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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第七話「殺人鬼トア」
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7-7 死闘

 空を刻む鋸刃の長刀の一撃を掻い潜り、短刀の銀閃が走る。僅かな戦果と引き換えに、再び鋸刃の一撃が振られ距離が生まれる。

 人間とSHの間には圧倒的な身体能力の差が存在する。よってSHが一撃さえ入ればいかに尋常ならざる戦闘力を持つ殺人鬼相手だろうと決着がつくはずだが未だにそうなっていない。一方人の側も未だ無傷ながらSHの底なしの生命力に対し有効打を与えられていなかった。

 SH、アークは両腕から数条の血液を垂らしながらも、周囲の机やモニターを破壊しながらチェーンソードを振るう。


 「らぁっ!!」

挿絵(By みてみん)

  その一撃を潜りナイフによる刺突を狙うトアの顔面に向ってアークは空いた手で打ち抜くような打撃を放った。だがそれも殺人鬼の足元が溶けたような体重移動によって空を切る。

 振り抜いた腕を取られると同時に内から足を払われる。そして殴るために前進しようとした勢いそのままに回転。

 人間ではSHの膂力にはかなわない。だがそこにSH自身の力がかかればどうか?

 答えは結果となってすぐに現れる。


「ぐッ!?」


 背中から床に叩きつけられたアークは肺の中の空気を二種の呼吸器から一気に吐き出す。

 吐き出した空気を取り戻そうと口を開けたアークの顔に不吉な影がかかる。振りかぶった影の主の腕には鈍く光る刃が握りしめられていた。真っすぐ顔面に向って振り下ろされる。

 柔らかいものを潰した時のような音の代わりに、金属音が狭い室内に響き渡る。

 音の発生源はアークの口。その上下の歯列によって致死の刃が噛み防がれていた。機を逃したトアがそれでもなおと刃を押し込もうとしたときアークの全身が青白く光り殺人鬼を飛びすさらせた。

 上に乗っていたものがいなくなったアークはむくりと上体を起こし立ち上がると同時に口元のナイフを床に吐き捨てた。


「人間ならこれ喰らえやあ行動不能になるはずだけど……相変わらずかその衣装」


 言の葉の先、トアはナイフを握っていた手袋が焼けたものの雷を喰らった直後の人間とは思えぬほど気軽な動作を見せていた。


「当然。アークちゃんのために用意した超絶縁素材だからね。高かったんだよ」


「反則くせー……ひでーめに合わされたよそれにゃ」

挿絵(By みてみん)

 トアとの初回の遭遇が余りにもトラウマになったアークは以降出歩くことは控えるようになる。それから時が過ぎ夏になる頃にはアークも深夜以外は外に出かけれるようになっていた。そんな時だ、二度目の襲撃が行なわれたのは。たまたま人気の少ない所に入った時に襲われ、前回のトラウマも重なり半狂乱になったところを滅多刺しにされた。特に悪かったのは初回は通じた電撃が超絶縁コートによって無効化されたことだ。脳が理解を拒んだアークは神が始めてみる天敵を目撃したような表情を晒してしまい追加の恥として記憶に刻まれた。

 だが今は武器となるものはSH能力だけではない。手に握る相棒の感触を確かめ再び斬りかかる。

 袈裟斬りが躱され、懐に入られる。ここまでは先ほどまでとは変わらない。だが此度は回転数が違った。低い姿勢に足技で返し至近距離は肘で刺し返す。人間を倒すのに威力は必要ない。よりコンパクトに手数を増やした動きで迎撃する。懐から追い出したら相棒を振るう。

 秋ごろに行われた三度目の襲撃は一番傷が浅くて済んだ回だった。サンによってもたらされたチェーンソードのリーチと攻撃力は殺人鬼を倒すことは叶わぬまでも危険を感じさせ退避させることには成功したのだ。あの時同様、いやそれ以上に戦えている。


「お……ラァ!」


 打撃の連打で退かせた位置に向って踏み込み横薙ぎの一撃を放つ。下方向に避けられるがトアの表情に驚きの色が混じった。トアの頬に薄く赤い線が浮かんでいる。これまで無傷だったトアに僅からながら傷が生まれた。


「知らなかったぜ。お前の血も赤いんだなぁ!」


「今まで何だと思ってたの?」


 踵を地面に押し当て靴の爪先から刃を出しながら放たれたトアの問いを言葉を濁すように無言で剣の勢いを強めるアーク。ヒラヒラと躱しながら答えを迫るトア。二人の攻防はさながら舞踏のようでもあった。


