10-7 SHs振り返り3
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「改メテ見テモアーサー王イベハメチャクチャダゼ」
「映画みたい~だった~」
「あははは。映画館で見たからかもね」
先の嵯峨での一件を説明する際に触れられたミニアークを加えた一行は、再びコタツのいつどこシネマの中で映像記録を見て帰ってきた。
方舟市全体を巻き込んだ第一回ネクストアーサー王だ~れだ大会は映像記録化され一般販売されている。アークたちの活躍を見てもらうのはこれが一番だということでコタツの能力でアクセスしてもらったのだ。
初視聴の二人は既に感想戦でいいたいことが幾つも溜まっているようでウズウズしているのがアークの目にも分かった。
「ね。セカンドとサードステージで組んでたランカって人がオタクランドサガ事件の首謀者ってことでいいの?スタイルのいい別嬪さんね~」
「岩戸にーしまっ……ちゃわれた~市長ーおもしろーかった~。ねー」
イベントの質問についてアークたちがひとしきり答えていくと。話題はこのイベントの主役ともいえる彼女に移った。
「王様わ~げんきーなの~?」
「そういえば会ってないのだ~」
「にゃいん交換したからそこでニチアサの感想言い合ってる。まあ、問題ねーんじゃねえの?傭兵やってるらしいし、今日もどっかでありえん。でも追い回してるんじゃない?」
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「「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」」
巨人の一撃に人々が宙を舞う。ここは昼の繁華街。通常であれば一般の買い物客などが多く通っているはずであるが今、ここには武器を携えたものたちしか集まっていない。
彼らは地に這いつくばっているものも含めてあるものを囲んでいる。
ソレは土で出来た巨人であった。千手観音にも近い多重の腕を持つ全長五メートルを超える巨大物体は、頭頂部に座すホスト風の男の操作によって、まるで人間のように滑らかに稼働し、周囲を取り囲む傭兵集団を蹂躙していく。
『お兄さん、ちょっと地べたでゆっくりしていかない?一撃にしておくよ!あ、お姉さん!きれーだね~。ちょっとこっちきてくれるかな?』
「「ぎぁぁぁぁぁ!?」」
キャッチセールスの文言と共に繰り出される千手観音の慈悲なき攻撃に次々とありえん。【キャッチコピー】の討伐に集まった傭兵たちは倒れていった。
「くそ、後はコイツだけだってのになんだこの巨人は……ロボじゃ……ないよな?」
「ゴーレムの類だと思うが……やたら古くて強いぞ。やってることは最低の癖に!」
『聞こえてるって』
「うごあッ!?」
一撃一撃が屈強な戦士たちの膝を折るには十分の重さを持つものであった。もはや繁華街には巨人の前に立つ者はいない。
『これで終わりか~。それじゃ先に捕まった奴らや複製人間共を解放して……どっかに逃げるか。また拠点の作り直しをしないといかんのは面倒だけど……なに、こいつがあれば俺っちたちは安泰っしょ~』
「クソぉ……」
歯噛みをしても立ち上がれるものは、彼らの道を阻む者はもういない。邪悪は再びこの世に解き放たれてしまうのであろうか?
「待て」
否、まだ終わってはない。まだ、悪に立ち向かうものはいる。
『な~に~?俺っちこれから忙し~んだけどぉ?あんた誰?』
現れたのは三人。老人と、麗人と、王冠を被った女性。
「余は騎士であり……王を目指すものである」
騎士がこの世にある限り悪が蔓延ることはない。
『騎士ぃ王ぅ?なーに馬鹿なこと……いや……おねーさん美人っだね~そっちのイケメンも素質あるよ~。いたただき~!!』
巨人の腕が四本、弾丸以上の速さで伸び女性たちの元に走った。だが、先ほど屈強な傭兵たちを蹴散らした脅威に迫られながらも彼女は落ち着き払い。手にした玩具を地面へと突き刺し叫ぶ。
「下がっていろ。DEXカリバーカリバーン!!」
衝突が生じる。近くの店舗のガラスが割れるほどの衝撃が走り、砂煙が衝突点の姿を隠した。
『おっと勢い余って轢き潰しちまったか。俺っちってばうっかりさんだわ~。せっかくの上玉だってのにもったいねえ』
「貴侯ら【キャッチコピー】は繁華街で人を攫い、被害者を複製した者を人身売買組織に売り出していた。間違いないな?」
『うえ!?ま、マジかよ!?』
女性は……元アーサー王アルトリウスは無事であった。四本の腕を光り輝く玩具の剣一本のみで受けとめている。玩具の内部音声だけが繁華街に響き渡る。
「否定がないということは。事実だと認識してよいな」
アルトリウスは手指のスナップで玩具の剣を手の中で回転させた。それだけで数多の傭兵たちの攻撃を弾いてきた巨人の装甲は溶けかけのバターのように切断され、砕かれた。
『はあ!?ちょちょちょちょっどういうことだよ!?』
アルトリウスは進撃を開始する。それを阻むために、臆病者は腕を動かした。数十もの拳がミサイルランチャーのように降りかかるが、
「児戯だ」
玩具を振り回し騎士は言う。土拳は正道なる剣により全て叩き落とされ土塊へと転ずる。そして一瞬にして距離を詰めた彼女は巨人の片脚を袈裟斬りに切って捨てる。
「核はそこだな」
そしてバランスを崩し横に倒れゆく巨人の腎臓部分に王の剣を突き込んだ。王の光が内側から土の巨人を焼き。その命を奪う。巨人は、音もたてずに泥のように崩壊していった。しかし、崩壊する直前の巨人の貌は、気のせいか満足しているようにも思えるものであった。
兵器が消えてもその操縦者はそうもいかない。彼はそろりそろりとアルトリウスたちを刺激しないようにゆっくりと這って逃げることを試みるが、
「気付かないとでも思ったか?」
「ひぃー!?」
眼の前に突き立った聖剣によって断念させられることになった。
「降参!降参します!!」
「よし。皆の者、悪はここに倒れた!」
繁華街は歓声に包まれた。先程まで倒れていた傭兵たちやいつのまにか様子を見に来ていた人々たちの歓喜の声だ。
アルトリウスは数言、【キャッチコピー】の元締めと言葉を交わすと、傭兵たちに彼を引き渡し。従者二人の元へと戻っていった。
「ご苦労だったなアルトリウス。それにしても一般ありえん。にしては凶悪な物を使っていたな。一体どこで手に入れたのやら」
「本人曰く埼玉の汽車で怪しい古物商から買ったとのことだが。そいつについても調査の必要があるかもしれんな」
王、アルトリウスと麗人ケイの会話の裏で老人魔術師マーリンは泥の残骸を眺めて呟いた。