9-15 推理パート
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ホールにて立ち並ぶアークたちの中心に、探偵はふくれっ面で文句を言う。
「もー!みんな集めてっていったのに~!!」
「いや、みんな集まってっから。本題に入ってくれ」
ポーは不承不承に腕を組み溜め息をついた。
「しっかたないな~。まあ、彼女はほとんど関係ないだろうし……いっか!じゃあポーちゃんの推理タイムはーじめーるよ~!」
探偵は気を取り直し腕を振り上げ推理を披露しはじめる。
「さて、事件について暴いていく前に前提を共有しようか。みんなが一番気になっているであろう全ての事件の犯人は~。犯人は~!!」
探偵はクイズ番組の司会のように長く長く溜めた。周囲の人間、特に刑事たちは特にいら立っていたがたっぷり溜めてからいった。
「この中に!います!!」
「「な……!?!」」
探偵の指摘により騒然となる聴衆たちであったが直ぐに落ち着きを取り戻した。
「やはりね……この老人が犯人。そういうことだね?」
嫌味刑事は手錠をかけた未だ眠っている老人を指したが直ぐに否定が飛んで来る。
「ブブー!ちがいまーす。ずっと眠ってて刑事さんたちに見張られてたのにどうやってアマミお姉さんの部屋から盗んだっていうの?その人は一貫して完全な被害者でーす。誤認逮捕って奴だね」
「なんだとう!じゃあこの老人は一体何者だというんだね」
「それは後のお楽しみー。まずは最後の盗難事件からいくよ」
探偵は東館に体を向け、そこへ続く扉へと指さした。
「ポーちゃんはまだいなかったけど。東館一階の部屋を全て調べた後は全ての部屋を施錠して東館の入り口も施錠したんでしょ。そしてそれらを開けるキーはイッコウおにーさんしか持ってなくて、ホールに戻ってきた後におにーさんとオウカおねーさんが東館に入るまでは鍵がかかっていた。間違いないよね?」
「ええ、その通りです。鍵は完全に施錠されていました」
「じゃあこれではっきりしたよね。アマミおねーさんの部屋に入って化粧品を盗んだ人たちはイッコウおにーさんが鍵を開けた後ってこと。それでその後盗まれる前までに東館一階に入ったのは」
「イッコウにーちゃんとオウカねーちゃんとアトイ市長ーと天狗の人、あとアマミねーちゃんとアークなのだ!」
メアが元気よく答えたのでポーは笑顔で応える。
「よろしい。この中でアマミおねーさんの部屋を開けられるのはマスターキーを持ってるイッコウおにーさんと部屋の主のアマミおねーさんだけ。どちらとも行動を一緒にしてないアトイ市長は候補から外れるね」
「ほっとしたよ。これで候補はあと五人か」
「そうだね。最後に東館を訪れた三人だけど彼女たちは違うね。自作自演を行ったという可能性はあるんだけどそれをするには三人の繋がりがバラバラすぎるから成り立たない。凄く簡単な消去法だけど間違いないよ。犯人はあなた……いや、あなたたちです!」
ぐるっと体を大振りに回して探偵は犯人たちを指さした。その先にいるのは。
「イッコウおにーさん!オウカおねーさん!」
長男と長女だった。彼等は青い顔で歯噛みし。そして観念したように化粧品箱を取り出した。そんな兄たちに妹は悲痛な声を浴びせる。
「兄貴、姉貴!?な、なんで……!?なんでこんなことを……!!否定してよ!ソウさんを殺したのも部屋から化粧品が盗まれたってのも全部兄貴たちなの!?こんなのとんだ自作自演じゃん!!」
「アマミ……私たちは……!!」
兄が言葉をなんとか絞り出そうとしている中で探偵が割り込んだ。
「そう、キーワードは自作自演なのです。そしてこれがおにーさんたちが犯行に及んだ理由なのです」
「自作自演が……動機?」
探偵は緊迫した空気の中でも気分よさげに首を縦に振った。
