1-3 しかし、小学生に回り込まれてしまった
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日が頂に達しない頃。街道をゆらゆらと尻尾を揺らしながら進む人影?があった。
アークだ。彼女はサンの自宅からくすねた小銭を片手でキャッチ&リリースして弄ぶと意気揚々と目的地に歩を進めていた。
「パッチンコパッチンコひっさしぶり~新台入ってねーっかなーっと」
だが、彼女の歩みを阻む声が一つ背後からかけられた。
「朝っぱらからパチンコでおこづかいをスルとは。アークはとんでもないダメ人間なのだな。おまけに軍資金が小銭とは。みみっちくて涙が出てくるのだ」
不敵に笑うメアがそこにいた。
「な・ん・でお前がいるんだ~~~!?つーかまだスッてねえ。今日は勝つんだよぉ~~~!」
「いででででで!?めちゃくちゃ痛いのだ!アークがうつるのだ!離すのだ!」
アークはメアの両こめかみに握り拳当て込み圧迫しながら持ち上げた。メアはジッタバッタと両足を振り回すがアークは意に介さずメアの元気がなくなるまでグリグリし続けた。やがて気が済み解放されるとメアは涙目で地面に手を着き荒い息で言葉を続ける。
「ううう~~~ジンジンするのだ……。頭がアークになっちゃったかもしれないのだ……」
「おう。もう一回やっか?でなんでいんだよ」
先程の拷問のジェスチャーをするアークからメアは一歩距離を取った。
「サンせんせーからSHのことはいっぱい聞けたけどまだまだわからんことがいっぱいなのだ!だからメアはアークを観察することにしたのだ」
「ふーざーけーんーな。だーれがこんなガキのお守りなんてやるかよ。さっさかーちゃんのとこに帰った帰った」
手をスナップさせ追い払う動作をとるも。メアはめげることなく一歩を前にだす。
「ガキじゃないのだメアなのだ!そうはいかないのだ。一度目を付けたからには絶対つきまとうのだ。おはようからカラスが鳴くころまで一緒なのだ!」
「あ、向こうにSH」
「マジなのだ!?」
アークに指を差された背後に向って首がねじ切れんばかりの勢いで振り返ったメアであったが視界に移ったのはランニング中のボディビルダーらしき一団だけだった。
「SHどこにいるのだ?ムキムキしかいないのだ。SHは女しかいないってせんせーいってたのだ」
メアは首を傾げアークの方へと振り返るとアークは遥か遠方に消えていた。
「あーっ!逃げたのだ!?」
アークはいい姿勢で全力疾走し高笑いを上げていた。
「はーっはっはっ単純な手に引っかかりやがってバカガキがよ~~~!!子連れなんてまっぴらごめんだぜ。あーばよー!」
そこまで叫んだあとアークはふと嫌な予感に思い当たり半目になる
「あのガキ観察するとかいってたけど……まさか明日もこねえだろうな?」
次の日。
「うまなみなので~」
駅前で鼻歌を歌いながら意気揚々と歩くアークの姿があった。
「メアを置いてどこに行こうというのだ?」
「ちょっと競馬に……。げーーーっ!?異常小学生!やっぱり来やがった!」
追跡者の姿を確認した直後アークはクラウチングスタートの姿勢を取り即座に走り出さんとした。だがそれよりも早くその右手に手錠が掛けられる。
「逮捕ー!?」
「つかまえたのだー。これで今日一日いやがおうでも一緒なのだ……かくごするがいいのだ」
上下の歯を噛み合わせキシシと笑うメアとは対照的に青い顔で手錠を眺めるアーク。
「お前これ……本物……?」
「マミーのお部屋にあったから持ってきたのだ。調べたらけっこうなお値打ち品。壊したらべんしょーしてもらうのだ」
「こいつ……あ、いやそうだお前鍵もってんだろうな?」
「置いてきたのだ」
「は?」
「お家に置いてきたのだ」
あっけらかんと澄んだ目で話すメアとは対照的にアークは慌てふためくアークは切実なことに言及した。
「ああ!?おま……お前……。こんなんでお手洗いどうすんだよ……!」
「あ」
メアもこれは予想外といった表情で慌て始めた。
「や、ヤバいのだ……意識したらちょっとおトイレに行きたくなってきたのだ……」
「ふっ……ざけんなよ……!?おい……お前の家近いのか?さっさと鍵取りにいくぞ……あん?」
歩きだしたアークを阻むようにその場で立くすメア。珍しくその顔は憔悴している。
「まずいのだ……今日はお昼までマミーがお家にいるのだ……勝手に手錠持ってきたのバレたら……アークみたいな不良とつるんでるとバレたら、怒られるのだ……!」
「知るか!さっさと家教えやがれ……!」
「せっしょうなのだー!せんせーにかぎ開けてもらうのだー!!」
群衆の中で小学生のの叫びが木霊し、渦中のアークはそれはもう白い目で見られた。
更にその次の日。
「いつまで入ってるつもりなのだ?早く冒険に出発するのだ」
「個室を上から覗くなよ!お手洗いだぞここ!?」
個室の上縁から顔を覗かせるメアは目を細め平に伸ばした手を振ると。
「昨日一緒の個室でトイレした仲なのだ。見ててやるから早くすませてしまうのだ」
「帰れ!」
帰らなかったので夕方まで遊んだ。
また別の日。
「お前……どうしてこう毎日毎日見つけてくんだよ……!?」
「知らんのだ?小学生からは逃げられない」
またまた別の日。
桜の舞い散る花道を、アークとメアは歩いていた。
「学校も始まったってのにお前も毎日毎日あきねーなー」
「がっこーよりもアーク見てる方がおもしれーのだ。終わったら直行なのだな」
そういうメアは紫色のランドセルを担ぎアークの前で影を踏み外さないように飛んで歩いている。
「へーへーがっこでトモダチできなくなってもしんねーぞ」
満更でもなさげにいうアークにメアは片足立ちのまま振り返り笑う。
「ノープロブレムなのだ。初日に学年で幅を利かせてるオジョウを打ち取ったらクラスの支配者に祭り上げられたのだ。ともだちいっぱいなのだ」
それ下僕じゃね?という言葉を飲み込み足を止めたアークを他所にメアは言葉を続ける。
「それよりも友達いないのはアークの方なのだ。ここ数日知り合いはいても友達っぽい人が全然いなかったのだ。アークってもしかしてぼっちなのだ?フレンドしんせいしてやろうなのだ?」
「ぼっちじゃねーよ!トモダチも……5……4人ぐらい……いると……おも……いーんだよ。トモダチなんてアタシにゃ必要ねーの」
途中自信がなくなりつつも強がった口調で告げるアークにメアはなおも続ける。
「それはアークがSHだからなのだ?」
「あ?あー……そう。そーそーだからもうくっだらねーこというんじゃねーぞ。さ、今日はどこいっかなー」
頭をかきつつ再び歩みを始めたアークは途中でメアが付いてこないことに気づき振り返った。
「おいどーした?置いてくぞー」
「あ、メアを置いてくのは許さんのだー!」
メアはアークを追って駆ける。もはや影の外に出ることなど気にしてはいない。