4-14 DEXカリバー・カリバーン
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幾つかの生首を回収しなおしたアークたちは帰路で更なる生首を回収する機会に恵まれ、大豊作で会場近くまで戻ってきた。そして、さあ首級をポイントに変換しにいこうというところで事件は起きた。
始まりは女性の悲鳴だった。次いであがったのは野太い男たちの声だ。どよめきが会場を伝う。
「やめて!それは私が狩ったダーリンよ!?」
見れば先程声を上げたと思われる女性が人相の悪い男に緑の騎士を取り上げられようとしていた。女性は力強く抵抗するが複数人がかりでついに奪い取られてしまう。
「ダーリーン!?いっちゃ駄目~!」
「へっ、手間取らせやがって。オラ、おめーらも持ってる首を差し出しな。アーサーポイントは俺たち鍛冶場の簒奪者達が独占させてもらうぜ」
他の参加者から生首を奪うというありえん行為を働く男たちの言葉にアークはメアと顔を見合わせ。
「簒奪者!?」
「わらわは関係ない!関係ないぞ~!!」
遠く観客側の方から飛んできた吸血鬼の抗議の声を掻き消すように拡声器から実況の声が届く。
『フォースステージもクライマックスに近づくなか、ここにきて緑の騎士の略奪行為が発生ー!元鍛冶場の簒奪者達チームの面々、交換所の前に陣取って動かない。市長、これって大丈夫なんですか?』
『ルールでは略奪は禁止してないからね~盗られる方が悪いよ。自分の手柄も守れなくって何が聖剣の所有者かって話だからね。まあ人の手柄を横取りするやつもどうなんだって感じだけどさ』
『なるほど、ではこのまま元鍛冶場の簒奪者達チームが他のチーム全てを追い落とすかそれとも騎士道の元に処罰されるか……短い残り時間ますます目が離せませんね』
実況の声が止んでも状況は変わらない、いく人かの勇気あるもの達が突破を試みるが、生首を抱えながらという動きづらさやいやに統制のとれたありえん。たちの連携によって次々と倒され、奪われる。
そんな状況を生首を抱えながら見守るアークであったがふと腹部にものが当たる感触があった。メアの肘だ。
「アークぅ、いつまでそうしてるのだ?さっさとアイツらやっつけてしまうのだ」
「おめーがアタシらに持たせてる生首の山が邪魔なんだよ!そういうならオメーがもうちょい持てよ」
「メアは女子小学生だから成人男性の頭部よりも重い物を持てないのだ~」
「さっきまでいっぱい持ってたじゃねーか……」
ジトっとした視線を向けるとメアの近くに幾人かが集まってきているのに気付く。
「お、こんなとこに小学生が紛れ込んでるじゃねえか、カモだな」
「のだ~!?」
顔を上げると先ほどの男達がメアに目を付け取り囲んでいる。彼らの内一人がメアの抱える緑の騎士に手を伸ばすがメアは一歩を引き。
「なにするのだ!これはメアのだ!もう絶対離さんと決めたのだ!!」
「小学生の癖に生意気じゃねえか。こりゃ大人の力を理解させてやらねえといけねえなぁ?オラよこせぇ!」
男が手を振りかざす、アークは即座に両腕に抱えていた生首を地面に落とし動く。視界の先でメアが顔を背けた、手が伸びるその間に飛び込まんとする。
だがその必要はなかった。猛然とした勢いで横から伸びてきた手がそれを掴んで離さなかったからだ。
「なんだテメェ!?放しやがれ!」
「不敬である」
手の主は鎧姿の女、アルトリウスだった。彼女は一層手に力を込めると手を引きそれを反動として腕の力だけで男を彼方に投げ飛ばし言い放つ。
「他人の手柄を横から掠めんとする卑劣な蛮族共め。恥を知るがいい。貴様らは余自らが直々に成敗してやろう。この……」
そういうとアルトリウスは腰から何かを引き抜き高々と掲げた。
「聖剣でな」
それを見た男たちは言葉を失い。
「ぷっ」
直後に噴き出した。
「ぶあははははははは、なんだそりゃ!?そりゃおめー玩具じゃねえか。そんなんで俺らをどうするってんだ?チャンバラごっこか~?」
男達の言うようにそれは矮小な玩具の剣だった。日曜の朝に放送される番組に関連した商品であることをアークは知っている。光って鳴る子供が好むものだ。だがアルトリウスは突如として跪く態勢をとると、それを
いよく地面に突き刺し、宣言する。
「DEXカリバー・カリバーン!!」
宣言とともに引き抜かれた玩具の剣は目を開けていられないような眩い光を放ち周囲を気圧した。その威容はまるで本物の聖剣がそこにあるかのようであった。
アルトリウスが軽く聖剣を振るう。それだけで大気は乱れ裂け、大地は圧し割れる。構え、征く。
「剣が光った程度でなんだ!玩具がDXになっただけだろうがよぉー!」
男の一人は隠し持っていた刀剣を構え抵抗するが、重戦車の如き勢いの突貫により、なすすべもなく弾き飛ばされる。
「ちっ、いねやぁあああああああ!」
少し離れた位置にいた三人が銃器による射撃を行うがそれも、
「ふんっ」
一振り空を裂く。その剣圧は銃弾を巻き込み大地を巻き上げ、射撃手たちを一斉に打撃した。残された一人は膝を震わせ懇願する。
「ま、待てよ……首、首は返すからよ。見逃してくれねえか?このとーり骨の髄まで反省したからよぉ~騎士様なら降参してる相手に剣を振るったりしね~よな?な?」
その様にアルトリウスは歯噛みをし、唾棄する。
「貴様の仲間たちは行いはどうあれ最後まで戦った、それを自分の番となった途端に臆病風に吹かれるとは何事か。その性根、聖なる剣で浄化してやろう」
「く、そが!やってやらぁああああ!」
泣き落としが通じないと分かった瞬間それまでの態度をかなぐり捨てありえん。は衣服に隠し持っていた暗器によって襲いかかる。それに対し、アルトリウスは薄く笑み。
「その意気やよし」
一閃により全てを終わらせた。
蹂躙を終えたアルトリウスは翻り、メアの元に戻ると跪き、その頭を撫で。
「怪我はないか?その首級はお主のもの他の誰にも奪わせるでないぞ」
「うん。ありがとーなのだ!!」
笑顔で感謝の意を示すメアとそれに笑って応対し去っていくアルトリウス。その光景を見てアークの胸の内には一つの感情が渦巻いていた。それはポツリと漏れ出る。
「あの野郎……メアはアタシのだぞ……!!」
「うわー、超大人気ないのがいるでござる~」
ランカの呆れた煽りに対してアークは脛蹴りで応じた。
「うるせぇ!」
「おぁ~!やらんかが集め直した生首がぁ~!?」
生首がこぼれる音がする。