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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第九話「ウシワカ館の連続殺人」
121/134

9-18  最後のダイイングメッセージ

挿絵(By みてみん)

答えはなく殺意だけが来た。具体的にナイフによる斬撃。ソウは一度死体になって連撃をいなすと回避の合間に手にしていた掃除用具を崩す。すると掃除用具は一瞬にして三本のチェーンで繋がった棒にヘッドの付いた、特殊な三節棍型の武器となった。

 三節棍を手に応戦するが防戦一方でまるで対処しきれない。あまりに変則的でかつ鋭い。身体能力では劣っていない筈だが、技術で軽々受け流された上で死体にカウンターを決められる。死体でよかった。喋るために戻る。


「くっ、この技の冴え。戦闘系のSHと見えますね」


「いや、私にんげんだからね」


 そんなわけないでしょう。そう言いかけたが堪えた。そこで思い至る。もし本当に人間であるならば先程のアークやポーのように特定の現象に対する耐性などという意味のわからないものを持ち合わせるはずがない。即断即死。ソウは敵と密着したタイミングで感電死した。これで動けなくなるはず……。だったのだがそんなことにはならなかった。敵は少し距離を取ったものの全く変りないキレで動き続けた。


「何故」


「(服に)電気耐性があるの」


「やはりSHでは?」


「ちがうって」


ズバズバと服と死体を斬られていると最悪なことにバルコニーに更なる侵入者が現れた。


「あー!やっぱりいた。もー、あなたのせいですっごく推理と説明が面倒になっちゃたんだからね!」


「知らないよそんなの」


 ポーが追いついてきた。そして一つの納得を得る。なるほど彼女が全員いるのに全員いない。などとのたまったのは、頭お花畑な狂人のロールプレイが脳まで侵食した結果ではなかったのだ。彼女は眼の前の凶人の存在を事前に把握していたということか。とはいえそれがわかったところでどうにもならない。どちらか一人相手だけでも手に余るというのにそれが二人だ。時間をかけていれば直ぐにアークも合流するだろう。そうなれば最悪リンチが待っている。

 最終手段を実行せねば。それも火急的速やかに。だが、今実行しても意味はない。やるなら全員にだ。

 ソウはこの場を脱するためにまた死んだ。生きたまま大砲に詰められ、砲弾として撃ちだされた死体と化す。砲撃の速度で射出されたソウは、風情溢れるバルコニーの手すりをぶち破り、島の舗装された道へと着弾した。

 砲弾からSHへと転じていると名探偵と殺人鬼が地面へと着地する。遅れてアークもエントランスを開け放ってやってきた。


「テメェ!よくも古ぃ言葉で惑わしてくれやがったな!ポーとミニアークに教えてもらうまで階段から動けなかったぞ!ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!?でたぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「助けてあげたのに失礼じゃない?ねえ、アークちゃん」


「はいはーい。お灸をすえる相手を間違えないでね二人とも。それじゃ、いっくよ~!」 処刑人どもが三人まとめてかかって来る。先手を打って死ぬ。今度は白骨死体だ。同時に空中にはデカデカと骨文字とこう記しておいた。


【死体とは”ソーシャルディスタンス”を保たなくてはならない】


それで二人が止まった。それぞれ止まった距離はバラバラだがそれなりに距離がある。唯一探偵だけは止まっておらず接近を続けるがそれまでに再生して武器を構えた。彼女らの奥では館の面々が着弾の衝撃を気にして顔を出してきている。いい傾向だ。


「二人とも!ソーシャルディスタンスっていうのは昔疫病が流行った時に使われた言葉で人と人は距離を取りましょうって意味だよ。大体二メートル!」


「なるほどね」


 正しい意味を知ったことで死語は意味を取り戻し、効果を失った。だがこれで時間は稼げた。と、探偵の相手をしながら思っていると即座に二人目が来た。音を遥かに置き去りにした正体不明の一撃を受けたことでソウの身体は大きく弾き飛ばされ、地面を転がった。


「家壊さねえようにしねえならこんなもんだ」


「アークちゃんすっごいはやーい!」


「う……ゲホ……なにが……?」


 よろめきながら立ち上がると既に眼前に処刑人たちが拳を鳴らして立っていた。

 サメの攻撃を死んで回避すると。


「凍結保存だよ~」


「結構でございます!」


 死体を凍らされ、脱出するために元に戻ると殺人鬼の振るうナイフの柄頭が身体を打ち据える。


「へえ……。刃物じゃないなら途端に鈍るんだ。面白いねえ」


「アタシらの怒りはこんなもんじゃねえぞ!」


 打撃に耐えかねたソウを探偵が凍結で死体化を封じ、市長の付き人と殺人鬼が殴打を加えていく。その様子はさながら熟練の職人によって行われる餅つきのようでもあった。 


「「えいやーこーらーえいやーこーらー!」」


孤島に響き渡るサメとツルの合唱を聞きながら、ソウは機会をずっと待っていた。そしてついに時は来た。島にいるもの全てが館の外に顔を出したのだ。この機は絶対に逃がしはしない。 

他人のあえて抱えておきたかった秘密、気遣いから伝えなかった事実すらも容赦なく周囲の人間たちに暴露し続ける最悪の暴走機関車である彼女が、何故今に至るまで訴えられず、仕事を失うことなく家政婦を続けていられるのか?その答えは全てここにある。ソウは今、再び爆死する。それも今度は地上ではなく誰も巻き込むことのない中空でだ。

 アークが、ポーが、トアが、館から出て来た他の全ての者達が、大空を仰ぐ。すると昼空に花が咲いた。その花は、ソウが今、アークを筆頭にこの島に集まったもの達へ最も伝えたかった言葉を添えていた。その言葉とは。


【許してチョンマゲ】


「──汚い花火だぜ……!!」

挿絵(By みてみん)

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