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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第九話「ウシワカ館の連続殺人」
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9-8 消えた死体

「あり得ねえ……。アタシはちゃんとこの眼で見たぞ!?」


 変り果てたというよりも、元の姿を取り戻した倉庫を目にしたアークは動揺を抑えきれずそう呟いた。

 ここに来てから「冗談だろ」と言いたくなる展開ばかりであったが今回は特に酷い。自分に過去のトラウマを思い起こさせた物体が痕跡すら残さず嘘のように消え去ってしまったのだ。文句の一つも出ても仕方ないというものだろう。だが、それを耳聡く捉えていたものがいた。駄犬のレヴンである。


「おやおやアーク、君は死体を見たというのかい?だが、見ての通りそんな者はどこにも見当たらない。もしかして君ィ、ありもしない事件を騒ぎ立てて通報したんじゃあないだろうねえ?」


「なんだテメェ!喧嘩売ってんのか!?」


 なんでコイツ名前を知ってるんだと思いつつも明らかな挑発に拳を振り上げる。すると周りが援護射撃をしてくれた。


「いや、私も見ましたよ」


「私も見たわ」


「メアも見たのだ!」


「オメーハ見テネーダロ」


「ハンッ!どうだかね。そこで倒れている人も──キャイン!?」


なおも悪態をつくレヴンの腰からスパァンと肉を打つ気持ちのいい音が響いた。イヌカイと名乗った刑事が放った蹴りが彼女の尻を捉えている。SHであるアークの目から見ても鋭いと判断できるいい蹴りだった。


「何をするんだいイヌカイ先輩!?いくら僕のお尻が高級クッションより柔らかくビンテージの楽器よりもいい音を鳴らすといってもそう力強く蹴られたらすり減ってしまうよ。世界の損失じゃあないか。──キャウン!」


 イヌカイは尻を突き出して前のめりに倒れるレヴンの尻をもう一度蹴り入れるとしゃがみ込み、小声で話しかけた。


「お前には言ってなかったがあのご兄妹は経済界でも注目されている大会社の社長たちだぞ。アトイ市長とも仲が良いという噂だ」


「そういえば見覚えがあるような……なんで先にいってくれなかったんだい」


「言ったら言ったでお前は面倒だからだよ」


 会話を終えるとレヴンはスクリと襟を正して立ち上がり鮮やかな笑顔で兄妹たちに言った。


「失礼いたしました。靴をお舐めしましょうか?」


「え!?け、結構です……」


「急に態度変わるじゃねーか」


「相変わらずレヴン君は小物で面白いねえ」


「市長知り合いなのだ?」


「まあねえ。……それよりどうしようかこの状況?」


 市長の言に死体を目撃したものたちは言葉を詰めるが、すぐにイヌカイが提言した。


「死体の痕跡が一切ないとなると殺人事件としては扱いかねますね」


「そんな。私達は確かにこの目で死体を見たのよ!?」


「ですので。行方不明者の捜索ということで、一旦この館を調べさせて頂きます。どのみち人が一人消えているわけですから。構いませんね?」


「勿論です。よろしくお願いいたします」


 イヌカイの言葉に館の主たちは安心したように息をついた。反対に部外者であるレヴンは大層気合を入れた力強い表情で権力者たちに宣言していた。


「奇妙な事件に遭遇されて心底不安に思われているでしょうが、このレヴンが現着したからには瞬く間にホシを上げ事件を解決に導いて差し上げましょう。そしてその暁にはビッグなコネが……そして昇進!もうパワハラ先輩とはおさらばさ!あっははははは!!」


「よ、よろしくお願いします……」


 こうしてアークたちは警察と一緒に館の捜査を始めることにした。どこに何が潜んでいるかわからないこと、次女アマミが昏倒していることを鑑みて、東館一階は全員固まって捜査された。

 東館一階は倉庫の他に個室トイレ、手洗い場、浴室、ゲストルーム、そして次女アマミの部屋が存在していた。

 トイレと手洗い場、浴室は最新設備が使われている高級品である以外は誰の目が見ても変わりがなかった。

 次に捜査の手が入ったのはゲストルーム。なめらかで肌触りのよいベッドや重厚な印象を与える椅子と机、そして張り紙型のテレビが設置された、高級なホテルの一室のような一室であった。殺風景なこともあり捜査もすぐに終わり何も異常がないことが判明した。 最後に残ったアマミの部屋の捜査前に進展があった。部屋の主であるアマミが目を覚ましたのだ。


「う……ううん……あれ、なんで兄貴たちなんで」


「アマミちゃん!よかった!」


「一体何があった!?」


 目覚めたアマミはまだ頭が覚醒していないのか眠たげに頭を振りぼんやりと答えた。


「何がって……あー……そうだった。兄貴たちと別れてから五分後ぐらいかな……ソウさんの遺体の前で見張ってたら突然視界と口を覆われてさ。気付いたら今って感じ」


 彼女の説明を聞きレヴンは口を開く。


「少なくともアマミ様に危害を加えた輩はこの島に存在するということか。アマミ様が一人になる前に確認された船は二艘。我々がここに現着した際も島には話しに出ていたクルーザーが二艘のみだった。よって船は減ってない。共犯が迎えに来ていたと仮定しても周囲にそういった疑いのある怪しい船の類は……かなり遠くに客船があったがそれは流石に関係ないだろう。つまりなかった。ここから陸地までは相当な距離があるから超人的な身体能力の持ち主でもなければ島からの脱出は叶わないからね」


