8-19 絶対退職!アーサー王!
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「ふはははははは~、王がーいないけりゃこのていど~なのだ~」
「若造たちが国を纏めるには早すぎる~で、ござ~る~」
メアはファイナルステージの舞台上で、ランカを筆頭に大量のエレインを従え存分に老害ムーブを愉しんでいた。対するアーサー陣営はというとケイを筆頭に僅かなエレインたちによってギリギリ体裁を保っているのが現状だった。
「せーめてーもう少し人手が~あれば~。おおー、我らが王よ~いずこにおられるのかー」
ケイの嘆きの通り、現在ミュージカル内ではアーサー王を欠いた状態で進行していた。観客はメアが仕掛ける人質や神風を筆頭にした卑劣極まりない作戦の数々でそれなりに楽しんでいるようであったがそれもいつまでもは続かないだろう。
そんな現状にメアも思うことがあった。
アークはこの事態に何をやっているのか。どうせアルトリウスと喧嘩でもして二人して遅刻しているのだろうということは予想がついているが何故イベントが終わるまで我慢できなかったのだとプリプリしている。
ともあれ場を繋ぐために次なる作戦を投下しようとした時だ。メアの耳にミュージカルのBGMに紛れて金属の弾き合う音が聞こえてくる。
彼女はこの音の正体をよく知っている。
「アークぅ!」
振り向いた視界の先で二つの影が飛び出してくる。火花を周囲に散らし現れたのは言葉通り、アークとアルトリウスだ。彼女らは互いに剣を振るい、受け、返すことで応酬としそれを繰り返しつつ猛烈な勢いでこちらに迫っていった。
彼女らの通り道、客席と客席の間に暴風が吹き荒れるが彼女らのやり取りは止まることはない。むしろステージに近づくほど苛烈さを増してゆく。そしてその勢いが頂点に向えた時。彼女らはステージへと駆け上がった。
主人公の登場だ。
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物語の壇上に上がったアークがチェーンソードを再び構えアルトリウスに向き合う。そんな彼女にメアは声を掛ける。
「アーク、遅すぎなのだ。罰金なのだ!」
「悪かったって、こっちもそれどころじゃなかったんだよ。まだ続いてっけど……ま、舞台に上がった以上はそれに合わせた形でやらせてもらうさ振り落とされるんじゃねえぞメア」
アルトリウスは顔を押さえ吠える。
「いい加減にしろ……これ以上余の心を乱すな。なんと言われようとも余は余の道を邁進するまでだ」
「そうかい。でも言葉がダメならよー謡ってみるのはどうだろうなぁ!ここはーミュージカルのー世界だぜ~!」
「何?」
突然歌い出したアークに対するアルトリウスの疑問に代わりというように一つの現象が起きた。
音楽が転調する。
<絶対退職!アーサー王!!>
歌:♠アーク・♦アルトリウス・♡その他大勢
♠アーサーなんて辞めちまえ 新たな道を切り開け お前の道を歩きだせ
24時間休みなし 金も出ねえし 履歴書書けない 一体何の得があるってんだい?
(剣戟を交わしながらのアークの歌声にアルトリウスも呼応し口を開く)
♦笑わせるなよ アーサーは損得で行うものでなし 助け求める民の声に耳を傾け救う それが騎士道 我が使命
♠何が民だ何が使命だ そんなありもしねえもんよりまずテメェの声に耳傾けな 自分救って他人救えや 背負うのはもうやめたら? ご家族も泣いてんだわ
♡もう耐えるのはやめろ これからのことを一緒に考えていこう
(アークの振りを受け、ミュージカルに飛び行ってきたケイの言にアルトリウスは激しく狼狽し剣が荒れる。乱れた旋風がステージに吹き荒れる)
♦アーサーとして生を受け アーサーとして育ち アーサーとして振舞った我が生は 今更他の道など考えられぬ
♠ゼロスタートでも何とかなるぜ 一歩踏み出せ 借金大王が酸いも甘いも教えてやるって
♡一気に不安になったのだ でも騎士姉ちゃんなら 自警団でも何でもやれると思うのだ だって強くてかっこいいのだ
♡大柄騎士系女子は貴重 需要はあるから
(振って躱してまた振って剣戟の舞。その横からひょっこりとメアとランカ、そしてエレインたちが顔を出し歌う。輪舞はより激しさを増しステージの破損は加速していく)
♦許されると思うか 記憶と歴史 悲劇の連鎖 私だけが目を逸らして生きていくことなど
(やがて音楽はクライマックスを迎え、アークとアルトリウスは互いに距離を取り)
♠お前を許さねえ奴なんてお前しかいねえよ 勝手にすり減って周りを悲しませる方がよ よっぽど許されねえってもんだろ だから
(両者の距離が一気に詰まり、ステージ中央でチェーンソードとDEXカリバー・カリバーンが衝突する。アークの持つチェーンソードに徐々に亀裂が走る)
アーサーなんて辞めちまえ 新たな道を切り開け お前の道を歩きだせ
(光りの聖剣が両刃の電動鋸を打ち砕き、そのまま振り下ろされる。音楽は止まっていた)
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アークに向かってDEXカリバー・カリバーンが振り下ろされた。だが、その刃はアークに届く前に止められていた。その刃を持つ手は震えており、しばし所有者は天を仰ぐと、剣を投げ捨て、膝をつくアークに手を差し伸べた。アークもまたその手を取り立ち上がり観客の方を向き礼をする。
方舟市に万雷の拍手が響き渡った。すると一瞬ステージの周りが光りに包まれたかと思うと光が弾け、代わりというように大輪の花々や煌めく星々がステージ上で咲き誇り、演技を終えた者たちを彩った。突然の怪奇現象にメアは興奮し飛びあがって花々や星を捕まえている。
「綺麗なのだ~!映像じゃないのだコレ!一体どうなってるのだ!?家にもって帰って大切に育てるのだ!」
「やれやれ、マーリンの奴めこんな演出に力を使うぐらいなら手伝ってもよかったろうに。だが、悪くない」
そう呟くケイの視線の先、アークとアルトリウスは頭に花弁を載せ笑い合っていた。