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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第九話「ウシワカ館の連続殺人」
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10-4 過去の記録2

 とある港の外れに、一軒の家屋が存在する。その中では人々が祈りを持ち寄っていた。


「「噛み太郎 吹き太郎 やっちゃんは 酢ムリエ スパルタ屋の シガレット」」


 平時は駄菓子屋として機能しているこの建物の中に、今宵はフードで顔を隠した正体知れぬもの達がこぞっている。呪文と共に祈る彼らの眼前には大量の駄菓子のようなものが捧げられた祭壇が存在していた。


「「シガ!シガ!」」


 蝋燭の火と月明りだけが薄く照らす暗い室内で、敬虔なる祈りが重ねられる。その度に闇が、異世の理を運び込む。それはやがてこの世の理を乱す萌芽となる──


「邪魔するぜぇ!!」 


 そして萌芽は乱雑に開け放たれた扉と共に摘み取られた。

 乱入者は四名。いずれも既に室内にいた者たちと異なり揃いのコートを着ておらずそれぞれバラバラの衣装の少女たちだ。つまりは部外者。最前列で祈りを捧げていたもの。この教団の司教は警戒と共に声を飛ばす。


「何者ですの!?見張りの方はどうされましたの!」


 返事の代わりにパンクファションの少女は握り込んでいた棒を振りかぶり、豪速で放った。それは最前列の司教の頬を掠め、景気のいい破砕音と共に祭壇を打ち砕いた。


「こーいうモンだ」


「ア……ナタ様!!何をやっていらっしゃいますの!?お撃ちになって!」


 激昂を抑えた司教の指示により幾人かはスナック生地の大筒を袋から取り出し構えるも、


「あばよ」


 既にその場に少女たちはいなかった。真夜中の港で砲音が轟く。

 駄菓子屋にして邪菓子教団タラタラスの本拠地の壁は大量の在庫と共に吹き飛び、辺りには砂煙が舞い散る。海風がそれを運び去った後には襲撃者の姿は見当たらなくなっていた。


「く……お探しになってくださいまし!まだ近くには行っていない筈ですの!!」


「は!」 


 フードを被る信者達は先程の砲塔を含め様々な邪菓子を携え建物から姿を現していく。それを狙いすましたように、建物の影から彼らに飛び掛かる影があった。


「ここだ!よ」


「ガッ!?」


「アナタ様。お逃げになったのではなかったんですの!?」


「アホいえ。アタシらの目的はオメーらの壊滅。儀式止めたぐらいで帰るかよ」


 再び姿を現したパンクファッションの少女は倒した信者から大筒を奪い取ると獲物を前にしたような凶悪な笑みを見せた。


「おおかた欠けた円環の継手(カルヴァリー)辺りのお差し金でしょうけど……飴のように舐めていただいては困りますわね。うまい砲部隊!撃ち方始め!!」 


 既に信者たちは少女に対して扇状に展開しており、それぞれがスナック生地の大筒、うまい砲を構えていた。砲撃が敢行される。

 少女との元に砲弾が殺到する。だがその間に一本の傘が割り込んだ。幾重にも連ねられた砲火は全てその黒花によって防がれ、その後ろにいた少女四人を傷つけることはなかった。