「アマミさんが気を失われていたタイミングでは他の皆さんは全員西館一階のリビングに集まっていらっしゃった。間違いありませんね?」


「そうね。その時はアークさんが犯人で間違いないだろうと思っていたから……。決めつけは本当によくないわね」


 オウカは大層反省しているのかイヌカイの確認にしおらしい声色で同意した。だが、それを聞いたレヴンの反応は対照的だった。


「いえいえオウカ様がお気になされることはございませんよ。このアークという輩は素行が悪いことで有名ですから。皆様が疑って当然です!」


「さっきから何なんだオメーはよぉ~!」


 半ギレで殴りかかる直前にアークの手は止まった。先に制裁が加えられたからだ。調子に乗った女の首元は先輩刑事によって背後から締め上げられていた。それは戦闘系SHであるアークから見ても見事と思わされる技の冴えであった。


「すみません。こいつ自分より社会的地位がし……格下と判断した奴には徹底的にナメてかかるんですよ」


「おい、言い直せてねーぞ」


「責任もってシメておくので気にしやがらないでください」


「こっちもこっちでたいどわるいのだ~」


レヴンが白目を向き涎を垂らしてぐったりすると、イヌカイはチョークスリーパーを解除して大人たちに目をやる。


「アマミさんを気絶させた後に犯人はソウさんの遺体を処理したと思われます。そしてその後姿を消した。皆さんはリビングにいらしたそうなので我々が来る前にホールを出て外へいくも二階に行くも自由だったでしょう。念のためお聞きしますが皆さまの船が犯人が動かせる状態というわけではありませんよね?」


「船は兄妹が持つ情報端末を持っていれば動かせます。私は持っていますが……」


「私も持ってるわ」


「……ん。大丈夫ウチも盗られてないっぽいよ」


「こっちのレンタルクルーザーも大丈夫だよ私とあと本土の管理の人しか動かせない」


「ひとまず捜査している間に船を盗まれて逃げられるということはないと。これで安心して捜査を進められる。アマミさん、申し訳ありませんがあなたの部屋を調べさせてもらいます」


「あんま他人に見られたくないんだけど。……しゃーない貴重品ばっかなんだから絶対荒らさないでよ!」


 言葉を最後まで聞き終わる前にイヌカイは視線を切り扉を開けた。するとアマミの部屋が姿を現した。


「整理されてるけど……」


「ニモツガイッパイダナ」


「フィギアの山なのだ!」


「フィギアはマジで触れないでよ。この配置が命なんだから」


 アマミの部屋はアニメグッズで一杯であった。男女問わず見目麗しいキャラクターのフィギアがショーケースに飾られ壁や天井にはタペストリー、棚には映像BOXや関連書籍が作品ごとに整列させられていた。一見してランカのようなオタク部屋という様相だったが一つだけ異彩を放つ物があった。それは極彩色の幾何学模様が使われた樹脂の箱。


「なんかこれだけ雰囲気ちげーな」


「なんだ、アマミ。お前まだアレ持ってたのか」


「あったり前じゃん。姉貴とかは捨ててそうだけど」


「何言ってるの。ちゃんと取っておいてあるわよ。私たちにとって大事なものなんだから」


 先行した面々が状況を確認し気を抜いていると肩からアトイが顔を出し、兄妹たちに問うた。


「ほう。あれがガンホー氏に君たちの才を認めさせたものかい?」


「ええ。兄妹で初めて開発した化粧品です。といってもあれしか作ってないんですけどね」


それ以上のものはこの場では見つからなかった。東館一階の捜査を終えたアークたちはアマミの部屋を後にし、ホールへと戻ってきた。


 レヴンが次なら捜査方針を打ち出す。


「アマミ様も目覚めたことだしどうだろう?この辺りで二手に別れるというのは。もちろんそれぞれの班に警察官である僕とイヌカイ先輩は別けて配置するが」


「お前、わたしの監視の目を逃れたいだけだろ。だが、提案は悪くない。一班はわたし、アトイ市長、アマミさん、メアさん、ミニアーク。二班はレヴン、イッコウさん、オウカさん、アークさん。一班はまず会議室を、二班は今一度リビングの捜査をしましょう。捜査を終えたら一度ホールで合流。異論は?ねーですね」


 イヌカイは声が上がる前に勝手に終わらせた。


「このねーちゃんちょっとスゲーのだ」


「任意同行を求めるとき、答え聞く前に頭殴って無理矢理連れて行きそうだな……」


「頼もしいことだねえ。それじゃそういうことで捜査続行といこうか諸君」



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