8-21 またな”仲間”
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メアとアークが地上に降り立つとあれほど蠢いていた暗影たちは姿を消し。フィールドも黒が続く暗い地平からどこか明るい空間へと様変わりしていた。
”仲間”を前にしてメアは小さい体なりに深々と頭を下げた。
「みんなに意地悪してごめんなさいなのだ。みんなはちゃんと元の世界に帰すから許してほしいのだ」
謝罪の言葉に対し皆の反応は一つだ。すなわち。
「「許す!」」
許しを得たメアは顔を上げ目を輝かせてパーティメンバーたちに頭から突っ込んだ。皆はそれを撫で口々にいう。
「まあ許すもなにも別に怒ってはないでござるからなあ」
「仲間の苦悩にも気づけない私たちの不徳のいたすところというやつだ気にしないでくれ」
「この辺りホント―に外見元と違うの。もう少し図太くなってもよいと思うぞ」
「ま、こんな体験さしてくれたことにゃほんと感謝してんだぜ。それで……もういいのか?」
シロの言及はメアの気が変わることを考えれば危険な問いではあった。誠意として出された言葉にメアは笑って答える。
「うむ。みんなが体を張ってMEAたちは”仲間”だって伝えてくれたからもう大丈夫なのだ。これでもしみんながMEAをほっぽらかしたらMEAの方から出向いてやるのだ~」
「こええこええ」
「もし小さいアークのように外でも実体を持てるようであれば今度は店のドリンクを振舞うとしようかの。一杯ぐらいはおごってやろう」
ラムルディの粋な提案にメアは涎を垂らして頷いた。
「その言葉、忘れずにいることなのだ!MEAはみんなと冒険したおかげで感情思考能力も演算能力もすっごくすっごくそれはもう担当のサカキバラねーちゃんが泣いて喜ぶほどに成長したのだ!きっとすぐなのだ」
「そんときゃアタシも奢って」
「お主は散々無賃で飲み食いしておろうが。ランカ、帰ったら早速取り立てにいってやるとよいぞ」
「承知したでござる~」
「ヤメロ~!!」
笑い合いつつも徐々に終わりの時間が近づいて来ているのを誰もが感じていた。だがそれは全ての終わりではなく。
「じゃ、みんなを帰すのだ。また会うために」
「ん」
応答を合図に帰還の処理が始まった。メアが杖を一つ振るうような動作を見せると各人の前にそれぞれ西洋間取りの扉が現れる。
「この扉を潜っていけばみんな元の場所に送り届けられるのだ。ちょっとひゅおってするけど我慢するのだ」
「ああ、来た時のあれか」
「ジェットコースターに乗った時みたいで落ち着かんかったのう……とはいえまごまごしていても仕方ないかゆくぞ」
最初に手をかけたのはラムルディだった。彼女は恐る恐る扉をうっすらと開けるとメアに振り返った。
「現実では向いてない向いてないだのよく言われたものじゃが……この世界では本当に吸血鬼になったようにふるまい力を震えたこと。心に刻んだぞ。ではまたの」
そこまで言うと意を決したように目を瞑り扉の奥に足を踏み入れるすると彼女の身体は先端を外した掃除機に吸い込まれる紙屑のような勢いで扉に吸い込まれていった。後を引くラムルディの絶叫が残される。
「来た時と吸引力変わっとらんでござるなあ。では、やランカが二番手務めさせていただっくでござる」
ランカはドアノブに触れると少し照れくさそうに言った。
「こっちのメア殿も向こうにこれたら嵯峨のカジノを案内したいでござるよ。きっとリクちゃん様も喜ぶと思うでござる。ではでは……思ったより吸引つよひぃぃぃぃぃぃぃ」
オタクが還った。残るプレイヤーは三人だ今度は二人揃って動いた。当然リンとシロである。
彼女らは振り返らず扉を開け話す。
「サメのアーク。ここでは随分と協力してきたが向うで会えば我らは敵同士だ。その時は容赦はせん」
「へーへーそんときゃ返りうちにしてやんよ」
剣呑なムードにメアがふくれっ面で慌てて介入する。
「”仲間”なんだから仲良くするのだ~!」
「ここではな。ゲームであった時は、そんときゃまた茶で煎れてやるよサメ野郎。んじゃな。いい体験だったぜ」
「また会おうメア」
二人が扉の向こうへと消え。後に残ったのはアークとAIのメアだけだ。世界にたった二人だけの空間でAIはSHに零した。
「アーク……」
「ん?」
「やっぱり……ちょっと寂しい……のだ」
「そーな。なんつーかアタシはあんま行った回数多くねーんだけど。祭りの後的な……騒がしかったもんな、ここ来てずっと。こんだけ大人数で過ごしたのはノームちゃんたち以来……か」
アークがしんみりと言って僅かな間二人の間に浸るような沈黙が流れた。
「あっちに帰ってまたゼルデンリンク点けた時。そん時またすぐ吸い込まれんのか普通にゲームできんのかわかんねーけどよ。どっちにしろアタシはお前にまた会えるようにする。悪友とも会わせてみたいしな」
「ん、MEAも頑張るのだ。楽しみにしているのだ。ちゃんとしなかったらハリセンボンなのだ」
「あったりめえだ。もうアタシは人間関係にゃ全力で行くって決めたんだよ。じゃ、アタシもそろそろいくけどさ」
アークは屈みメアの前髪のヘアピンに触れる。それはかつて王都でアークがメアに付けたものだった。
「ずっと付けててくれてありがとな。その髪と衣装に似合うと思ったから渡したけどアタシはあんま贈り物とかしてなかったからさ。その、嬉しかったよ」
「ありがとうはこっちの台詞なのだ。プレイヤーから、アークから気をかけてもらって嬉しかったのだ。あのときMEAはメアだけどメアじゃない存在でいれたと思ったのだ」
「そっか」
立ち上がり扉の前へ。これを開ければ別れがまっている。されども彼女らに相応しいのは別れを惜しむ言葉ではなく。
「このまえトモダチと会って。2年会ってなくても話したらまた笑い合えるってわかったんだ。死に別れてなきゃまた会えるって。だから」
だからこれが最適だ。
「またな”仲間”」
「またなのだ”仲間”」
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<一仕事終えてきた女性の声>
ふう、危険物は中古市場に流してきたよ。さてアークの部屋は……となんだい。まだ解決してなかったのか。こりゃ売って来て正解かな。ん、ううん?
アークが……ヌルっと出て来た……!?メアもサンも驚いてるよ!僕もびっくりだ!
「ゲームから出て来るなら出て来ると言うのだ!急に出て来るからびっくりしたのだ!」
「ひとまず帰還したのならばそれでいい。取り急ぎこの一時間のうちに何が起きたのか詳細にまとめてもらおうか」
「あーあーめんどくせー……けど後で力借りなきゃだし仕方ない……かって一時間!?一ヵ月じゃなくてか!?」
「変なアークなのだゲーム機の中でなんかあったのだ?」
え?なんかあったの?
「はー……浦島太郎とは逆か。そうだなとびっきりのだぜ。アタシのゲームの中での冒険聞かせてやるよ。きっと最後にゃアイツに会いたくなるぜ」
は?ゲーム世界の冒険?は?……え、ちょっともしかして僕は取り返しのつかないぐらいにもったいないことをしたんじゃあ……ないのかい?今から買い直す?いや……いやいやいや。ははははははは。
クソ、次はもっと見学しやすくて面白いこと起こってくれよ……頼むぞ。
「ゲームの中に吸い込まれた後アタシは──」