「へへへ、ノームちゃんありがと」


「も~ナジーちゃんったら危ないんだから」


「だって武器投げちゃったから代わりの奴拾わないといけねーじゃん?」


「なんっで計画性もなしに投げちゃうのナジーちゃんわ!?」


「うるせーなアークは。んなもんノリだよノリ。あそこでああしたほうがキマってるだろ?お、この大砲食えるな。うまい」


「お腹壊すから食べちゃだめよ~」


「あらあら拾った武器もなくなっちゃったわね」 


「真面目にやってよ~!」


 砲撃を傘で防ぐノームの後ろで、アークとナジーは姦しく言い争う。そんな様子を見ている司教は勝ち誇り、一層砲撃を強めるように指示をだす。


「おーほほほほほ!うまい砲を傘一本でこれほど凌がれるとはおったまげましたが。それがいつまで持ちますの?」


「そっちこそ。いつまで攻める側でいられると思ってるのかしら~」


「なんですの!?」


「ぎゃあ!?」


 返事をしたのは信者たちであった。砲撃を担当していた内の三名が肩や腕を撃ち抜かれて血を流し、跪いていた。


「──狙撃ですの!?しかも三名様以上ですって!?散開ですわ。狙いを付けさせてはいけませんわ!」


 素早い指示だしであったがそれでも遅かった。乾いた音を皮切りに、砲撃手たちは次々と倒れていく。さきほどの狙撃ではない、音の発生源はもっと近くから来ている。


「砲撃手は全員潰した。もう守ってなくていいよ」


 アークだ。信者たちが狙撃に気を取られている間に傘の後ろから躍り出た彼女がハンドガンによってうまい砲持ちの四肢を的確に撃ち抜いていったのだ。これにより彼女らをとどめていた要因はなくなった。逆襲が始まる。


「はい。予備の棒。こういう時のためにお姉さんがいるのよね」


「サンキュー。おら食えー!!」


「うぼぁ~!?」


 仲間から武器を受け取り、獣のように次々と獲物を襲うもの。


「それじゃあちょっと痛くするわよ~」


「傘が解けて……糸に!?」


「ひっ、糸が絡まって──ウワー!?」


 莫大な糸で信者たちを絡め取り、壁や床に叩きつけていくもの。


「ミイチルちゃん、敵はここにいるので全部?援軍とない?」『いたら言ってる』「わかったありがと!」


 通信で後方支援の味方と連絡を取りつつ、遠距離武器と近接武器を使い分けるもの。

 三者三様であったがいずれも最早信者たちが対抗できる戦力でないことは自明であった。


「ちょ、ほっ、やっ!?おねーさんにはやっぱり前線はきっついわ~。はい、アークちゃん。銃弾よ~」


 半戦闘員である一人を除いて、ではあるが。


「仕方がありませんの……これはしっかりとしたお儀式で使いたかったのですが」


 物陰に身を隠し戦いの趨勢を見切った司教は、つい先日とある古物商から買い取った

禍々しい写本に手を触れ、詠唱を始める。


「噛み太郎 吹き太郎 やっちゃんは 酢ムリエ スパルタ屋の シガレット シガ シガ ジャガルフ!!」


 詠唱と共に世の法則は乱れ、そして邪神が姿を現す。今、港に現れた存在は名状し語り量の駄菓子で身体を構成した化け物だ。家屋程の巨躯を持ち、魚類を思わせる身体の背にはヒレのように棒状の駄菓子が連なっている。うまい砲を横に付けたようなTボーンヘッドの邪神はアークたちに無貌を向けるとゆっくりと進撃を開始した。


「おいおいおいマジにバケモンじゃねえか。……駄菓子で出来てるし食って倒せねえかな」


「馬鹿言ってないで戦ってよナジーちゃん!」


文句と共に銃弾を放つアークであったが、邪神の身体は弾丸に抉られた部分から直ぐに別の駄菓子が生えて欠損部分を埋めていった。

 再生を終えると邪神は怖気が走ったように身を震わせ背部の駄菓子を射出した。それらはまるでミサイルのように地上のアークたちに狙いをつけていた。


「うそぉ!?」


 射出された12本の駄菓子のうち半数以上は糸によって叩き落とされ、防がれた。幾本かが残ったが訓練を受けた彼女たちにとって避けることはさほど難しいことではない。やり過ごした後に軽口をたたく余裕はある。


「きーてねーじゃん。やっぱ食うのが正解だって」


「そんなバカな解決方法があるわけないでしょ。でもどうしようノームちゃん」


「たしかー。資料では召喚に使った本を燃やしてしまうのが正解って書いてたわね~。ミイチルちゃん、司教さんの場所──なるほどあの後ろね。ありがとう」


 ノームが示した先は確かに司教が身を隠した場所であった。


「それじゃあお菓子のお魚さんは私とライズちゃんが押さえておくから~。二人とも本はよろしくね」 


「オウ」


「わかった。気をつけてね」


 仲間と別れて自らの横を通り抜けようとする者たちを放っておくような邪神ではない。当然薙ぎ払う、そのように動こうとした。動けなかった。邪神の巨体にはいつの間にか糸が絡みついていた。


