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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第六話「埼玉鉄道99」
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6-8 埼玉の天使、堕つ

 濃煙の中、白の鳥は鎖ネギレンガを手に取り構え相棒に思念で語り掛けていた。


(そろそろ決めるわ。位置を教えて頂戴)


『わかった。……ん、ちょっと待って!?逃げてチヨちゃん!あの娘たち真っすぐチヨちゃんに向って来てる。ダメ、間に合わない!?』


「やーっと見つけたぜ。ちょろちょろ隠れやがってカクレクマノミかテメーは」


 ツクモの呼びかけも虚しく煙の奥から獲物を見つけた鮫が現れる。彼女は起動状態チェーンソードを既に振りかぶっている。


「ツクモの上で私は負けない……!」


 チヨは車掌として、ツクモの相棒としての意地により、一かばちか、ネギによる刺突を試みるがそれよりも早く鋸刃が彼女の柔肌を切り裂いていた。純白が紅に染まる。


『チヨちゃん!?』


 煙が晴れた後に立っていたのはチェーンソードを背負うアークのみだった。彼女は眼下で倒れ伏すシラコバトとその身体から流れ出る血を確認し。


「ま、死にゃしねえだろうが戦闘は無理だろうな。たく、こいつのおかげで折角のライズちゃんとの再会と埼玉旅行にケチがついたぜこういうのなんていうんだったか。ケチくさいたま?」


『主、それ違うと思う』


 ケチくさいたま。その言葉が引っかかったかどうかは定かではないが完全に沈黙していたシラコバトは指をぴくりと動かし唸るような声でぼそぼそ呟いていく。


「ケチくさいたま……みずくさいたま……!ほざいたま……!うるさいたま……!野菜たま……!日照権返しなさいたま……!!極めつけはダサイタマ!!あんた、あんた今埼玉を馬鹿にしたわね……!!」


「そんなに言ってない言ってない」


「黙りなさい!他県民からの埼玉disを私は決して許さないわ!!」


 血が噴き出すのも構わず怒りのままに立ち上がるシラコバト。どう見ても無謀な行為であったがそれが呼び水になったのか、彼女の身体に異常が生じた。シラコバトの身体は突如として激しい光に包まれる。アークはつい最近この現象をみた覚えがある。いや、見たどころではなく自分自身のものとして体験したのだ。つまりこれは。


「うそだろ……進化!?」


 光りの中でシラコバトは歓喜に打ち震える。


「ああ、ぁぁぁぁぁあああああ埼玉……私の体に埼玉が入って来る……ハイって来るわぁ~~!今、埼玉と一つに!!」


 正視すること叶わない光と圧力を前に僅かに距離を取りアークは相棒に語り掛ける。


「どうやら第二ラウンドのようだぜ。いけるか相棒」


『一個能力が増えたところで一個が二個に増えただけ……こちらは三……いや、四つだったか。問題ないだろう』


「オメーあれも数えやがったな。……お出ましだ」


 やがて光が収まるとシラコバトが新たな姿を見せる。彼女の背部にはシラコバトの羽を模した神々しい光翼が揃っており、その頭上には円形の、埼玉名物の草加せんべいを頂いていた。まるで埼玉を司る天使の如し様相の彼女は悠然と拳を掲げ。


「破!」


 天使が意思を持って掌を開いた瞬間、彼女の天上に存在していた巨雲が霧散し、消失した。


「マジかよ……!」


 呆然と呟くアークを他所に埼玉の天使は己の力を確かめるように両手を幾度も握りしめ、嬌声をあげる。


「あっはははははははは、無敵、まさに無敵よ!埼玉にいる限り誰も私に勝てるものなんていないわ!これが埼玉の、埼玉に選ばれた私の力なのよ!見なさい、他県民がゴミのようだわ!」


 未だかつてないほどの圧力を発するシラコバトに圧倒されるアークだったが心は折れてはいない。油断なくチェーンソードを構え。突撃姿勢をとる。


「完全にハイになってやがるな……アタシも経験あるけど進化直後はそうなるよなーって感じだ。逆に言えばあいつを倒すのは今が絶好のチャン……ライズちゃん?」


 構えるアークの横をスッと先ほどまで後部車両にいたライズが通りすぎていく。彼女はそのままゆったりとした特殊な歩法でシラコバトへと接近していくが有頂天になっている天使は気付いていない。やがて真正面までやってくると。


「タッチ」


 天使の絶壁の胸部に服の上から手を添える。


「――ッ!」


 声にならない悲鳴を上げて天使が不浄の者を迎撃しようとしたのもつかの間、タッチは揉みの段階に移行する。するとどうであろうか迎撃の手は即座に力を失い、時間と共に天使の足は震え、膝から崩れ落ちていくではないか。


「っぁ……!あんた……いったい何……ひぅッ!」


「んーあんまり隙だらけだったから我慢できなくなっちゃってね~。何者かって言ったらちょっとエッチなお姉さんかな~。こことかどうだろ?」


「ひぐぅ!?こんな……服の上からぁ……こんな、こんな……あり得ないぃ!」


 元ノーム小隊補給担当、現SHボノボであるライズはアークと別れて二年女性専用の風俗店を転々としていた。生来の気質とボノボの性質が掛け合わさり女子との交わりに飢えた彼女にとってはまさに天職であったがどの店でも長くは続かなかった。ライズは……上手すぎたのだ。

 一度体験すればどのお客も彼女を指名するようになり、またふれあい欲を持て余した彼女は同じ店で働く仲間たちにも手を出した。結果客も従業員も彼女なしではやっていけなくなり店は崩壊する。それを幾度も幾度も繰り返した結果、彼女は全国の風俗店でレッドリストに記載された。

 そんな彼女にとって密着した状態であるのであれば例え服の上からであろうとも力を持て余した生娘一人を屈服させるなど、わけのない話であった。天使が肉欲に溺れる。

挿絵(By みてみん)

「埼玉の……埼玉の力が抜けていく……やだ……やだぁ!あんた……車掌の私にこんなことしてただですむと思ってんじゃないでしょうねえ」


「思ってないわよ~。だからただで済ましてくれるようになるまで墜としちゃおうかなって」


「そんなことしてやるわけ……んひぃ!?」


 ライズは片手でシラコバトの躰を触りながらアークへと手招きをする。それに応じてアークは現場に足を踏み入れる。


「ちょっと時間足りなそうだからアークちゃんも手伝ってくれる?」


「なるほどね……いいよ、丁度それに適した能力もあるからさ」


「ひ……やめ……ーッ!!」


 アークの持つ四種のSH能力の一種、床じょーず。取り立てて宣言されてはいなかったがこれまでもセクハラの際に使われていたソレは埃にまみれた人類史(カートリッジ・ライフ)に接続し世界中の性に纏わる技能をその都度ダウンロードするという能力であった。この能力によりアークは熟練の技師にも勝る技術を獲得していた。

 風俗出禁の女と床じょーずな女、百戦錬磨もはだしで逃げ出す二人の責めに耐えられるものなどおおよそこの世には存在しないだろう。シラコバトはそれに飲まれた。


「やめ……み、みないで……今の私をみないでツクモぉ!!」


『チヨちゃん……!やめてください!チヨちゃんをこれ以上虐めないで……なんでもしますから!』


 汽車ツクモの悲痛な叫びにライズは目を輝かせ。そして笑っていった。


「それじゃあ次の駅で降ろしてくれる?あと九両目以降のことは不問ということで一つ……!」


 交渉は成立した。


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