6-5 SHシラコバト
ポルターガイストというべきか。ロメの所有する化粧道具が一人でに動き出しそれぞれが勝手に順番待ちをしているお客に向って勝手に化粧を施し始めたのであった。
慌てふためくロメだったが、客の方も客のほうで。
「きゃ、やだ。筆遣い荒い!」
「こっちの子は丁寧だわ。ロメさんに似た手つきね」
「ちょっと、私のお財布が勝手に飛んでいくんだけど!いかないで私の野口!」
と戦々恐々の有様である。この状況にアークたちは顔を見合わせ。
「さっきのしゃしょーSHだったのだ!?」
「あいつのこと知ってるライズちゃん?」
「格好通りこの汽車の車掌だよ。SHってのは知らなかったけどね……ヤバ、淫行車両の皆が危ない、じゃロメさん頑張って!」
「ええ~!?助けてくれよぅ」
ロメの嘆きを無視して足早に十一両目を後にしたアークたちは十両目に突入するそこでは案の定阿鼻叫喚の様相を呈していた。
「テメェ、オレは一体何代めの俺だ~!?ライブごとに叩き折ってんのしってんだぞオラ―!熟練バンドならともかくテメーらのかっこつけに折られるほど俺らは甘くねーぞ!!」
「ドラムを叩くよりもお前の身体を叩く方がよっぽど楽しいだろうと思ってたよ。ヘボ奏者がよぉ~!ゲヒャヒャヒャ!」
「わ、悪かった!おれたちが悪かったから許してくれ……ぐわぁぁぁ!」
「リーダー!!!」
十両目では持ち主の手から解き放たれた楽器たちが日ごろの恨みを晴らすかのように奏者たちに襲いかかっていた。それを見かねたライズは頭を掻き擬態を解く。
「九両目の皆が心配だけどひとまずここを何とかしようかしら……Packmen!」
ライズがそう宣言すると彼女の手元に有彩色半分透明素材半分の球状のカプセルが現れる。
ライズはカプセルを強く握りしめ投擲する。
「ん、なんだぁ?うわぁあああああああああああ!?」
カプセルは風を切り勢いよく進むと奏者たちを滅多打ちにしているギターに衝突する。するとカプセルが上下に割れ、その中に向って吸い込まれていった。
「ギェー太!ちくしょうめぇえええええ!」
仲間を一人封じ込められ逆上する楽器たちであったがライズはそれを片っ端からカプセルをぶつけ封じ込めていく。車両内は瞬く間に鎮静化されていった。
「じゃ、ちょっとこの子たちはもらっていくわね。あなたたち楽器はもっと大事にしないとダメよ」
「あ、ああ……ありがとう……ございます」
奏者たちからの礼もそこそこに人ごみを掻き分けてアークたちは進む。その中でメアはライズに問う。
「ライズ姉ちゃん。楽器をポンと封じ込めちゃったのだ。スタイリッシュなのだ~!でもなんでさっきの車両は助けてあげなかったのだ?」
「今回は楽器くんたちも相当おかんむりだったからね。もしかすると人死にもあったかもしれないし、私たち原因かもしれないことでそれは見過ごせないよ。それにロメさんところは道具の扱いが丁寧だったから大事になりそうになかったしね。日頃の行いの賜物かな。メアちゃんも道具は大事に使わなきゃダメよ。っとやっとついた」
十両目を抜け、九両目への扉を急ぎ開く果たして中はいかな惨状か。
「みんな!?……誰かメアちゃんの目を塞いでおいて頂戴。耳もね」
「オウ」
「なんなのだ~!!」
憤慨するメアだったが当然この光景は小学生にはお見せできない。なぜならば。
「ほーっほっほっほっ、下手糞なお前たちに変って私自ら私を振るってあげる!女王鞭とおよび!女王鞭とおよび!」
「いつもいつも本来の用途と違った使いかたしおってからに……今日という今日は貴様らの全身のコリをほぐしてやるぞー!」
「ぶぃぃぃぃぃぃんぶいんぶぃんぶぃぃぃぃぃぃぃん」
「うぃんぅいんうぃんうぃぃぃぃん」
鞭、キャンドルを筆頭に夜に特殊な用途で使う道具たちが乗客たちを愉しませていた。夜の街ですらみることのできない淫靡な光景であったがライズはひるまず一歩前に出る。
すると夜の玩具たちも彼女に気付き一旦手を止める。しばしの静寂の後。振動する玩具が口を開く。
「つつましくしていてもわかる極まった技量!この方だ!この方こそ私の新しい主!」
「いや我が!」
「私こそが!」
次々に玩具たちが名乗り上げそれぞれが見合わせた次の瞬間。
「「使ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
一斉にいかがわしい者どもがライズに殺到する。だが、ライズは一切退かず淡々と人の上体ほどもあるカプセルを抱え。
「纏まってくれると楽だね。団体さまいらっしゃーい」
バスケットボールをパスするように玩具たちにぶつけ一斉に収納する。夜の時間は終わりだ。
「いっちょ上がりと、みんな無事?」
「ああ……」
「ライズ姐さん素敵!抱いて!!」
「はいはいまた今度ね~あとおもちゃはちょっと預かっとくからね」
歓声をあしらうライズは手元の巨大カプセル拳大に収縮させ懐にしまい込むとアークたちに振り返り。
「ひとまず片付いたわね。駅に止まってくれるなら助かるんだけど……もう幾つか駅を通りすぎちゃってるみたいだし素直に降ろしてくれる気はなさそうね」
「車掌の奴をぶっとばすして止めてやるしかねーってことか。上等!」
「みんなで探すのだ!」
「チガサワグゼー!」
意気込んで九両目を後にしたアークたちだったがSH車掌の姿はなかなか捉えられなかった。八両目より前の車両ではポルターガイスト騒動は起きておらずただ駅を通り過ぎる汽車に困惑する乗客たちの姿があるのみだった。
「先頭にいってもいなかったのだ~!」
「やっば次の駅で降りないと私、仕事に間に合わないんだけど!」
「次は車掌室……いや、そんなせめぇとこで待ち構えたりはしねえだろ。てことは……上だ!」
言うが早いかアークは一跳びで汽車の屋上に飛び乗る。するとその何両か先に、確かに白の車掌服の姿を認めることができた。
「やっぱり量産品の道具じゃどうにもならなかったわね。まあいいわ……アンタたちはここで私が埼玉の礎にしてあげる」
先程の特徴的なポーズで車掌は自らの正体を宣言する。
「SHシラコバト チヨ。出発するわ」