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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第四話「英霊転生」
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4-15 フィフスステージ

 生首の納品と共にフォースステージを終え、無事フィフスステージへの出場権を手に入れたアークたちは、残すところ十数名となった他の参加者達とともに森の奥地へと足を踏み入れた。

 アークたち参加者を先導するイベントスタッフに対し、誰かが声を上げる。それは皆が疑問に思っていたことだった。


「なあ、あんたももしかしてエレ……」


「エレインです。このイベントのスタッフはほぼエレインという名のスタッフで構成されているのですよ。条件が良いのでスタッフになるためだけに改名した人もいるとか。本当かどうかは知りませんけどね。このまま流れでフィフスステージについて解説させていただきます。フィフスステージはマーリンの封印に纏わるステージとなっております」


<解説したがりの女性の声>

 解説しよう。アーサー王の相談役にして偉大な魔術師であるマーリンはあるとき一人の女性に熱を上げる。その女性にしつこく迫ったマーリンは最終的に石の下に封印されてしまうんだ。色恋に熱を上げる奴は簡単に心乱されるよねえ。こうはなりたくないものだ。


 森を進みながらもエレインによる解説は続く。


「フィフスステージ、マーリン封印はその名の通り、このステージのボスであるマーリンを皆さまで協力してフィールドに設置された石牢に封じ込めることが主題となっております。そろそろ見えてきましたね。あちらにみえるのが今回の封印対象であるマーリンです」


「あれは……」


 エレインの言葉通り森の開けた位置に出た一行は遠方の丘にある巨大な物体をみた。五メートル大のソレは人に近い形をしており、二つの脚と力なく地面に垂らした長い腕で自らの身体を支えていた。腰の部分を覆い隠すように猿股を履いた姿はどこか滑稽さを感じさせるものだが、凶悪な猿顔と赤の警告ランプを付けた頭部によってそういった印象は掻き消される。参加者たちの間で浮かんだ感想は一つ。


「「マーリンつかメカ魔ーリンだろうがこれわ!!」」


 運営が用意したマーリンのあまりの威圧感に参加者たちは騒然となる。そんな中アークたちは驚愕しつつも分析を始める


「むう。あれはもしや宇宙戦記アーサーフォーマ―ズに登場するマーリンでござるか……恐ろしいまでの完成度でござる。このような巨獣をゲッチュウせねばならぬとはこれはとんでもないことになってきたでござるよ」  


「あんなおっきいのどうやって捕まえるのだ?」


「イベントにこんな気の違えたバケモン寄こすなんて作った奴は難易度度外視の自己中野郎に違いねーぜ……!!」



「はくしゅっ!!」 


 他の誰もいない地下の研究室で白衣姿のサンは本日二度目の大きなくしゃみを放った。彼女は数呼吸の後辺りを見渡し。


「やはり花粉……か?」


 疑問をひとりごちると元の作業に戻っていった。


 マーリンを直視したアルトリウスは顔をしかめよろめきながらうわ言のように言葉を紡ぐ。


「マーリン……あれがマーリン。余が知るマーリンたちはもっと髭が濃い。むう、いや……あんなマーリンもいたな。あんなマーリン?マーリンは複数もおらんぞ……そういえばケイ、マーリンはどこにいった?先ほどから姿が見えぬぞ」


「マーリンはさっきのステージで緑の騎士が運べず脱落したぞ。今頃観客席で旗を振っている筈だ。それより気分が優れないか?」


「まあな。だが気遣いは無用。余らはただ正統な所有者としての姿を世に示すだけだ」


 参加者たちが少し冷静さを取り戻したことを確認するとエレインは再び言葉を紡ぎ始める。彼女はマーリンから離れた位置に存在するこれまた五メートルを超える大きさの岩宿を指し示す。


「あちらがマーリンを封じ込めるポイントです。あの中にマーリンを誘いこめば自動的にマーリンの機能が停止し、ステージクリアとなりステージでの貢献度が高かった方々が最終ステージに挑む資格を得ることになります。貢献度はステージ中に行った行動一つ一つに対して運営側から逐一評価が下されポイントが与えられる形式となっております。マーリンの誘導につきましては──」


『彼女が手にもっているバナナ型発信機を利用してくれたまえ十メートル範囲内であればマーリンはその発信機を自動的に検知しソレがある方に誘導される。うまく使ってくれよ?更にフィールドにはサードステージで諸君らが利用したアイテムが設置されている。そちらも適宜利用するといいと思うよ』

 エレインの声を途中で遮ったのは方舟市市長のアトイだった。彼女の解説があった後、参加者たちは何かを溜めるように静まり返り、そして爆発する。


「「テメーこら市長!なんだあの化け物はよぉ!?参加者を殺す気かぁ~!?」」

 一斉に不平不満がぶちまけられた。空に弁明の声が響く。


『いやいや大丈夫大丈夫。そこは超高性能の最新型AIによって命に関わるような結果が出る時は自動的に止まるようになってるから安心してくれよ。それより逆に、だ。このマーリンはイベントの後は市内の土木作業などに利用する予定になっているから、多少の凹みとかならいいけど粉砕したり切断したりするのは止めてくれよぉ~?あんまりひどいと弁償を求めちゃうぞ』