「うんうん。そもそもこの事件の原因はじじょうちょうしゅーの内容なんだよね。刑事さんたちはこの二人の時に何を言ったか覚えてる?」
「このお二方ですか……。このお二方にだけ話した内容といえば……そうか」
「なんなんですイヌカイ先輩!?」
「そうそう。二人に対して刑事さんたちはアマミおねーさんの朝からの動向について重点的に聴いていたよね。刑事さんたちはアマミおねーさんを疑ってたんだ。だってみんながリビングでいた時に一人になれたのは、ここにいる中では死体の見張りを買って出たアマミおねーさんだけ。突然目と口を覆われたって証言してたけど、背後には人がいないことを確認した倉庫と死体だけ。前方から覆われたんだったら、誰がやったのか覆われる前に見てるはずだからおかしいもんね。だから気絶してたのも含めてアマミおねーさんの自作自演じゃないかとそう思ったんでしょ?」
「……その通りです。ですがそのことはお二人はおろか探偵さんにもお伝えしてなかったはずですが」
「そんなの言われなくたって察せられるの。そしてそれはポーちゃんだけじゃなくて取り調べを受けた二人も、特にオウカさんは敏感に察していた。そうでしょう」
問われたオウカは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ええ……。事情聴取の最中すぐにアマミちゃんが疑われているのがわかったわ。ワタシたち三人の中で一人だけ盗みの被害に遭ってないことも原因だったんでしょう。アマミちゃんが犯人だなんてそんなことは考えてなかったけどこのままじゃアークさんの時みたいになし崩し的に犯人にされちゃうんじゃないかと思って……。兄さんが戻って来た後に事情を話して協力してもらったの」
「私がカギを開けて二人で部屋を荒らしたんだ。すまんアマミ」
「と、こういうことだね。突発的な犯行だったからすっごく簡単にわかっちゃったけど実はわかった理由はもう一つあるんだよね。ミニアークちゃん、荒らされる前と後の画像を出してくれる?」
探偵が呼び掛けるとミニアークは口を開き宙に同じ部屋の画像を二つ映しだした。それを見比べることで見えて来ることがある。
「アマミおねーさんの部屋の床や机は煩雑としているけど。見て、フィギアの配置に関しては微動だにしてないんだよ。それはアマミおねーさんがフィギアの配置を凄く大事にしていることを知ってて、わざわざ気遣った人たちが部屋を荒らしたって証拠だとポーちゃんは思うな~」
「兄貴……姉貴……」
妹が兄たちの行動に感じ入ってる中で後輩刑事は焦っていた。
「待ちたまえ。アマミ様の部屋の盗難事件の犯人がわかったのはいいが……君の話で言うと、これは我々がアマミ様を疑ったから発生した。つまりこれまでの事件とは繋がってないように思うのだがね」
「正解ー!この事件とこれより前に起こった事件は完全に別件なのでーす!!でも大丈夫。最初にいったよね。この中に全ての事件の犯人がいるってさ」
一つの事件を解決した探偵はまるっきり疲れた様子を見せずすぐさま次の事件の解体に挑む。
「そう、今日この館で起きた全ての事件は”自作自演”が鍵になっているんだよ……。とと、これじゃあ誤解を招いちゃうね。アマミおねーさんに悪いからまずはそこからやっていこうか。
アマミおねーさんが気を失った件ね。あれはさっき言った理由でおねーさんの証言がおかしいってことになるんだけど。実はそうじゃないだ。アマミおねーさんの後ろには誰もいなかったっていってたけど一人いるよね?彼女の後ろにいた存在が」
「確かにいた。けどよ……それって」
「彼女は確かに死んでいるのを確認したよ」
それは彼女らの常識では受け入れがたいものであった。
「彼女の後ろにはソウおねーさんの死体があった。アマミおねーさんは動き出した死体に襲われたんだよ。正確には死んでたけど死んでなかったソウさんにね」
