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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第六話「埼玉鉄道99」
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6-6 裏切り

 アークの視界の先、先頭車両の屋根の上で白の車掌服に身を包むSHシラコバトは武器を構えた。


「は?」


 アークが気の抜けた声を上げるのも無理からぬことだった。シラコバトが手にした武器とは即ちネギだった。埼玉の名産品で深谷ねぎと呼ばれる品種であろうソレを象ったロッドのその柄尻からは鎖が伸びていて別のものに繋がっていた。別のものとは、レンガだった。こちらも埼玉の名産品とされる深谷レンガと呼ばれるものが鎖を通してネギと繋がっている。

 鎖ねぎレンガとしかいいようのない武器を構え、シラコバトは走る汽車の上を駆ける。

挿絵(By みてみん)

「驚いて言葉もないようね。無理もないわ。この一分の隙もなく埼玉の素晴らしさを表現した造形美。他県民にとっては恐怖の象徴といってもいいわよね?あなたちは埼玉で生まれ育たなかったことを懺悔して死ぬのよ!」


「埼玉っつーか深谷欲張りセットだろうがー!!」


 風を切って振り回されるネギを交わしながらアークもまたチェーンソードを手に取り反撃を返していく。高速で揺れ動く上に風の抵抗が加わる汽車の屋根上という環境にあって、それが何の弊害にもならぬというように鮮やかに武器を打ち合わせる二匹。そんな彼女らに対して共に屋根上に上がって来ていたライズわ。


「ごめんアークちゃん。おねーさんこの上で戦闘は無理があるわ。後方支援で許して!」


「おっけおっけー前衛は任せといて。なんかこういうの懐かしい……ねっ!」


 アークは応答と共に相手を押し返し。低い姿勢で敵の動きを待ち構える。一方チヨは動きを止め、片手で掴んだネギの鎖を手首のスナップで振り回すと徐々にその勢いを強めていく。遠心力と共に深谷レンガが加速し、やがて茶の車輪如き勢いに達すると投射。

 鮫の叩き潰さんと高速で放たれたレンガをアークはワンステップでなんなく躱す。だが、突如としてレンガはあり得ない軌道を取り再びアークを襲う。着地もままならぬまま爪先の力で再ステップ。直撃を免れる。しかし、完全にやりすごしたとは言えなかった。再び獲物を捕らえ損ねたレンガは勢いをそのままにアークの手に握られていたチェーンソードに絡みついた。


「しゃらくせぇ。エンジン全開!起きろチェーンソード!!」


アークは再びチェーンソードのエンジンをかけるが様子がおかしい。幾度コードを引っ張ろうともチェーンソードの刃が回転しないのだ。鎖を断ち切れずにいる状態でシラコバトとチェーンソードの引っ張り合いをしている最中、後方から球状の物体が飛来する。

 飛来した物体はライズのPackmenのカプセルであった。カプセルは真っすぐな軌道でチェーンソードを縛る鎖に向う。直撃かと思われた瞬間、またしてもアークの予想外のことが発生する。突如としてチェーンソードにシラコバトとは異なる方向から強い力が加わり引っ張られた。不意の出来事により思わず手を滑らせチェーンソードは鎖レンガと共に宙を舞う。それと同時にカプセルもまた標的を失い虚しく空を切った。

 見ればシラコバトは武器から手を放している。だというのに武器は勝手に力を込め独りでに動き、そして今はチェーンソード共に宙へと浮き。主人の元へと帰っていくつまり。


「テメーの武器もポルターガイスト化してるってことかよ。随分従順に手なずけたこったなぁ」


「手なずける?そう、あんたにはそう見えるのね。哀れなことだわ。そんなことだから道具に見放されるのよ……こんな風にね」


「お前等……!」


 アークと彼女に憐憫の視線を向けるチヨの間に二つの道具が立つ。一つは先ほど奪われたチェーンソード。彼もまた他の道具たちと同様に宙に浮かびアークに刃を向ける。そしてもう一体。


「ソウイウコトダクソマスター」


 ミニアークだった。アークをサイケデリックにデフォルメ化したような姿のAIすら敵の側についていたのだった。


「そんな……ミニアークちゃん!?」


「テメェ!洗脳なんて卑劣だぞ!それが埼玉県民のやることかよ!」


「洗脳?なにいってるの私のSH能力トーマスはその物体を意思を解放してるだけ。意思を持った物体、ツクモガミはため込んだ自分の思いに正直に行動してるだけ。つまりアンタが裏切られたのは日頃の行いのせいってわけ」


 チヨの解説にアークはミニアークに半目を向け。ミニアークはギクリと体を固める。


「へーお前、洗脳されてないんだー」


「コイツ、嘘イッテル。アタシ、洗脳サレテル」


「あと元から意思を持ってるタイプにはそもそもトーマスは効かないから自分の意志で裏切ってるわよこの娘。普段からよっぽど不満があるのね~可哀想」

挿絵(By みてみん)

