6-1 空中浮遊都市埼玉
<女性の声>
空中浮遊都市埼玉。何の因果か換歴の埼玉は宙に浮いた。ほんとになんでだ?浮いたといっても朝と夜の通勤ラッシュの時は降りてきている。浮くなら浮きっぱなしにしときなよねえ。
草木や動物たちも高低差に対応して珍奇な進化を遂げてるとかなんとか、埼玉の雑草は傷薬の材料になるなんてほんとどうかしてるよ。
ともあれそんな埼玉は観光都市としても結構人気があってね。埼玉は何もないなんて口が裂けても言えないわけさ。さて、いつもと違った舞台でアークたちは何を見せてくれるのかなっと。
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埼玉は空を漂う雲海と共に地を這いつくばる他の都道府県を見下ろす。他県の日照率に多大な影響を与えるこの地はそれゆえに快晴率日本NO.1とされているが当たり前である。
天上に輝く太陽を日ノ本で最も近くに戴く埼玉で最も早く、人気のある乗り物は何か。飛行機?違う。改造車?違う。リニアモーターカー?違う。
答えは汽車。
中でも埼玉の外周部分をぐるりとひとつなぎにした路線を走る名物列車ツクモは大変な人気があり、地元の人間だけでなく観光客も大勢利用している。
そんなツクモは今日も汽笛を鳴らし、黒煙を棚引かせながら、シュポシュポとその黒く、重厚なボディを走らせる。
重低音を響かせるツクモの車掌室には白の車掌服に袖を通した女がいた。
「計器よし、時間よし。今日も快調ね。あら?」
疑問と共に彼女はOKサインを象り、身体の前でクロスさせた手を解くと、衣服から小型端末を取り出しそこに送られてきた情報を読み取る。
「なるほどアークが、ね。これはおもてなしをしないといけないかしら」
そうひとりごち。小型端末をしまい込むと一度気持ちを落ち着けるように窓から顔を出し、風に当たる。そして他に誰もいないにも関わらず、誰かに語りかけるようにつぶやく。
「今日の風は一段と気持ちいいわ。ツクモは感じる?……そう。まるで風が私たちに語り掛けて来てるみたいね」
SHs大戦第六話「埼玉鉄道99」
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「うめぇ!うめぇ!うめぇ!」
「アーク食べ過ぎなのだ。そんなのじゃすぐまたすっからかんなのだ。あ、それメアのなのだ!」
「借金チャラになったしサンから小遣い貰ったからそんなケチケチしなくていーんだよ。旅っつったら食道楽だろ~?ゼリーフライもうめ~なおい
汽車ツクモの客席で駅で販売されている弁当や、ゼリーフライ、饅頭、アイスなどなど埼玉名物を大量に頬張っているのはいつものお騒がせ二人組。アークとメアだ。
アークとメアは朝一で埼玉に乗り込み、ツクモに搭乗した。
ツクモに搭乗する前にもアークが集合時間に遅刻したり、埼玉上昇にテンションを上げて駆けだしたメアが人ごみに攫われるなど色々あったがそれは別の話。
「アークぅ、浮かれすぎてサイタマまで来た理由をわすれちゃったんじゃないのだ?」
「あー?舐めんなよ。ここに来た理由は一つっきゃねえだろう」
そう、彼女らがツクモへと搭乗した理由はただ一つ。
「アニメの聖地巡りだな」
違う。
「ちぇりゃー!!」
「アー!アタシのギャリギャリ君!?一口で食ってんじゃねえよもったいねえな!キーンとするのだ?そりゃそうだろ!」
頭をさすりながら非難めいた目を向けるメアに、アークは観念したように目を逸らし。
「わかってんよ。ライズちゃん、アタシの”トモダチ”を探しに来たんだ。”悪友”のオメーとな」
「ウム、この”悪友”がついているのだ。ドーンと構えていればいいのだ」
得意げに胸を張るメアを頼もし気に横目に見ると、アークはここに来るきっかけとなった一週間前の戦いのことを想起する。
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「元ノーム小隊の補給担当ライズは空中浮遊都市埼玉の韻蘭市に居を構え。そして主に環状列車、ツクモを中心に活動をしているようです」
アークの記憶の中のリクはこう言っていた。それに対しアークは、
「埼玉か、結構ちけーな。盲点だぜ、そんな近くにいたなんてよ」
「列車で活動ってもしかして運転手さんか何かなのだ?」
「それは……見てもらったらすぐわかるでしょう」
そう口にするリクは何故か頬を赤くして顔を逸らしていた。アークは何となく意味を理解したような気がしたがそれ以上追及はしなかった。小学生がいるからだ。つまりはそういうことだ。