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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第一話 アークとメア
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1-6 乳と糖と果実

 ラムルディの腰にはいつの間にかベルトのように正面に括りつけられたスムージーミキサーが存在していた。

 ミキサー下部の音響機器のようにも見える装置の上には透明ガラスの長大なコップ状の容れ物が取り付けられており、その下部には円形に配置された六枚の刃が見える。

 ラムルディは両の果実を明らかに大きさの足りない容れ物の上部へと落とし込む。すると本来であれば、入り口で詰まってしまうであろう果実たちはあろうことか、すんなりと入り口を通過し、自身より小さかった器に収まった。まるでそこにあることこそが自然であるというように、だ。

果実を覆う天蓋が現出し。ラムディは高らかに宣言する。


「乳と糖と果実(フライングフォックス)


 音声認識により刃が回輪し二つの果実を粉砕・転化していく。

 数秒のタイムラグの後に完成したのは甘い香りを漂わせるオレンジ色の液体。

 ラムルディは容れ物を装置から取り外し注ぎ口から一気に中身を飲み干していく。

 飲み干し、一息をついた彼女はハンカチで口元を拭うと先ほどまでソレを収めていた容れ物を放り捨てる。すると彼女の身体に変化が起きた。

 彼女の漆黒の髪は真紅へと染まる。髪色が変わったのではない。構成する物体そのものが毛髪から赤い小型のパイナップルへと転じているのだ。


「待たせたな。これがわらわの力。その威力は……これからその身をもって味わうがよいぞ」


「ほーんそいつぁ楽しみだ……なっ!」


 直前まで暇を持て余したかのように力を抜いた体勢だったアークは即座に戦闘態勢に移り一閃。

 迫る一閃に真紅の吸血鬼はふわりとバック宙を一回。柔らかく、しかし大きな動きにより空中へと回避する。彼女の身はまるで重力の枷から解き放たれたかのようにゆったりと上昇を続け、降りて来ることはなかった。


「うぉーい!いつまで浮いてんだー!降りてこーい!降りて来ねーなら……」


「まあそう急ぐな。直ぐに降ろしてやる。……こやつらをな」


 アークの抗議をどこ吹く風と受け流すラムルディは髪を構成するパイナップルをいくつか収穫すると、眼下へと放す。それらはゆっくりと重力に任せて自然落下する。アークはそれをただ眺めているものの突如として身を翻し距離を取るとチェーンソードをパイナップルと自身の間の壁とする。

 その判断が功を奏した。

 アークが咄嗟の防御姿勢をとった直後落下中のパイナップルたちは一斉に爆ぜ。その硬質の身を衝撃と共にぶちまけた。

 飛散したいくばかの破片はアークの身体を掠り、抉り、突き刺す。


「パイナップル爆弾なのだ!?」


「ってぇ……!けどこんなトレえ攻撃次は……」


 下から睨み付けるアークの視界に真っ先に移ったのは十を超える真紅のパイナップルであった。

 吸血鬼の振り下ろす指運に合わせアークの上空付近を浮いていたパイナップルたちが異様な速度でもって降下し爆発する。


「うおおおおおおお!?……なーるほどなぁ!?。重力の林檎と爆発物のパイナップルを混ぜ合わせたってぇことかよ!自分と爆弾に重力制御を自由にかけられるってかぁ?」


「ふむ。記憶力はともかく頭の回りは悪くないようじゃの。じゃが、わかったところで意味はない。いつまで持つかの」


 ラムルディは断たれた羽の代わりに重力制御にて宙空を漂い。逃げ惑うアークを追いかけながらパイナップルを投下し続けた。爆撃が連続する。


「アーク!これを使うのだ!」


「あ?おお!サンキュ」


気合の入った遠投にてアークの元に届けられたのは鍵縄。アークは逃げ回りながらも即座に振り回し。遠心力を高めると爆撃の隙間らからラムルディを狙い撃つ。

的確に放たれたそれは間一髪避けられるものの爆撃を止ませるには十分だった。その隙を付き、壁を蹴り移動と共にすれ違いざまに切りつける。これも躱される……がラムルディの表情には焦りの汗が浮かんでいた。繰り返す。

 一見アークが体力を消耗し続けるだけに見える攻防だったが実際には回避と爆弾の制御を重力制御という超常の力で行っているラムルディの集中力を大きく削いだようだ。結果として対処に必要以上のパイナップルを投下することが多くなっていった。そうした攻防が続く中、状況は転換点を迎える。

