9-13 二階の捜索sideアーク2
部屋の中に異常半裸老人の姿を認めた瞬間。イッコウはオウカを下がらせた。
「大丈夫だオウカ。妹の危機は兄である俺がなんとかする!」
「兄さん!」
「やい貴様!オウカの部屋で一体何をやっている!」
威勢のいい怒鳴り声だが返事はない。イッコウは警戒したようすで老人に近づこうとするもそれより先んじたものがいた。
「貴様ー!オウカ様の部屋でなんたる狼藉か!他の事件もどうせ君の仕業だろう!観念することだね。観念しないとこうだ!こうだ!ふははははは!それそれ、早く許しを請うといい。それで許すかは別問題だがね~!」
レヴンだ。彼女は暫定犯人の老人を踏みつけ転がしまた踏みつけを繰り返し無力化を図っている。だが名誉欲が先走っているのか少々過度にすぎるように見えた。
アークは彼女の腰に組み付き制止する。
「おい、やりすぎだ!相手完全に無抵抗じゃねえか」
「君如きに止められるいわれはなぁい!離したまえよ。公務執行妨害で逮捕されたいのかい?」
「上等だ。やれるもんならやってみやがれ」
二人の間に一触即発の空気が流れるなかで介入があった。それはにっこり笑顔の純白の少女。
「もー、二人ともピリピリは厳禁!だよ!!ほらほらポーちゃんの可愛い笑顔を見て癒されて。いや、癒されなさい!義務です。ニッコー!!」
ダブルピースで笑顔を見せつけてくるポーに二人は癒されるどころか引き気味の顔を見せる。とはいえすっかり毒気は抜かれたようだ。レヴンは暴行を止め、アークは彼女から離れた。それを見てポーは口を尖らせて言った。
「よろしい。でもなんなのその顔は~ポーちゃんの笑顔は国宝級なんだぞッ!ていうのは置いて置いて~」
「置いていいのかよ」
「うん。もっと大事なこと言わなきゃだからね。ひとまずそのおじいさんはこれ以上攻撃しなくても大丈夫だよ。気を失ってみたいだからね」
「あ、本当だわ。……ひとまず安心かしら。刑事さん。とりあえずこの人に手錠を」
「言われずとも!この不審人物を見事捕らえたのはこのレヴンであることをアマミ様やイヌカイ先輩にたっぷりと言い含めてください!」
レヴンは意気揚々と気絶している老人に手錠をかけた。
「ふはははは。これでイヌカイ先輩より早く真犯人を逮捕。事件は解決。御兄妹からも感謝たっぷり強いコネが出来て昇進まっしぐらだ。それに引き換え自称探偵くんとその助手は無様だねえ。なんの成果も上げられずにただついて来ただけだ。お荷物、というやつだ」
助手を買って出た覚えはないがその言い草には脳の血管を切れさせる威力があった。胸倉をつかんでやろうかと思った最中、ポーが言葉を発した。
「んー……。残念だけどこれで事件が終わったとは思えないなあ」
「何?どこからどう見てもこいつが犯人で間違いないだろう。ずっと謎だった誰も姿を見たことがない登場人物それがこれだ。何をどうやったのか具体的なことはわからないけども署で問い詰めればすぐ自白するさ」
レヴンは聴く価値なしといった態度を取っているが探偵は続ける。
「あれれ~でもこの人が全部の犯人だったらおかしいことが幾つもあるよォ。まず、なーんでこの人はこの部屋で意識を失っていたのかな?」
「?さっきのレヴンさんの攻撃で意識を失ったというわけでは?」
「刑事のおねーさんもプロだからやり過ぎるってことはないはずだよ。現にさっきの攻撃は全然緩かったしね。とても気絶するようなものじゃない。それで今気を失ってるっていうなら元から失っていたってことだね」
「確かに加減はかなりしたが……うぬぬぬ」
「もう一つ言うなら犯人はイッコウさんから化粧品の箱を盗んだみたいだけど。この格好のどこに盗んだものが隠せるのかな?」
アークたちは無言で老人を見下ろした。フンドシ一丁のその身体にはある一点以外は隠すところがないように思えた。だが、その一点も見るからにアマミの部屋で見た物を隠すようなスペースはないように思えた。何より、そこは確認したくない。
当然周囲にも件の化粧品箱は見当たらなかった。その前提が共有できたと見たのかポーは続きを語りだした。
「ね?この人は犯人って可能性はあるけどー。全ての事件の犯人とするとおかしな点が出て来る。もしかしたら被害者っていう側面もあるかもしれないよ~」
ポーの示した理によって皆が思考し沈黙していると不意にオウカが声をあげた。
「あ、そうだわ。化粧品箱といえばワタシのもよ」
彼女は化粧台を探っているとやがて顔を覆い悲嘆にくれる。
「ああ……!!ワタシのもなくなってる……盗られたんだわ!」
「オウカもか……クソッいったい誰がこんなことを……!」
またしても奪われていた化粧品箱。怪しい男を確保することには成功したもののその全貌は未だに明らかにならない。アークたちは一班と再合流するため部屋を後にした。階段を降りる最中。彼女らとは対照的に昇っていくシャボン玉がとても印象的だった。