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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第九話「ウシワカ館の連続殺人」
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9-6 第一発見者=犯人?

 時は少しばかり巻き戻る。アークが倉庫にてソウの死体を確認した直後のことである。

 アークは紅い床に沈む、変り果てたソウの姿を認めると咄嗟に目を逸らした。それでも数多の戦闘で培った観察眼は一瞬の内にその遺体の損壊状況を確認してしまう。額と胸部と腹部に一つずつの刺突痕。首はへし折れ通常ではありえない角度で曲がっていた。左腕と右脚は如何なる力がかかったのか捩じり切れており欠損している。仕事先の人間関係を暴露している最中の生き生きとした光りは瞳に既になく、瞳孔は開ききっていた。詳しく調べるまでもない。詳しい知識がないアークでさえ確実に死んでいると断定できる。できてしまった。

 アークは自身の皮膚を力の限り捻った。すると無情にも虚しい痛みが返ってきてこうアークに告げる。どうしようもなくこれは現実であると。

 先程までやりとりをしていた相手の死を実感した直後。アークの脳裏に一つの光景が蘇ってくる。それは彼女自身が己の心の奥底に封印した光景。彼女が最も忘れたい、消し去ってしまいたい過去の記憶だった。

 

あの時もソウのように彼女が血海に沈んで。止まらなくて。自分はその時悲しくて、痛くて、怖くて、恐くて、コワクて……申し訳なかった。


 何故自分が生き残っているのか。そのために何をしたのかしてしまったのか。全て全て自分が悪いのではないか。そんな過去の思考がアークを支配する。動悸が止まらない。呼吸も、発汗も全てがおかしい。涙が勝手に出てきて止まらない。しかし思考は進み続ける。頭の中で何度も何度も何度も何度も回って周って廻ってマワり続ける。その度に負荷がかかりやがて彼女は罪に耐えられなくなり。己の内から込みあがってきたものを吐き出した。


(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめん、ごめんごめんごめんごめんごめんごめん……ごめんな……ごめんなさい)


 腹の内全てをぶちまけ感情のまま喚いたことによる僅かばかり落ち着きを取り戻したアークはミニアークに声をかけ状況を説明し、リビングにいるものたちを呼んで来るようにいいつけた。

 そしてアークは覚束ない足取りで今更ながら周囲の警戒を始める。どう見ても他殺の遺体があるということはそれを為した人物が他にいるということである。それは直ぐ近くにいるかもしれない。であるというのに長時間無防備を晒していたのは迂闊としかいいようがなかった。今無事であるのは幸運の産物でしかない。出来得る限り感覚を研ぎ澄ませて周囲を観察する。

 するとホールのほうから複数の急いだ足音が聞こえて来る。数拍の間の後に予想通りに大人たちがやってきた。彼等は慌てた様子でアークに声をかける。


「アーク君、無事かね?」


「……いちおー」


「威勢ガワィナ。アタシハメアガ心配ダカラ戻ルケドイツデモ呼ベヨ」


「それでソウさんは?」


 アマミの問いにアークは蒼い顔のまま無言で倉庫の方を指さす。その先にあったものを確認した瞬間。三兄妹たちの顔は歪んだ。


「な、なんてことだ……ソウさん。まさかこんなことになるなんて」


「嘘でしょ!?いい人だったのにどうして……あんまりだわ」


「ねえ、あんた第一発見者でしょ。犯人とか、怪しい奴は見なかった?」


 首を横に振って否定する。その反応に落胆したようにアマミはため息をつき頭を抱えた。

 三兄妹に遅れてアトイが遺体を確認した。鼻をつかんでしげしげと見る彼女は残念そうに所感を述べた。


「こりゃヒドイ。瞳孔開いてる。脈も止まってる。体も硬い。どう見ても他殺だ。よくもまあこれほど執拗に傷を付けれたものだね。犯人はよほど深い恨みがあったと見える」


「犯人がソウさんを憎んでいたとして何故この場所で襲ったのかしら。ソウさんは住み込みじゃないから夜は本土の方に戻っているし、こんな逃げ場のない孤島に来るよりもよっぽど襲える機会は多いと思うのだけど」


「謎だねえ。血痕なども外に見当たらないから足取りの手がかりもない」


「そのことなんですが」


 死体確認後すぐにホールの方に去っていったイッコウとアマミがいつの間にか戻ってきていた。彼等は乱れた息を整えながら状況を説明する。


「外を確認しましたが船は我々が普段使っているものが一艘とアトイ市長が利用されていたクルーザーしかありませんでした。このことから犯人は既に逃亡しているか……」


「会議が終わった後、リビングにいたメンバーの中に潜んでいるかってことになるね」


 言いずらいことを直球で言い放つアトイによって面々は一瞬のあいだ沈黙する。

 息苦しいなか何とかこの場を収めるためかイッコウがアークを見て切り出した。


「そうだ、君は会議の間ずっと前に扉の前にいたはずだろう。怪しい奴が入ってきたりしていなかったか?それと最後にソウさんを見たのはいつごろだ」


「え……と……怪しい……やつは来なかった。ソウは、会議が終わる三十分前……ぐらいにホールから降りてきてあの扉からこの廊下に入っていったのを見たのが最後だった」


 たどたどしいながらも記憶を頼りに素直に答えた。だが、これが過ちだったのかもしれない。このことを聞いた皆の反応は悪いく特にアマミは怪訝な顔でアークに問う。


「会議に出てたウチら四人は互いに外に出てないアリバイがある。アンタの話じゃ怪しい奴は来なかった。それなら怪しいのは外で見張ってて自由に動けたアンタと小学生の子ってことになるよね」


「ち、違ッ!?アタシはやってない!」


「あんなちっちゃい子がやったなんて思いたくないけど……アマミちゃんの言う通り確かに可能なのは二人ね。それにアークさんに関してはリビングで別れてからもソウさんを殺せたわよね。別れてから連絡が来るまで十五分。最後に見た場所から調べるでしょうしそう考えるといくらなんでもかかりすぎよ」


「アタ……違う!?あ、わ……わたし……ちが、ちがう……ちがうもん……」


 殺人を疑われたことにより過去の記憶がより鮮明に蘇る。記憶はそれだけでアークの精神を蝕むのに十分だ。殺すなんてあり得るはずがない。本当に?あの時もそうではなかったか。それでは今回もそうなのではないか?疑念も混じり言葉すらまともに紡げなくなった彼女の姿は周囲の疑心をより強く扇ぐ。


「な、なんだその狼狽えようは!?ますますあまりにも怪しいぞ」


「まあまあ君たち。まだアーク君が犯人と確定したわけではないからね」


「でもアトイ市長。どう考えてもコイツ怪しすぎるよ。ほぼっていうか絶対犯人確定でしょ」


「わたしたちが犯人ってことはありえないわけだしねえ」


「警察もすぐ来る。それまでアークさんは徹底監視ということで。申し訳ございませんがそれでいいですねアトイ市長」


「仕方ないねえ。すまないアーク君」


「そん……な」


全員が自分を疑っている。自分自身すら本当に自分が殺したのかどうかすら自信がなくなってきている。アークは世界が闇に包まれ自分を責めているように感じ。心を閉ざした。

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