5-9 シン・アーク
一層火勢強め、アークはリクに突貫する。辺りを焦がし、溶かし、進撃する。対するリクは一瞬で有効打がないことを悟ると退避を選択。アークから距離を取りつつ礫やDeath rollを放つも前者は身体に届く前に蒸発し、後者は全快状態になったアークにとって避けることは難しくなかった。先程と似た状況しかし完全に捕食者と被捕食者が逆転した攻防が続き。
「どうしたんですかアークさん。火が、弱まってきていますよ」
リクの言葉通りシン・アークの炎勢は削がれ、最初に展開した時よりも一回り以上小さくなっていた。そのことにアークは心外といったように憤り。
「テメーがちょろちょろ逃げっからだよ!けどこのままじゃどうにもジリ貧か。となると、手法を変えるか。こういうのはどうだ?」
「え?」
リクが疑問を口にした直後、突風が彼女の横を通り過ぎたと思うと、その後ろの土手が爆発したような音と土煙を上げる。
「……え?」
「っ、てぇ~~!!やっぱいきなりは無理か。どうすっかな、面積を増やして……」
土煙が晴れた先にいたのはアークだった。彼女は、土に汚れた部分をさすり何やら思案をしていると思い立ったように低い姿勢で両腕を広げ、リクに向き直る。
「これでよし」
「は」
次の瞬間、アークの姿が消え、代わりにリクが強烈な衝撃を受け、吹き飛んだ。着水する。
「ゴホッ」
川から顔を出し河原へと舞い戻ったリクは砕けたあばら骨を抑え吠える。
「種は見えましたよ!あなた、炎を全面に展開するのではなく一方向に噴射することで強引な瞬間加速を可能にした!そうですね!!」
「ごめーさつ。だったらどうだって話だけどな~!!」
再加速。超速度のサメがワニを襲う。しかし、
アークが到達する寸前、リクは突進軌道上から僅かに身をずらすことに成功する。そしてがら空きのそのどてっぱらに。Boxdileの拳を叩きこむ。
シン・アークによる噴射とBoxdileの拳。二重の加速によりアークは跳ね。向こう岸の土手に爆砕音と共に落着する。
「くっそ、マグレだ!」
急激な加速により一飛びで対岸を渡りリクに再度突撃を敢行するアークだったが。
「だから、見えてるんですよ」
またも間一髪で突撃を交わしたリクによって今度は横っ面を殴られるアーク。制御を失い大地を猛烈な勢いで転がり倒す。そんなアークにリクは冷淡に言い放つ。
「その加速は、単調な直線の加速しか出来ていません。恐らく、自分で制御も出来てないんでしょう?ならば目が慣れれば対応も容易いですよ。あまり、舐めないでもらいたいですね」
アークは言葉に無言でハンマーナックルを構えなおす。慣れない急加速とその制御の失敗は彼女の身体に大きな負担をかけていたのだろう。あちらこちらに傷が生まれどこか痛みに耐えているようでもある。対するリクもこれまでアークから受けたダメージや、能力発動のため自ら行った抜歯による消耗は目に見えていた。それでも戦いは続く吠声と共に二頭は激突する。
拳戟の舞踏は続く。恐らくお互いの体力からして強化された一撃が先に入ったほうが勝つことになることは両者ともわかっていた。そのため片手で牽制し、生みだした隙に強化された拳を叩きこみ、叩き込まれた側は全力で退避し、牽制をかける。そういった流れが幾度も続いていた。
そのようなやり取りもいずれは終わりが来る。先に限界が来たのはアークだった。リクの拳を回避した直後、彼女の身体は不意に沈み、体勢を崩した。無理もない、進化による身体の再構成によって傷は癒えたものの疲労はその身に残った。その状態で無理な加速を連続させたのだ、こうならない方がおかしかった。そしてそれを見逃すリクではなかった。振りかぶったBoxdileがアークの顔面を捉え。
