6-4 ツクモ特別車両
ありえん。探検隊は十両目へと辿り着いていた。彼女らを出迎えたのは音。それも列車という環境ではあり得ない莫大な音の奔流だった。
「こりゃあ……」
見れば通路の広い空間で悪魔的メイクを施した男たちがパンクファッションに身を包み、楽器をかき鳴らしていた。
デスボイスを交えた彼らの周囲を猛烈な勢いで首を縦に振る者たちが取り囲んでいる。アークたちはそんな彼らに同化する。
「ちょっと……何コレ?」
「凄いでしょ~車内ライブとか見れるのそうそうないと思うよ。色んな駅ごとにありえん。アーティストさんが乗り込んできてライブするの。ほら、音に合わせて首振って」
「ふおおお楽しいのだ!でも首が外れそうなのだ~」
「ミニアークは……振る首がねーな」
「余計ナオ世話ダクソマスター!」
地獄の底から沸き立つようなアーティストのシャウトに身を任せ、アークたちは観客たちと一体感を得。大いに騒いだ。列車内で。
数曲を終え、アーティストたちが駅で降りて行った後は観客もまた入れ替わった、アークたちはその入れ替えの間に十一両目へと到達する。
その扉を開けた彼女らの鼻孔を刺激したのはさらさらとした化粧品の香、そして目に飛び込んできたものは。
「おやぁ?お客さんかなぁ?」
赤毛に白の肌、ピエロ風のメイクをした痩躯の男とそんな彼にメイクを施されている女性たちであった。
「どうもロメさん。今日は遠くから来た私の友達にツクモを案内してるところ。メイクはまた今度ね」
「そうかい。ざぁんねんだねぇ、よく見たら他の娘もいい素材だ。また来てねぇ」
心底残念そうな男に笑って手を振り、ライズは先に進む。だがメアは男に。
「おっちゃんはどうしてここで化粧をしてるのだ?」
「昔ここで化粧が全然上手くできなくて困ってる子がいてねぇ。手伝ってあげたことが始まりかなぁ。その規模がどんどん膨れあがって今こうさ。無許可だけどね」
「せんせー私の番まだ~」
「ああ、ごめんねぇ。すぐいくよぉ。そんな感じだからまたねぇ。この列車は他のところも個性的だからきっと楽しめるよぉ」
そうピエロメイクを歪めて笑う男は慌てて呼び出した客の元へと駆けて行った。彼を見送った後探検隊は次の扉へと意気揚々と手をかけようとしたその時だ。
扉が勝手に開きその奥から一人の女性が姿を現した。
白の制服を着たその女性はその恰好からこの列車の車掌であることが見て取れた。制服のあちらこちらに見て取れる埼玉グッズから地元愛が強いこともまた、だ。
車掌は眼前のアークとライズにじろじろとぶしつけな視線をぶつけた後その奥、ロメたちの姿を認めたと思うと、チッ、と舌打ちを一つするとアークたちの横を通り抜けていった。
「なんだぁ……?」
「たいど悪いのだ~、ネットの口コミ下げてやるのだ?」
「クソマスター、アレ!」
ミニアークの指摘に振り返ると閉じ行く扉の先、十二両目の光景が僅かに見て取れた。そこでは先ほどは誰も気づかなかったが、車内に組み込まれたハンモックのようなもの達が床へと落ち、乗客たちが倒れ呻いている姿があった。
「アイツ……!」
急いで振り返るが態度の悪い車掌は既に十両目の扉の前だった。彼女は突然身を翻し、OKポーズを変化させた手をクロスさせると言い話す。
「あんたたちありえん。連中の存在を私とツクモが許容してあげるのも今日で終わり、会社には放置しろと言われてるけど、アークと一緒に片づけてやるわ。ツクモの怒りをしりなさい!トーマス!」
その叫びと共にアークたちは周囲の空間が変化したのを確かに感じた。だが、わかったのはそれだけだ何が変わったかまではわからない。そして仕掛けた張本人は勢いよく扉を開けると次の車両へと移っていく。
「待て……な!?」
その場を直ぐに追おうとしたアークだったがその足は直ぐに止めることになる。無理もない。今起きている光景は怪奇現象そのものだったからだ。
「ウワー!?僕の化粧道具が勝手に動きだしたよぅ~!?」
ポルターガイストというべきか。ロメの所有する化粧道具が一人でに動き出しそれぞれが勝手に順番待ちをしているお客に向って勝手に化粧を施し始めたのであった。