常識を揺さぶる突飛な探偵の発言に聴衆は困惑に包まれた。大半の物が提示された事実に納得がいかず中には反論の声を上げるものもいた。
「馬鹿なことを言うんじゃないよ。死人が生き返るわけがないだろう。少しは見直したと思ったが、とんだ三文探偵だったねえ」
「いじわる刑事さんが知らないだけで海外では死体が動き出す事件は数件発生してるし、ポーちゃんが解決したこともあるもーん!ソウおねーさんの死体は明らかに特殊だし。それにこの世界でこんなことが起きる可能性があることをあなたが知らないわけないよね?」
「っち。まさか君ィ……。いいさ続けたまえよ」
一番騒がしい者が真っ先に黙らされたことで後続は発生しなかった。探偵は遠慮なく推理を披露する。
「あの娘のことは脇に置いておいてと。これで刑事さんたちが来るまで船が増減してないはずなのに謎の人物にアマミおねーさんが気絶させられて死体が綺麗に処理された理由がつくよ。アマミおねーちゃんが襲ってきた人を見てないのもそう。動くはずのないものに後ろから襲われたから見えなかったんだね。
そうそうおねーさん顔を覆った感触ってどうだった?温かかった?」
唐突な探偵の問いにアマミは戸惑いつつも答えた。
「そうね。温かい……手だったと思う。でも両手でやられたと思うんだけど」
「なるほどー。じゃあその時にはもう再生してたんだね。それで血痕一つ残さず吸収してみんながリビングにいる間にソウおねーさんは二階に移動した。実際には彼女は会議の間一階に降りて来るまで自由だったからどれをどこまでとは詳しくはわからないけど。盗みや荒らし、色々やったんだね。そこでみんな凄く気になってることがあるよね。例えばその人」
探偵は眠っている老人を指さした。皆の視線もそれに追従し、うなずいた。
「この人がどうやって来たのか。いや連れてこられたのか。この島に船が来たと誰かが確認したのは三回。刑事さんたちが来た時、アトイ市長たちが来た時、そしてソウおねーさんが水上タクシーで朝一にやってきた時だね。
このうち刑事さんたちが来た後はみんな固まって行動してたから除外できる。残った二つだけどアトイ市長たちには、会議中アークちゃんたちにこの人を船に取りに行かせてその後ソウさんの目を掻い潜って部屋に放り込むってことができるけど……。動機がないよね。アークちゃんとメアちゃんは市長とはその日に雇われてきただけだし、市長は友人の家に見知らぬ男性を放り込むメリットがない。さて残ったソウおねーさんだけど。彼女は事情が違う」
『動機がある。ということじゃな』
天狗の促しに探偵は柏手を打ち喜んだ。
「その通り~。それを証明するためにまず言うよ。天狗さんがこの島に来た時、誰も天狗さんが乗って来た船を見なかったけど……天狗さんは本当にあの時に島にやってきたのかな?そしてこのおじいさんが一体何者なのか。ポーちゃんの考えではこう」
探偵は跳びあがり手足を広げたエックスのポーズで着地すると推理を述べる。
「ソウおねーさんは一度死ぬことで容疑から外れて自由に動くことが出来るようになった。でもそのおかげで自分がみんなの中に入って場を監視することができなくなったんだ。彼女は代わりの身分が必要になった。それがこのおじいさん。
今日島に来ることになっていて、かつ親しい人に顔を知られていない、声も変えてオッケーなもの凄く都合のいい存在がいるよね。
二階でのもろもろを済ませた彼女はガンホーおじいさんから衣服を奪って変装。バルコニーから一階に降りて何食わぬ顔で合流した……」
「ってことはつまり」
「そういうことなのだ!?」
このホールにいる誰もがその少女の動きから目を離せないでいる。満を持して名探偵が指し示したたった一人は。
「天狗さん。いやソウおねーさん!あなたがこの事件の犯人!だよ!!」