なかった。リクの拳は空を切る。見ればアークは急激な速度で沈み込みその拳を躱していた。そして再び爆発したような加速を得て伸びあがる。
「よく考えたらこれ、ジェット体験とコツは同じだよなあ。出し過ぎ注意ってな」
リクの顎下にハンマーナックルをぶち当て。その短躯を打ち上げる。
打ち上げ花火のように高く上がったその身を突如として発生した竜巻が更にその高度を押し上げる。アークはそれに続き、竜巻に乗り込み風に任せて天上へと昇り上げる。
仰向け姿勢で天高く昇ったリクのその上空へと飛び出たアークは体を捻り溜めを作ると。それを解放するようにその背から羽の如し巨大な炎が現出、重力と合わさり落下するアークの身を一本の槍と化した。
鮫槍はワニの腹部を捉え一直線に大地へと降下する。周囲の竜巻を炎の色に染め上げながら、だ。
音を遥かに超えた加速が最高点に達した時、彼女らも大地へと達し、穿つ。着弾点から衝撃波が一斉に広がり、地を割り、周囲の炎竜巻は一瞬にして消え去った。後に残ったのは血反吐を吐き、完全に意識を手放したリクと。その上に立つ女。
「アークぅ!」
四度目のサメとワニの争いは鮫の勝利で幕を閉じた。
♦
「リクの姉御~!」
「リクちゃん様~!」
薄ぼけた意識の中、リクは自身の名を呼ぶ声で目が覚ます。
「ここは……って、アークさん何やってんですか……」
気付くとそこはアークの膝上であった。慌てて飛びのくとアークは口を尖らせ。
「何だよ~なかなかオメェが起きて来ねえから気ぃつかってやったのによ~」
「敗者に情けなど必要ありませんよ!というか絶対何か対価に要求するつもりでしょう!」
「あったり~。まあ、大したこっちゃねえからそう気がまえんなよ。あ、借金チャラは譲らねえぞ」
あっけらかんと言った後アークは居住まいを正しリクに向き直る。その要求は。
「リク。お前カルヴァリーでも結構いい位置にいるよな?ノーム小隊のミイチル、ライズ、ナジ、コタツ。この四人が今どうしてるか。知ってたら教えてくれ。頼む」
珍しく深々と頭を下げ頼み込むアークに対してリクはため息をつき。
「さっきのお友達……ですか。お断りです」
「リクの姉御~!そこをなんとかなのだー!お願いなのだ~!!」
瞳を潤ませ懇願するメアにたじろぐリク。更にそこにランカが耳打ちをし。
「リクちゃん様。言っちゃったほうがいいでござるよ。下手に知らんふりをしたらまた難癖つけて面倒なことを引き起こすに決まってるでござる。ここはさっさとお引き取り願うでござるよ」
「なるほど」
リクは観念したように嘆息し。
「いいですか。私が心当たりがあるのは一人だけですからね。それを話したらもうなんの要求も通りませんからね……」
「リク~!お前ってやつはよぉ~!」
「なのだ~!」
「ちょ、ちょっと!?なんなんですか~!」
感極まった二人から同時に抱き着かれて慌てふためくリク。咳払い一つで平静を取り戻すと本題を話し始める。
「埼玉県に。韻蘭市という場所があります。そこでノーム小隊の元メンバー、ライズが活動しているという噂を聞いたことがあります。これでいいですか」
「ああ。ありがとなリク!恩に着るぜ!!お礼に今度身体マッサージしてやるよ!」
「いりません!!」
こうして借金をチャラにしたついでに”友達”の情報を得たアークとメアはリクたちと別れ方舟市への帰路につく。
「アーク、これで来週は!」
「ああ、いくぞ埼玉。ライズちゃんを捜しによ~!!」
こうしてアークとメアの過去を訪ねる旅が始まるのであった。
第五話「シン・アーク」完結です。
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