6-2 トモダチ
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追想と共に食事を終えたアークは手を合わせると、メアと共に立ち上がる。
「うっし。それじゃあライズちゃん探し始めっか。うまく乗ってっといーんだけど最悪活動の痕跡だけでも見つけてーところだ」
「きっと見つかるのだ!まずは他の車両を見て回るのだ!」
彼女らは、意気揚々と扉を開け後部車両に足を踏み入れる。まずは二両目。
結論から書くと一両目から七両目は特に何もなかった。さいたまるのすけの名曲、「どうして埼玉」の流れる車内では、観光客や地元の客が思い思いに食事や歓談、周囲の風景を楽しんでおりその中には。
「友達はいるのだ?アーク」
「んにゃ。それらしき奴はいねえな次行くぞ次」
そんな状況に変化が起きたのは次の車両。八両目からだ。その車両はこれまでの車両とは空気感を異にしていた。まず、明らかに人が少ないのだ。これまでどの車両も満席状態で立っているものも少なくなかったというのに、この車両は座席の半分以上が空いている。更に言えば座席に座っている人々もどこか変わっていた。ボンテ―ジを着込んだSMクラブの女王風の女性を筆頭にコスプレのような恰好の人々が少なくなかった。俗にいうありえん。に分類されてもおかしくない彼らは何かを果たした後のように満足気な表情でいた。
「どうも様子がおかしくなってきたな」
「ライズの活動っていうののえいきょうなのだ?」
「とにかく、先に進むしかねえな」
警戒を露わに、アークは八両目を抜けて九両目の扉に手をかけた。その時だ、アークの全身に悪寒が走る。アークの脳はこう警告している。この扉を開けてはいけない、この先を覗いてはいけない、と。
わけもなく震えを得る手を抑えアークは歯噛みする。そんな彼女をメアは心配そうに見上げ。
「ど、どうしたのだアーク?調子が悪いならメアが代わりに開けるのだ?」
「いや、いい」
こんなとこまで来てびびってんじゃねーよ、とアークは心の中で己を叱咤し、再び扉に手をかける。
「アタシは、ライズちゃんに会いに来たんだー!!」
振り切り、開く。そしてその先にあったものわ。アークも、メアも予想だにしていなかった光景であった。
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扉を開けた瞬間、ムワっとした湿気の多く、生温かい風が車内から吹き込んできた。車内は先程の八両車が嘘のように人で溢れていた。座席は満席、立っているものも多くいるほどだ。
アークがまず最初に認めた異常は通路に立っている男、彼は頬を赤らめ、その手を隣の女性の臀部に忍ばせる。彼が手を蠢かす度に女性の身体が艶めかしく反応する。間違いない、これは痴漢だ。その手を止めるものはなく、淫行はただ続けられていく。
だが、異常とはそれだけではなかった痴漢を受けている女性、その手が痴漢している男性の臀部を握りしめているのだ。彼女は妖艶なリズムを持って彼の尻を揉みしだく。彼もまた、それに応じて震えを得る。
ありえんことに彼らは、互いに痴漢しあっていた。
あまりに珍奇な、プレイともいえる行為にいそしむ男女。しかし、この光景は彼らだけのものではなかった。見れば彼らの背後にいるものもその隣にいるものたちも、痴漢を互いに行っているのである。
アークはメアの目を塞ぎ、彼女の耳をミニアークに抑えさせながら、警戒を持って奥へと進む。だが、進めど進めど、痴漢は止まらない。女が男に触れ、男と男が抱き合い、女と女が互いの衣服に手を入れ合う。ここは常世とはルールを異にする無法地帯。淫行がこの車両を支配している。
そのような空間をアークとメアとミニアークは進む。ただ一つ、アークの友達と出会うことを目的に。だが、常と違う空間に身を置いていたからか、それとも気負い過ぎた結果からか、彼女らは背後から接近する人影に気付くことはなかった。人影はフリーになっていたアークの左腕を掴みあげる。
「……!?」
「ここは君たちみたいな娘が入って来る場所じゃあないよ……おや、この肌感覚は……」
危機を感じて振り向くアーク。だが女はそれを意に介さず人差し指を頬において考え込む動作をとると、ふと思い立ったように何気ない動作でアークの首筋に指を触れさせ。そのまま下になぞった。
「ひゃぁん!?」
突如得た、えもしれぬ快感に全身の体温を高くし、嬌声と共にアークはその場で飛び跳ねる。目隠しが取れたメアは何事かと振り返りその女の姿を認める。
女は短めの茶髪に大人びた顔つきをしていた。随所に小さな露出が施された臍出しスタイルのトップにダメージの入ったジーンズを身にまとっていた。彼女はアークの動揺する様が面白かったのか口元を抑えて悪戯っぽく笑う。
「あははははは!そうじゃないかと思ったけどやっぱり本人だわ。久しぶりねアークちゃん。お姉さんのことわかる?」
キッ!と女性を睨みつけ警戒していたアークだがその言葉にはっとなり、気付く。そして彼女の名を言う。
「ら、ライズ……ちゃん……!?」
探し求めていた”トモダチ”がそこにいた。