「…………」


「あらあら。そんなに大きくても力は私の方が強かったみたいね~」


 邪神を封じる糸の先にはいるのはノームであった。邪神は束縛から逃れようとするように身を動かそうとするが動けない。あり得ざる光景ではあるが二階建ての建物よりもなお大きな怪物よりも人間大の少女の方がより強大な力を持っていることを端的に示していた。


「あの子たちには指一本触れさせないから……そのつもりでね?」 




「待てコラぁ!菓子と本置いてけやぁ!」


「お菓子はいらないでしょ!」


 アークたちとナジーは司教を追って狭い通路港の路地を駆けていた。持ち前の身体能力とミイチルによるナビゲートによって直ぐに追いつくことができたが、いまだに捕らえられていない。敵の妨害が激しいからだ。今も、


「こないでくださいまし!乱暴者ときくお口はなくってよ!ねじりんBOW」


 司教の元から串にささった捩じれた餅のような物体が矢のように射出される。それは丁度彼の背後を追うアークたちを貫く軌道を取っていた。


「もうめんどくせぇ!」


 だが、射線上のナジーは避けもせずに大口を開け、それを喰らった。


「ふへんな!へんふふってやっはぞ」


「コラー!そんな怪しげなもの食べちゃダメって言われたでしょ!……で、それ美味しいの?」


「うめーうめー。舌の上で溶けるみてーだ。一本食ったらどうだ?」


「──いらない!」


「でたらめな方々ですのね……!」


 司教が邪菓子を放ち、ナジーが腹を満たし、アークが撃つ。そんな追いかけっこはそう長くは続かない。司教はとうとう海へと追い詰められ逃げ場を失った。


「追い詰めたよ!早く本を捨てて撃たれて!」


「めちゃくちゃ言うよなオメーも。でもそうしたほうがいいぜ。でないと──」


「でないと?どうだというのです!一か八か再び召喚を試みて──」


 司教が写本に手を触れ詠唱を開始しようとしたその時だった。その口が空気を震わせるより前に音よりも速い物体が彼女の身体と写本を同時に撃ち抜いていた。


「──ッ!?”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”!?」


「でないとこうなる。ここはもうアイツの射線上だ」


 ナジーは絶叫と共に沈む司教に歩み寄ると撃ち抜かれた写本を奪い取り所持していたライターで火をつけ捨てた。


「あああああ、何ということを」


「原本ならともかくどっかの古物商から買い戻した写本だろ。命があるだけましまし」


「ゆ、許しませんわ……この恨み……はらさで……」


 写本が燃え尽き、司教が力尽きるのを確認するとナジーは軽く屈伸し立ち上がった。


「ナジーちゃん。ノームちゃんの方も終わったって」


「そーか。じゃ、帰ろうぜ。怪我とかないよな?」


「当たり前。そっちもお腹壊したとかいわないでよね」


「だーいじょうぶだって」


 そして二人は闇夜に消える。


ミイチルに指定された帰還ポイントにアークたちが辿り着くと既に他の部隊員は集まっていた。アークたちを確認するとノームは二人に駆け寄った。


「良かった~二人とも無事ねー。怪我してない?」


「そのやりとりもうやったよ」


「ノームちゃんは心配性だなぁ」


「そーよぉ。だからノームにあんまり心配かけるようなことはしないの。お姉さんとの約束よ」


 眠るコタツを背負ったライズは若干頬を紅潮させながらも注意した。


「はーい」


「ナジーちゃん生返事はダメ」


「アークちゃんもよ~」


「えー!?」


「ふふふふ」


「どうでもいいけど早く帰ろうよ」 


 これまで情報端末を弄り続け会話に入ってこなかったミイチルの言葉によって一同は帰路につくことにした。その道すがら、ナジーは疑問に思ったことを口にする。


「それにしてもあの教団の連中この後どうなるんだろうなー」


「医療班に回収された後にウチの参加にいれられるんじゃないの?そうなったら他の地区の信者たちが取り返しに来るかもしれないけど」


「そーかい……。ま、そうなったとしてもどうってことねーけどな。なんたってアタシらノーム小隊は最強の部隊で」


 普段バラバラでも6人が思うことは変わらない。


「「最高の”トモダチ”だから」」


 それがおかしくて、嬉しくて誰ともなく笑みが漏れる。

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