10-6 SHs振り返り2
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「その次の週に起きたのがオタクランドサガ事変なんだよな~」
「なあ~にそれ~?」
コタツの部屋ではアークが次なる話題に移ろうとしていた。
「ああ、方舟市の隣町で起きた事件で、パチ……ゲームセンターにメアと一緒に行こうとしたら巻き込まれた事件なんだけど──」「ウソ言うんじゃないのだ。ゲームセンターじゃなくてパチンコに連れて行ったのだ」
「メア―!!」
アークの都合の悪い部分を誤魔化す作戦は早々に瓦解した。やはり、というべきか”トモダチ”の反応は芳しくない。
「え?アークちゃん……?小学生のメアちゃんをパチンコに連れて行ったの?不味いわよ。倫理的に」
「淫行列車を作った人に言われたくないんだけど!?」
「で~もー。素質は~あったとー思うーな~。勝負事にも~あつくーなりやすーかったし~」
「コタツちゃんまで!?」
「もっと言ってやるのだ~!」
囃し立てるものを取り押さえて続きを話す。誤魔化すことは諦めた。
「好きなアニメの新台入荷日だったんだよ!……伝わる?いや、いい。やりたいパチンコが嵯峨にしかなかったんだけどそれ自体が罠だったんだ」
「店内にはすでにカンセンシャがいたのだ~」
「え、病気?それは怖いわね」
「ある種病気ともいえる。特定の作品に対してめちゃくちゃ情熱が燃え上がってそれを布教したくなる病気。布教には噛みつきが使われて噛まれた人はオタクになる」
「ゾーンビ~だ~」
映画に詳しいコタツが早速趣旨を理解したようだ。
「布教ゾンビは次々に数を増やして街をおおいつくしたのだ!アークと一緒に街を逃げてるとリクの姉御に出会ったのだ」
「そいつもゾンビの発生源とはまた別のSHだったんだけどね~。ワニのSHで中々強い」
続きを話そうとするも何かが引っかかったのかライズが口を挟んだ。
「ワニのリクちゃん?ちっちゃい緑髪の子ね」
「知ってるの?あ、そっかライズちゃんの居場所はリクから聞いたんだった。会ってても不思議じゃないか」
「半年よりも前だったかなあ。いつものようにあの車両に乗ってたら乗り込んでその子が乗り込んで来てねえ。『ライズさんはどなたですか?』って。表面上強がってたけどどう見ても引いてたからこっちから声かけてあげたの」
「それで何もされなかったのだ?」
「うん何も。ノーム小隊の元メンバーだったお姉さんと手合わせしたかったみたいだけど私はバリバリの戦闘員ってわけじゃなかったから断っちゃった」
アークは疑問する。リクは自分以上の戦闘狂。果たしてその程度のことで引き下がるだろうか。
「……エッチなことしてないよね?」
「なあにいってんの。人をエロ魔神みたいに言って~。ちょっと肌を撫でて耳に息を吹きかけて囁いてあげただけよ」
「ヤってるじゃん!!」
「ふ~んー?」
コタツがおっとりとした表情のまま不穏な気配を纏い始めたので早急に次の話題へと移ることにした。
「で、リクと一緒にショッピングモールに逃げ込んでしばらく休憩してたんだけどそこにはもう敵の黒幕……はリクか。その部下の感染源も入りこんでいたんだ。おかげでモールの防衛線は内側から崩壊。屋上まで追い詰められたんだ」
「やランカ……ゆるすまじなのだ……!!」
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「えっきし!でごるぅ!」
「なんですかその無駄に騒々しくイライラするクシャミは?風邪ですか。頭の」
嵯峨市に存在する巨大なカジノリゾート施設。その管理を行う部屋にて施設のオーナーであるワニのSHリクと副オーナー、ピラニアのSHランカがいた。
リクは書類の束を机に置くと。軽いため息をつきつつ視線をランカに戻した。
「先程はご苦労様でした。まさか未だにこのカジノでサマを働こうというものがいるとは。短慮が過ぎて言葉もでません。それもあんな手で……」
「これでござるな」
ランカが視線を向けたのは机の上に置いてある手のひら大の赤黒で構成された円ダイヤルであった。先程イカサマが発覚して地下労働施設送りになった客が所持していたものである。その者はルーレットゲーム中にポケットの中のコレを弄っていてランカに捕まった。
「ディーラーが投じたルーレットの値がこのダイヤルで示したものと同じになる。なんとも奇妙な逸品でござるな。恐らく船来の品であると思われるでござるが。目下出所を捜査中でござる」
「仕事が早くて何よりです。しばらく前に突然休日出勤してきたと思えばオンオンと気持ち悪く泣き出しながら『一月振りの推し摂取でござるぅ!!』って飛びつこうとしてきたあげく、迎撃したらしたで大層嬉しそうな顔を見せたときは『とうとうコイツだめになりましたか……。後任を見つけませんと』と思ったものですがこの分ならもう問題な
ようですね」
「いやあ、アレは色々と複雑な事情がござってなあ……。やランカもう充分にリクちゃん様成分を補充できたので復調でござるよ。こうして褒めて貰えたでござるしな。へへへへ役得でござる」
ランカは珍しく気持ち悪くない笑顔を上司に見せた。リクは僅かに顔をしかめて追い払うように手をスナップさせる。
「はいはい。補充できたんなら業務にいってきてください。これからも活躍を期待していますよ」
「推しからの期待!身に余る光栄!行ってくるでござる~!!」
ドタドタと意気揚々に部屋を出ていったオタクを見送りリクはため息と共に言葉を吐いた。
「コレの使い道は後で考えるとして……昔はあんなんじゃなかったんですけどね~。一体どこで道を誤ったんですかねえ」