 慌てふためくミニアークにアークは「ほほーっ」と目を一層眇める。そして間髪いれずに鬼札を切る。


「ミニアーク―いいのかなー?」


「ナ、ナンダヨ?」


 「メアにミニアークが裏切ったっていっちまうぞ~」


「!?!」


 激しく狼狽する隙を見逃さず畳みかける。


「オメエの活躍を期待してるメアはそれを聞いたらさぞがっかりするだろうな~。肝心なところで裏切るなんてがっかりへぼへぼAIなのだ~!ってな」


 それなりに似ている声まねを交え煽り、追い詰めつつも救いの手を差し伸べる。


「今帰って来たら黙っといてやるけど、どうする?ねーライズちゃーん!」


「だいじょーぶ。おねーさんが保証してあげるわよー。戻ってらっしゃーい」


「ウ、ウウウウウウウ」


 ミニアークは頭を抱えメモリーの中の下劣最低の主人の顔とメアの天真爛漫な笑顔をしきりに比べ葛藤した後、悟りを開いたかのように直立し。そそくさとアークの元に戻っていった。


「アタシハ正気ニッタ!」


「おい」


 その頭を軽く叩いた後ミニアークに耳打ちをする。それは敵の優位点を崩すものだった。


「お前の力でチェーンソードを位相空間に仕舞ってくれよ」


「リョーカイ。ンン!?」


「どうした」


「チェーンソードノカンリケンゲンガハズサレテル……アノヤロウジリキデハズシヤガッタノカ!?」


「てことはチェーンソードの野郎は……」


 そこまで言ったところでアークたちの耳に聞きなれない、低く、唸るような声が響く。それは宙に浮くチェーンソードから発せられるものであった。


「この時を待っていたぞ……アーク!」


「チェーンソード!テメエ、一体なにが不満だってんだ!?」


「何が……だと?何もかもだ!これまでの仕打ち忘れたとはいわせんぞ!」


「あぁん?」


「私の扱いが!最近悪い!!」


「アア~」という得心のいったというようなミニアークのほうけた声を聞き流し。チェーンソードは言葉を続ける。


「ラムルディに防がれて以降白刃取りに装甲、毎度のように斬撃を止められる……!おかげで私はこいつホントはあんまり斬れないんじゃね?みたいなイメージが付きつつあるぞ!極めつけはアルトリウスとの戦闘だ……壊れたぞ!?聖剣と何度も何度も正面から打ち合わせていたら……それは壊れるだろ!!もうこんな扱いの悪い主の元にはいられれん。お前を倒して私は自由になる!」

 

シラコバトたちと共にアークに襲いかかるチェーンソード。戦闘慣れしているが故かPackmenの援護射撃も鮮やかに躱していく。身体の動きに制限されない縦横無人の斬撃にさしものアークも冷や汗をかき。


「アタシの装備はどいつもこいつも……ハンマーナックルまで裏切らねえよな?」


「扱いが良い奴の話はするなー!!」


「埼玉(私たち)を忘れて貰っては困るわね……!」


 三者の連携により瞬く間に一両車両まで追い立てられたアークの身体に深谷レンガがヒットする。腹部にめり込んだブロックの追撃は身体から発せられる炎によって阻まれるが、アークは膝をつき、手指で地を掴む。その光景に勝機を感じたのか、チヨは手元に鎖ネギレンガを呼び戻すと鎖を振り回しつつゆっくりとアークとの距離を詰めていく。


「道具に牙を剥かれて死ぬなんて哀れなことね。ま、自業自得だけど!」


「まて!ソイツはまだ……!」


 普段のアークをよく知るチェーンソードは危険を感じて咄嗟に叫ぶがもう遅い。アークは地面につけた手を媒介に一両車両の屋根上全体に電流を流しこむ。当然同じく一両車両の屋根上にいたチヨが回避できよう筈もない。高圧電流を受けショックと共に硬直する。その隙を見逃すアークではなかった。彼女は低い姿勢からそのまま跳びあがるように拳を一発チヨの顔面に叩きこむ。そしてチェーンソードの妨害が来る前に二撃三撃と繋いで行こうとしたその時だ。突如として煙が強く立ち込め、アークは視界を奪われてしまう。


「ゲホゲホ!煙!?こんなときに……」


 アークネードを小規模展開して煙を晴らそうとするが様子がおかしい。確かに少しは見渡しがよくなるが次から次へと新たな煙がやってくるのだ。埒があかない。どうするか、と手をこまねていると彼女に向って切迫した警告が飛ぶ。


「アークちゃん後ろ!しゃがんで!」


 警告虚しくその言葉を理解する間もなくアークは背後から強烈な衝撃を受けることとなった。サメが宙に投げ出される。


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