2-4 最後の楽園ロメロモール
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「既に狙われていた……?それとも無関係の作戦か?どちらにせよ。いやがるな。この街に。SHがよぉ~」
「どうするのだアーク!」
「決まってんだろ……こちとらずっと楽しみに待ってた新台初打ち台無しにされたんだぞ。見つけ出して!ぶっ潰す!!」
拳をバキバキと鳴らしいつになくやる気に満ち溢れたアークの隣で、メアはシャドーボクシングを数発撃つと疑問を口にする。
「で?どうやって見つけるのだ?」
「そ、そりゃあ……あれだよ……アレアレ。なんかこー、この事態でも平然としてそーな奴を見つけてだな」
「お、あそこにまだ布教されてない奴がいるぞー!」
「あ、ヤベ」
道の端でヒソヒソと作戦会議をしていると当然、群れに見つかる。
「布教ー!!」
「逃げろー!!」
グッズを片手に襲い来る大群を前にメアを抱えてアークは逃走を開始する。SHの身体能力であれば簡単に振り切れると思われたが事態はそううまくいかなかった。
まず第一にアークが普段とは違い。擬態を取っていたことが原因だ、めでたい日に馴染のない街で騒動を避けるために尻尾を消し、人間に近づいていたが、これが身体能力の低下を招いていた。擬態が下手なアークにとって逃走しながら元の状態に戻るのは困難を極めたのだ。
第二に追う彼らは”走れるタイプ”だった。元からそうなのか、それとも情熱が脳のリミッターを外しているのかはわからないが彼らは普通の人間よりはるかに機敏な動きを見せた。
そしてこちらが最大の理由だが、とにかく数が多かった。既に街中いたるところで布教が行われており。行く先々で新たな布教に出くわし、その度ごとに追跡者の数を増やすことになった。始めは十名ほどだったのが今では数十人に追いかけられている。
無限に続くと思われた追走劇だったがやがて転機が訪れる。と、いっても好転したわけではない。その逆だ。
「アーク!どんどん増えて来たのだ!ヤベーのだ!!」
「わーってるよそんなもん!くそ。いざとなりゃアークネードで吹き飛ばして……ん?んだありゃ」
アークの視線の先。進行方向に動く塊があった。いや、群れとそれを率いる者がいた。
「だ、誰かー!助けてくださーい!!」
アイドルの布教を試みる大群とそれから必死に逃げる緑髪の少女が真っすぐにこちらに向かってきている。
そして自身の後ろにはまた別ジャンルの大群が壁を作っている。そうこうよそ見をしているうちにアークたちと緑髪の少女はゴチーンと正面衝突する。
ふらつくアークとは対象的に緑の少女は尻もちをついてしまった。彼女は自分の状況が理解できておらず少しぼうっとした後慌てて立ちあがろうとするも既に群れが目前まで迫っていた。
緑髪の少女は目に涙を貯め。
「助けて」
「しゃーねーな!!」
彼女が布教されることはなかった。アークがその手を取り、引き寄せ。奪い去ったからだ。高速で離脱する。
少女はハッ顔をあげアークを見る。
「あなたは……?」
「あとで揉ませろよよテメー」
「え、あ、はい。……どこを!?」
普段ならメアが物理的突っ込みを入れるところであるが生憎彼女は先ほどの衝撃で目を回してしまっている。そんな彼女を他所にアークたちは逃走の方針を話し合う。
「おいテメー。なんであんなとこにいた。」
「なんでって!休日にショッピングに来ていたんですよ。そしてら街の人が急に変になって……それから逃げていたらってそんなことはどうでもいいんですよ!これからどうするんですか!?」
「うーん街堺から離れちまったからな……休憩してーし……どっか隠れれるとこねーかな」
「!右見てください!ショッピングモールです!しかもバリケードが張られていますよ……きっとまだ布教されてないんですよ!どうにかこっそりあそこに匿ってもらいましょうよ!」
汗を風に流しつつ二人を抱えて走るアークに不穏な考えがよぎる。
(……こいつがSHって可能性は。まあ、あるんだよな)
その疑いのある者の勧めに従うかどうか。そもそも捨てていくべきかまでを考えて彼女の先ほどの涙を思い出す。
(……まあそん時はそん時だな)
「おし。そんじゃいくぞしっかり捕まってろよ!」
全速力を出し背後から迫る団体様を一時的に振り切り、一行はショッピングモールへと足を踏み入れる。
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アークたちはショッピングモールの敷地内へと辿り着いた。布教をするものたちもいるにはいたが周囲に数人がいる程度のもので簡単にやり過ごすことができた。
「ヤツらはまだそれほど集まっていないようですね……」
「つってもそれも時間の問題かもしれねえ。奴らが手薄な入り口を見つけて中にいれてもらうぞ……っとあそこがいいな」
アークが見つけた入り口は内側からバリケードが敷かれており、周囲にも布教者の姿はなかった。
入り口までいくとバリケードの向うから生存者らしき人物たちが怪しむような眼でアークたちをねめつけていた。
「私たちはまだ布教を受けていません。どうか中に入れて貰えないでしょうか?」
緑髪の少女の申し出にも拘わらず内部の印象は良くなく。
「あんなこといってるけど本当に大丈夫かしら……?開けたとたん押し売りされないかしら。こわいわ……」
「バリケードをどかして配置しなおすのにどれだけ手間がかかると思ってるんだ。その間に攻め込まれたら終わりだぞ。帰れ帰れ」
散々ないいように緑の少女がシュンとなったのをみかねアークは拳を鳴らし。
「あー、もういいやちょっと休憩するだけなら無理矢理…」「いれてくれなきゃ街中の人達センドーしてここにぶつけてやるのだ。されたくなければいれるのだ」
「ええ……」
強行突破よりも先に小学生らしからぬ脅し文句に緑の少女を含む内部の人達は絶句する。やがてモールの奥から一人のテンガロンハットを被り顎髭を蓄えた男が姿を見せる。彼は皆を安心させるように笑みを見せると口を開く。
「彼女たちなら入れても問題ない。ちゃんと自制できてるだろう?大丈夫さ。それより年若い娘さんたちを危険な場所に置き去りにするほうが、彼らに噛まれるより人間性の喪失としては危惧すべきだと思うね」
「うっ、そりゃ俺達も見捨てたいわけじゃあ……いいよあんたが言うなら従うさ。入りな嬢ちゃんたち」
テンガロンハットにたしなめられた人々はバリケードを撤去してアークたちを招きいれる。
「ようこそ、恐らく嵯峨最後の楽園。ロメロモールへ」