 ラムルディのパイナップルが枯渇したのである。


「無駄撃ちしてっからだ。どうやらもう手が尽きたみてぇだなあ。待ってろ今すぐ墜として……」


「これでわらわの手が尽きたと?おめでたい頭をしておるな。思い違いの代償は我が身で贖えよ」


 ラムルディは残った僅かな爆弾を全てばら撒きアークとの壁とすると空いた両手を虚空に翳す。


 <Avocado><Dragon fruit>



 鰐梨とドラゴンフルーツを取り出しミキサーに投入。眼下の爆発が終わるころには精製と身体への補給を完了する。

 収穫されきっていた彼女の髪は再び元の漆黒の長髪へと戻っていった。それと同時に重力制御の力も失われたのかふわりとスカートを果実の華のように広げて落下した。

着地しまだ戦闘の姿勢を取れていないラムルディに対し待っていたとばかりに土煙の中から現れたアークがエンジンのかかったチェーンソードを振り下ろす。

 真っ赤な血の華が……咲かなかった。

 外側からは大きな変化が見られなかったラムルディであったが確かにその身に変化が起きていた。それは服の下に覆い隠されたモノ。刃を受け露わになった腕部の肌にそれは現れていた。


「……っ!?かてぇ!」


 ゴツゴツとした突起の見える深緑色の硬質の肌。それがラムルディ腕を覆っていた。

 ラムルディは冷や汗混じりながらも口元を左右に長く引きき笑みを作る。その口の端に炎を覗かせてだ。

 次の瞬間、ラムルディの口砲からは充填された炎が放射されその眼前を焼き尽くした。

アークは咄嗟にチェーンソードを投げ捨て。身を屈め前転からの回避行動を敢行。すんでのところで炎の手を免れる。


「林檎とパイナップルだけじゃあねえってか……くそ、もっと吸血鬼らしいことをしろ」


 その様子を見ていたメアはふと首を傾げ手元の腕時計に疑問を投げかける。


「ヌーヌルせんせー!フライングフォックスってなんなのだ?吸血鬼となにか関係あるのだ?」


 音声認識によってメアの疑問を受け取った腕時計は回答を提示する。


「えーと。フライングフォックスはオオコウモリの異名の一種でー……果実を主食にするのでフルーツバットとも呼ばれる……血は吸わないのだ!?アークー!そのきゅうけつき。きゅうけつきじゃないのだ!コウモリやチスイコウモリのSHじゃなくて……きっとオオコウモリのSHなのだ~!」


 遠く離れた位置から叫ぶメアの声を聞きアークはバッと振り返り呆然とした顔で振り返る。


「えっ……なにお前……血、吸えねーの……?じゃあ、なんで吸血鬼なんて名乗ってんだ……?」


 見ればラムルディ拳を握りしめは打ち震えていた……


「こ、このガキィ……わらわの決して暴いてはならぬ秘密を……許さぬ……許さぬぞ……」


「お、おい……落ち着けよ荒俣の簒奪者」


 無言で怪獣のような拳を振るった。

 幾度かの獣腕を回避しアークは反撃の拳を送る。だがそれは全て硬質な腕に阻まれ逆にアークの拳を傷つける結果になる。

 アークは打撃の応酬の合間に徐々に移動を繰り返し投げ捨てたチェーンソードを回収すると勢いづき。縦横縦の連撃を繰り返しラムルディを押し返す。

 斬撃への対処のために上半身に意識を集中させたところで脚に向って蹴りを放つ。鈍い音が響く。


「痛ってぇ~~~!?」


 平然としているラムルディとは対照的に攻撃を放ったアークはチェーンソードを持ちながらも片脚を抱えて辺りを片脚立ちでぴょんぴょんと飛び跳ねる。

ロングスカートで見えなかったがどうやら脚部もコーティング済みのようだ。

痛みに喘ぐアークを尻目にラムルディは深く深呼吸を一つ。溜った息を吐きだす動作で勢いよく炎を吐き出した。


「あっづぁ!?」


 文字通り尻に火がついたアークは尻尾で尻を扇ぎ消火しながらあまりの熱さに駆けだし窓を突き抜け外へと逃れる。

 獲物を失った怪獣は階段の方に目をやるがそちらにも既に人影はなく。代わりに階下からの騒がしい声が聞こえる。


「メアを置いていくんじゃないのだ!?何しに来たのだアーク!」


「ウルセーさっさと逃げねーやつがわりぃんだよぉ~~~!」


といった醜い言い争いの声が聞こえる。その声にラムルディは大きなため息が付随する。


<Grapefruit><Lemon>


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