人を連れて跳躍する。先程まで振りほどくことすらできなかったとは思えぬほど力強く舞い上がった。その跳躍は宙に輝く一際大きな天体の一部をその身で隠せるほどの位置にまで到達している。異常はそこで

わらなかった。最高到達点に達するとシロは再び跳躍の体勢を取ったのだ。するとどうだろう?あり得ざる足場がそこに存在するかのごとく彼女らは再び上昇を始めた。


「ちょちょちょちょちょヤバいんでござらぬか~」


 ランカもSHだ。現実世界であればこの高へと到達できないにしても落下の衝撃には十分耐えうる。しかしこのゲーム世界でのステータスではどうだろうか?そもそもゲームというものは高所からの落下にやたら厳しいことがある。よもやここまでと上司との思い出を回想し始めたランカに下から声がかかる。


「何をやっておるか。はよう降りてこい!」


 一足先にシロから離れていたラムルディが翼を展開して下で待機していた。ランカはこれ幸いと飛び降りると蝙蝠に攫われて地上へと降りていった。


「ふひひひひひ、まさかリクちゃん様をお姫様抱っこする前に自分がされるとは……責任とって欲しいでござる~!」


「何のじゃ。しかしこの身体能力……やはりわらわと同じ複数の属性を一つに内包した能力のようじゃのう。役割が被りおるわ」


 そのようなやりとりをしている間にシロが落下の衝撃を地面へと与える。能力の影響か高所からの落下はスライムほどの影響も与えていないようだ。彼女は先ほどよりも軽い調子で跳ぶと背からカランビットナイフを引き抜き大上段から突きを二人へと刺し向けた。

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