「ねえ、ねえ」


「うるっせぇ~!!」


 執拗な問いと蹴撃に痺れを切らしたアークは踏み込み深く斬り込みにかかるがこれもまた直前で回避される。そして代わりにアークの眼前に現れたものに目を剥く。


「いっ!?ミニアーク!」


「ほぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 メアだ。椅子に縛られ動けないでいるメアがチェーンソードの軌道上に存在する。アークは慌ててミニアークに刃を消させ危機を脱した。

 ミニアークが使用する武器の空間転移は位相空間の技術が元になっている。冬頃に行われた四度目の襲撃の際にアークがチェーンソードを持ち歩かずにいたせいで酷い目にあったことから与えられた技術である。それが今、人質であるメアの命を救った。


「あぶねーのだ!?どこに目をつけて戦っとるのだアーク!」


「テメェ、さっきからやってくれるじゃねえか」


「んー、なんのことかなぁ」


 この戦いが始まって以降、アークは常に不利な状況にあった。いや、その状況を作られていた。

 まずこの密室空間がそうだ、これによりシンアークによる加速を使うともれなく壁に激突し自爆することになり使えない。

 更にトアは戦闘中アークとメアの対角線上に立つように立ち回り、メアとの距離も離れすぎないようにしていた。これによりハンマーナックルによるチェーンソードの射出や先ほどのような深い踏み込みが制限された。

 アークショックは有効打になり得ない。ハンマーナックルによる直接打撃は相手が人間んである以上確実な死に繋がるため使えない。人質が存在するなかでアークネードの大規模展開も不能。

 アークのもつ多様な手札をことごとく潰した上で殺人鬼は狩りに挑んでいた。

今トアは開戦直後よりもメアに近い距離で戦うように動いている。結果として起こるのは。


「ひょぇええええええ!?もうダメなのだ~!?」


「ふふっ、危ない危な~い」


「ちょっと黙ってろお前等!」


 人質への流れ弾の多発である。メアがチェーンソードの軌道に入るたびにミニアークがチェーンソードを逆の手に転送することで難を逃れているがいつ人質に当たってもおかしくはない。

 アークは流れを変えることにした。チェーンソードからハンマーナックルへと武器を換装。姿勢を低くし、軽く振りかぶり。


「メア、受け身取れ!頭打つなよ!」


 地面を力強く打撃した。衝撃が走り、地面が割れ、室内が激しく振動する。


「のわ~!?」


 当然メアの座っていた椅子は衝撃にバランスが取れず横向きに倒れるが、事前の警告のおかげか本人の生存本能の賜物か幸い怪我などはなかった。

 一方トアは最初のフロアで見ていた威力に対する警戒もありバックジャンプで大きく距離を取っていた。結果揺れの影響を殆ど受けなかったものの人質であるメアとの距離が開いてしまった。

 その隙をついてアークはトアとメアとの間に入りチェーンソードを逆手に取り構える。「いくぜオラァアアアアアア!」

 起動状態のチェーンソードの刃を壁に刺し込み。壁を猛烈な勢いで削りながらトアに向って突進する。

 相手はバックステップで移動しているがこちらのほうが速い。直ぐに追いつき。アークは殴りつけるようにチェーンソードを下段気味に振るう。

 視界の内、トアは海面を跳ぶイルカのような流麗な動きで跳ねチェーンソードの刃の上をいく。そこからだ、彼女の動きがアークの予想を超えて来たのは。

 トアは一瞬足先を振り切ったチェーンソードの刃の上に置くとそのまま足場とし後方へと軽く飛びあがり壁へと着地。壁を地面として弾丸のようにアークを蹴撃した。顔面に直撃する。


「てぇなおい……曲芸師かテメーは」


「あれぇ……あんまり効いてないね。折れちゃってたか」


 アークは顔面を蹴られのけぞった体勢から即座に復帰し額の血を拭い去る。無事だ。トアの爪先に装備されていた刃は先の交戦の内に破損していたのだ。

 傷の数では未だアークの方が圧倒されている状況だが先ほどのように逐一人質を盾にされている状況ではない分踏み込み過ぎを気にせずに戦えている。毒も回っているとは言えこのまま人質に近づかせないように戦えばまだまだ巻き返しは可能だ。そのようにする。

 剣戟の音が合奏のように高らかに鳴り響く。

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