9-12 二階の捜索sideアーク1
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時は僅かに遡る。メアたち二班とは反対に、館西側を捜索することになったアークら一班は、二階へと続く階段を登っていた。その最中にアークは新顔である探偵に自分が見聞きした今回の事件のあらましを主観混じりで伝えた。
「どうだ?これで犯人わかったか?」
「ちょっとちょっと気がスピーディすぎるよぉ~。うーん……。七割ぐらいかな!」
「だいたい分ってるじゃねえか!探偵ってスゲ~!!」
アークは漫画やアニメの中でしか見たことのなかった存在に素直な尊敬の目を向けたが先を行く性格最悪の警察官は振り返り呆れたような顔で冷や水を浴びせてくる。
「ハンッ!なーにを惑わされているのかね。その程度の断片的な情報で真実など見えて来る筈がないだろう。答えに近づきつつある。そう思わせておかねば自らの実力を疑われるからそういっただけのことだろう?君は肩書に踊らされずにもっと慎重にことを考えたほうがいい」
「な~にを~!!」
「むむむむむ、刑事のお姉さんヒッドーイ!ポーちゃんはホントにそれぐらいならわかってるのに~!こうなったら刑事のお姉さんの秘密を当てちゃうぞ~。……表面上嫌がりつつも先輩に指示されることに快感を感じ始めてるていると同時にそのことに戸惑いを覚えている」
「な、なぜそれを……。いや、いーや出鱈目だねー!この僕がそんな屈辱的な感情を覚えるはずがない。むしろイヌカイ先輩の方がぼ──」
「あの、そろそろ西館の方に入りますので遅れずついてきて欲しいのですが」
見れば兄妹はとっくに階段を登り終わっていた。肩書に踊らされている刑事は慌てて階段を駆け上がり、アークたちもそれに続いた。
イッコウが西館への扉を開き一班はようやく西館二階へと足を踏み入れた。
西館二階は廊下とそのサイドに存在する二つの部屋で構成されていた。兄妹の説明によると北側が長女、南側が長男の部屋であるらしい。廊下に異常はなくひとまず長男の部屋から調べる運びとなった。
刑事が先陣を切って扉を開ける。すると一同は息を飲む。
「な……!?これは!?」
「わーすッごい!!空き巣に入られたみたいにグッチャグチャだね!カーワイそー!」
ポーが呑気に言うように部屋は見るからに荒らされていた。ベッドのシーツが捲り上げられ、引き出しなどは例外なく外に出され中身が散逸していた。
「兄さん大丈夫?」
「あ、ああ……」
そうはいいつも明らかに髪の毛の硬度が落ち、しなびているのが見て取れた。そんな権力者の様子を見て点数稼ぎのチャンスと見たのかレヴンは声を張り上げた。
「イッコウ様。御安心くださいませ。不届きな犯人の輩は自称探偵などではなくこの敏腕刑事レヴンがひっとらえてやりますよ!自称探偵などではなくね!」
「刑事さんしつこ~い!!」
「わかっちゃいたがキツイ顔の先輩いねーと三倍うぜーな」
レヴンのこの態度はイヌカイがいないことだけでなくポーに手柄を取られたくないがゆえだと思われるがそれがわかっていたからといって状況は変わらない。頼みの館の主たちは動揺していることもあり上手く手綱を握れていない。探偵の推理の邪魔をさせないようにするには自分が頑張るしかないようだ。アークは顔を叩き気合を入れると皆に指示を出し始めた。
「オウカは部屋の外の方を見張ってて。イッコウは盗まれたものがないか判断して。そっから犯人の目的もわかるかもしれないから。ほらレヴン、ポーちゃん。部屋ん中ちゃんと調べっぞ」
「わー!アークちゃんテキパキしきるね~。結構慣れてるんだ。楽でいいね~」
「フン。なーんでこの僕が下等な君なんぞに指示されなくてはいけないんだい」
案の定レヴンは素直に従う気はないようだ。だが、それも想定内。
「あーっそ。じゃアタシらがさっさと手がかり見つけちまうけど。いいんだな」
「待ちたまえ。僕に手柄を残したまえよ。なんなら君たちはそこのベッドで休んでてもいいんだがね」
「よくないですよ!?」
「わーい!ふかふかのベッドにダーイブ!!みんなー、頑張ってね~。ポーちゃんはここで安楽ベッド探偵してるから~……zzz」
「こら!ちゃんと調査と推理しなさい!探偵でしょ!?」
ベッドに飛び込んだポーを地面に引きずり落とすと捜査を始めようとするが、ポーはベッドの側から動かず。
「やっぱりね。イッコウお兄さーん。このベッドって何か収納スペースとかあったりする~?」
「な、何故それを……。はい。金庫代わりにもなるので大事なものを入れてあるんんですが。そうですね、確認しましょか」
イッコウがベッドに近づき解体すると内臓された金庫のようなものが出て来た。彼は附属のダイヤルを回し開くと中を見る。すると部屋の惨状を見た時以上に焦燥した声色で叫だ。
「な、ない!」
「何がでしょうか?」
「化粧品だ……!君たちもアマミの部屋で見ただろう!?あの三人で作った化粧品。それが盗まれてるんだ」
イッコウが言うのは東館一階のアマミの部屋に置いてあった幾何学文様があしらわれた樹脂の箱だろう。その慌て方からどうやら相当に重要なものらしい。
「ふむ。盗まれたそれは……例えば好事家たちの間でプレミアがついていたりなどするのでしょうか?」
「確かにそれなりの値段ではあるが……。他の金品が無事な以上あれだけ盗まれた理由はわからないです。あれ以上に高価なものはいくらでもあるので」
「思い出の品ってことだね」
「そうね……ってことはもしかして!?」
オウカは何かに気付いたように振り返り、駆け出した。そこにあるのはオウカの部屋の扉だ。
「オウカ様。一人で動かれては危険です」
颯爽と動いたレヴンがオウカに追いつき皆もそれに続いた。見るべきところは殆ど見たという感触だったのでイッコウの部屋の捜査はそこで終わりになった。結果流れでオウカの部屋の捜索が始まることとなった。レヴンが再び扉を開く。
扉が開かれ、その中が明らかになった瞬間。班員の中から甲高い悲鳴が聴こえる。
「きゃぁぁぁぁ!?何!?何なの!?」
「な……なんだこいつわぁ!?」
「おー、なるほどね」
オウカの部屋はピンク色の強めな壁と数多くの化粧品、凝った家具の数々にぬいぐるみなどが置いてあった。妖艶さと可愛らしさが同居する空間と言えるであろう。ただひとつの存在。床に敷いたマットの上で寝転がっているフンドシ一丁の見知らぬ老人の姿を除けばの話だ。