「「あんなバケモン壊せるか~!!」」

 更に罵詈雑言を重ねる参加者たちであったが彼らの中にあって対照的な反応を示すものもいた。アークである。彼女は冷や汗と共に若干顔を青くしておりぎこちない。そんな彼女を気遣うようにメアが言う


「どうしたのだアーク。おしっこ我慢してるみたいなのだ。出してくるのだ?」


「出さねーよ。つーか、どうするかな、チェーンソードとかバリバリに使うつもりだったけど弁償とか絶対無理だぞ……どうやって戦う?」


「優勝すれば剣を売却したお金でどうとでもなると思うでござるよアーク殿ぉ~?」


「他人ごとだと思っていってやがるなテメェ……!!」


 アークたちが取っ組み合いを始めた頃、諍いをなだめるようにエレインは咳ばらいを一つ。そしてバナナ型通信機を参加者の一人に投げ渡し。話始める。


「えーでは皆さまルールについてご理解いただけたようなのでこれよりマーリンの起動を行います。くれぐれも怪我のないように気を付けてこの魔猿を封じ込めてやってください。私は逃げます。それではフィフスステージ、マーリン封印。開始いたします!」

 機械の魔猿が目覚める。


♦ 


「ゴアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ドラミングと共に放たれた魔猿の咆哮は、周囲一帯を震撼させた。やがて緩慢に動き始めた。

 その様を遠目に見ていたアークはポツリと問題を提起する。


「で、誰がおとり役やんだよ?」


「好き好んであんな化け物の前に立つ奴がいると思うのか?」


「そーそーなんかうま味でもなきゃあなあ」


 渋る参加者たちを予期していたように実況から追加の情報が入る。


『ここで追加情報ですが、マーリンの探知範囲内で探知機を持っていた人には一秒ごとにアーサーポイントが加算される仕組みになっているようですね。ポイントが少ない人は張り切っておとりになりましょう。レッツ人柱!』


「俺が!」「私が!」「あっしが!」


 追加情報によりバナナ型発信機に対して殺到する参加者たち、その様は餌が撒かれた直後のサル山のようであった。そんなエテ公共の頭上に巨大な影が落ちる。


「「ぬおぉおぉぉぉおおおお!?」」


 一呼吸のあと影は墜落し、地面を打撃する。亀裂が走り、土砂が舞い、土の匂いが充満する。土煙が晴れた後姿を現したのは、鋼鉄の拳。五メートル大のマーリンがそこにただずんでいた。

 バナナ型探知機は先ほどの衝撃で宙を舞っている。クリアのためには手放してはならないものだが。


「「どうぞ!お収めください!!」」


「言ってる場合か!さっさと取り戻すぞ!ランカ!!」


「応にござる!」


 アークの掛け声に合わせてランカがバナナへと飛び掛かり手を伸ばす。だがそれよりも早くマーリンが動く。彼?は身を捩じるような予備動作を行ったかと思うと猛烈な勢いで手を伸ばしつつ回転を始めた。その勢いは凄まじく、小型の竜巻が発生したかのようであった。


「ぬう、これでは近づけんでござるよぉ~!?」


 風圧によってバナナは遠方まで吹き飛ばされ、ラグビーボールのように幾度も地を跳ねる。その近くではメアが併走しておりあと僅かで手が届くというところであった。だがその奥よりもう一つ、巨大な手が伸びる。メアはまだ気づいてない。それを察したアークは駆け出し。


「ぶねぇ!」


「のだー!?」


 メアを横から掻っ攫うとそのすぐ側を巨大な腕が通っていく。それは悠々とバナナを捕まえると元の持ち主の元に戻っていった。


挿絵(By みてみん)

「大丈夫かメア!?」


「う、うん……でも盗られちゃったのだ……腕が伸びるなんて聞いてないのだ!」


 伸びた腕の主、マーリンはバナナ型探知機を手に「うっきゃうっきゃ」とご満悦の様子を見せている。その様を眺めアークは頭を掻き言った。


「さて、どうやってあれ取り返すかな。ぶっ壊していいなら話は楽だったんだがよぉ。チェーンソードもハンマーナックルも使いようがねえぞこれじゃ」


「正直あのパワーに速度、まだ機能を隠してることを考えたら厳しいでござるよ……ここは一旦引いて作戦を考えたほうがいいかもしれんでござる」


「そーな」


 合流してきたランカと共に方針を立て、皆にそれを伝えたようとしたときだ。マーリンが動いた。彼?はバナナを口に咥えると両手を肩の辺りにまで上げ掌を天に晒し、間抜け面で首を左右に振るった。煽り行為である。


「「だっ!?テメー!ぶっこわしたらぁー!!」」


 それに見事に釣られた参加者たちは怒り心頭で「うほうほ」とその場から離れていくマーリンを追走にかかる。残されたのはアークたちと。


「マーリンは、アーサー王は……アーサー王とは……うっ」


「おい!しっかりしろ!アルトリウス!アルトリウス!!」


 膝をつき首を垂れるアルトリウスとその元チームメイトだけだった。

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