9-11 二階の捜索sideメア
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一班にガンホー、二班にポーを加えて捜査は再開された。
メアの配属されている一班は館の東館二階の捜査を行うことになった。
館の主であるアマミの説明によるとこの場所は一階同様に個室のトイレと浴室、ゲストルームが存在しておりそれぞれの部屋の造りは同一らしい。そして一階との相違点が一階ではアマミの部屋があった場所がダーツやビリヤードが楽しめる遊戯室担っている点。そして件の倉庫にあたる場所が切り抜き式のバルコニーになっていることである。
簡単な説明を聞きながらトイレと浴室を軽く調べるとイヌカイが呟いた。
「さて、次はどこを調べましょうかね。結局全部調べるんで大した意味はありませんけど」
「ゲストルームがいいと思いまーす。二階のゲストルームは実質的にソウさんの休憩部屋のようになっていたのでもしかしたら何かあるかも」
「成程。それでは失礼しましょうか」
イヌカイは周囲を警戒した様子でゲストルーム扉を開く。すると一階で見たものと同じ構図の部屋が顔を出した。
部屋は使用者が几帳面なためか、先のものとの違いと言えばソウのものと思われる手提げカバンのみだった。
『ふむ、誰に荒らされているということはないのだな』
「あれほど酷くソウくんを痛めつけたにしては部屋をどうこうしているわけではないのだね。あの荷物はどうだろう?」
「持ち主のかたには申し訳ないですが状況が状況なので私が調べます」
イヌカイはそういって手袋をはめてソウの荷物を探っていく。それで幾つかわかったことがあった。
まず荷物は少ないながらも財布は存在し、中身を取られているということはなさそうであるということ。残りは水筒と二、三十年前に流行った昼ドラの原作小説が一冊、用途不明の綺麗に折りたたまれた巨大な麻の袋が見つかった。
不審な袋を広げて皆は口々に感想を述べる。
「何なのだコレ?メアならすっぽり入っちゃいそうなのだ」
「メアドコロカ大人ダッテ何人モ入ルゼ。調ベテミタラコレッポイナ」
『ふむ。内部のものを保護し空気を貯めておけるタイプか』
「アマミさん。ソウさんは普段からこういった袋を必要とするようなものを持ち運ばれていましたか?」
「ん~食材を大量に買い込んで貰う時は使ってたかな。そういえば今日ももてなしに必要なものがあるからってこれを担いでたよ。でもソウさん買物は数日前に済ませるタイプだし昨日も沢山買い込んで来てたから今思えばちょっと不思議だったかも」
「なるほどねえ」
「買い込んだ荷物の方が見当たりませんが本人が見つかったのなら聴けるかもしれませんね」
『そろそろ他の場所を見て回らんかの』
天狗の促しに応じて彼女らはゲストルームを後にして音が鳴ったというバルコニ―に出ることにした。
遊戯室を横目に入り口へと近づくと先頭のイヌカイが目前で立ち止まった。その理由とは。
「……バルコニーの鍵が開いている」
「ほんとだ。基本使い終わったら閉めてるはずなんだけど。いつから開いてたんだろ」
「少なくとも私たちが来てからは二階に上がったものはいないはずだね。そうだろうメア君?」
「うむ。多分そうなのだ」
『単なる閉め忘れという可能性もあるが。そうでない可能性もあるの。見たところ外には洗濯物しかなさそうじゃが。注意して捜索しようぞ』
メアは何が出てもいいように気を引き締めてバルコニーに出た。だが、拍子抜けなことに鍵が開いていたということ以外は不自然に思える点はなく。天に照らされ風に揺られる洗濯物がはためくばかりであった。そこから見える景色にも何一つ不自然なものなどない。
「なんも出ないのだ~!」
「気を抜かないでください。こういう時に出て来るものが一番やっかいなんですから。ほら離れて」
目立った成果を得られないことに膨れていると大人に注意されたのでより膨れる。食べ物を貯め込んだリスのようになった頬をミニアークが抱き着くように潰して二人で笑っていると皆は開いた扉を覗いている。メアも彼等の足元の隙間から中をうかがった。
中はカーテンの素材の影響か他の部屋と比べて少し薄暗く、アマミが手探りで電気を点けたことで明らかになった。
酒瓶の並ぶバーカウンターと部屋中央に鎮座するビリヤード台。そして既にダーツの刺さっている壁際のダーツボード。
「ナンダコリャ!?」
ダーツボードが異常だった。そこ刺さっている三本のダーツはあるモノをダーツボードへと縫い留めていた。
それは家政婦の制服。ソウが着ていたものと同じデザインのものが帽子も含めてそこにあった。帽子に一刺し、胸部と腹部に一刺しずつ。合計三本。そして左腕に当たる部分とスカート右脚部分の布地は引き千切られて床に落ちていた。悪趣味なこの惨状であるが思い当たるものはいたようで。
「うん、どうもこれはソウ君の遺体の状況と同じに見えるね。下で見たそれも額と胸と腹に刺し傷が一つずつ。左腕と右脚がねじ切られていた」
「犯人からのメッセージってやつなのだ?」
『そうかもしれんし、実は関係ないかもしれんぞ。捜査をかく乱するのが目的かもしれんしの』
「この部屋が最後に使われたのはいつですか?」
「いやー、ウチはここあんま来ないからそんなわからんかな。でも兄貴たちがここで騒だ音が聞こえた記憶は最近ないね。ソウさんの掃除も普段使う部屋じゃないから毎日ってわけじゃないと思う」
大人たちが思考を巡らせている中メアはダーツボードの間近でミニアークと内緒話をしていた。
「むむむむむ、謎が深まっていくのだ。……そうだ!トアねーちゃん、はともかくサンはかせに電話できないのだ?きっといいアイディアをくれるかもなのだ」
「任セロ……………………駄目ダ繋ガンネー」
「寝テルのかもなのだ」
「タブンソレ」
先程とは違って自分やアークが疑われている緊急事態ではないので寝かせたままにしてあげることにする。事件はやはり名探偵が解決してこそだ。と、メアは悪友とそれと一緒に行動しているはずの名探偵に思いを巡らせた。