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SHs大戦  作者: トリケラプラス
第八話「0と1を超えて」
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8-20 ”仲間”

「何だこれは!?一体何が起きている……!?」


「アーク殿!?メア殿!?何をされているでござるか~!?


 リンたちは事態を飲みこめていないながらも危険を感じアークたちのもとに駆け寄っていく。対照的にメアは宙に浮きアークの元から離れていった。


「おいサメ野郎。一体何が起きてんだ!?何故メアが飛んでる!?」


「ああ、メアが実はNPCだった」


「な、なんとぉー!?何だかやたらとシステムに詳しいなと思ってござったら!」


「確かに回復職を自ら選ぶなど随分大人しくなったものじゃと思うておったがそういうことじゃったのか」


 驚きもそこそこに合流したSHたちは高く浮き上がったメアを見上げ問う。


「わざわざ正体を明かしたってことは洗いざらい話してくれるってことでいいのか?」 「そもそもこの世界はゲームの世界でいいんでござるか?」


【守秘義務があるから答えられないのだー】


 もたらされたのはすげない回答だったがSHたちは懲りずに言葉を投げかける。


「そこをなんとかじゃ。わらわたち世界を救いに旅をした仲じゃろう?」


「そうだそうだーアタシらは”仲間(パーティ)”だろメア?守秘義務なんてバレなきゃもんだいねーって」


【…………仕方ないのだー。長くなるけどskipするんじゃないのだ】


 パーティという単語に反応したのかメアは長考の後に返答を返すことを決定付けた。


【メアを作ったワイキキソフトではいずれ来るかもしれない現実世界の崩壊に向けて異世界を作り出してそこに避難する施策が進められていただのだ。ゲームの世界を作り出したのは製作者たちの趣味なのだ】


「やっぱりワイキキソフトはありえん。の組織だったか。ゲム板だとそういう噂は立ってたけどな。それにしても異世界創造とは壮大なスケールで話すじゃねえか」

 シロの感心した様子にメアは胸を張り少し誇らしげな顔を見せた。


【ゼルデンリンクでは実際ゲームの世界で人が暮らしていけるのか。沢山のプレイヤーたちを取り込んで検証する予定だったのだ】


「だが現にプレイヤーは我々SH5人しか見当たらない。これはいったいどうしたことだ?」


 リンの指摘通りこの世界には通常の人間というものはどこにも見当たらなかった。その指摘を受けるとメアは恥ずかし気に縮こまり弁明した。


【大量の人をこの世界に呼ぶプログラムは開発が発売に間に合わなかったのだ。発売延期にできるほどうちの財政状況は甘くねえのだ。今はアップデートでその機能を実装する予定なのだ】


「ん?人を呼ぶ機能が実装されておらぬ?……ではなぜやランカたちはここに……?」


【そんなもんメアは知らんのだ。こっちが聞きたいぐらいなのだ。なんで来たのだ?】


 運営側とは思えぬ投げやりな回答に閉口するアークたちだったがそんなことはお構いなしにメアは続きを話した。


【準備が万全じゃないのに突然くるからビックリしたのだ。仕方ないからちょちょっと来る前に表層情報読み取って三人分の共通の知り合いの容姿を用立てたのだ。それがメアなのだ。普通は一人ずつにサポートが付くはずだけとそんな豪華なことは言わせないのだ】


「まあ確かにアタシらの共通の知り合いっつったらメアか……鬼教官ぐらいだしな」


「そこから最近あったという条件にすると童じゃろうのう」


「この世界については分かった。用意されたゲームは一度クリアしたし生活実験というのも済んだはずだ。帰してはくれないか?」


【嫌、なのだ】


「な、なんでだよ……」


 真っ当に思える要求を一台詞で拒絶した。フヨフヨと浮くその身体からは少しムスっとした表情が伺えた。


【だって……】


「「だって?」」


【だって帰したらもうみんなゼルデンリンク遊んでくれないのだ!そしたらもうメアとはずっとお別れなのだ!そんなの嫌なのだ!】


 悲痛な叫びににも似たメアの台詞にSHたちは思わず言葉を失った。小さな仲間の抱えていた悩みにまるで気付いてやれなかった不甲斐なさが重くのしかかる。

 悔恨の念に駆られる彼女らを見下ろすメアは名乗り己の望みを果たしに行く。


【メアはゼルデンリンク開発制御AIhoumeaなのだー。この世界ではMEAは絶対なのだ。だからみんなも絶対逃がさないのだ~!】


 深く暗い地面から暗影が次々に起立する。影はそれぞれ異なる形をしていたがそれぞれどこか見覚えのある形をしていた。そう、影はゼルデンリンクの冒険でこれまで遭遇してきたエネミーやNPCの姿を象っていた。中には四天王や魔王といったものたちすらも存在していた。

 一瞬にしてアークたちの周囲を埋め尽くすように現れた影たちは一斉に彼女たちに踊りかかった。


「アークネードぉ!」


 虚ろの軍勢を仕様外の竜巻で阻み戦闘態勢に移行するアークたち。そう長くはない猶予の中でメアに叫ぶ。


「おいメア!アタシら帰っても別にゼルデンリンクを遊ばねーわけじゃねえぞ!ゲームん中じゃそりゃやったけど現実でプレイするのはまた別だろ!」


【嘘なのだ~。だってさっき2周目になったら凄い嫌そうだったのだ。旅の途中も大変大変ってよくいってたのだ。それにプレイしたとしても何度も何度も何年もやってくれるわけがないのだ。絶対飽きるのだ。そしらたらもう会いに来てくれないのだ】


 沈黙を肯定として受け取りメアは続ける。


【そうなるなら終わりの時までずっとここにいて貰ったほうがいいのだ!かかるのだ~!】


 風が消えたのち四方八方から軍勢が雪崩れ込む。それらを相手にしながらSHたちは話し合う。


「ああー!数が多いでござるなあ!残機無限でござらぬかコレ?」


「どどどどどどどどうするんじゃあこの状況!?」


 SH達は圧倒的な数の軍勢を相手に応戦し抵抗を続ける。手直なものを掴んでは殴り、蹴って遠ざけてまた殴る。そのようにしていると次第に見えて来ることもある。


「ぬりぃな。こりゃ」


「あいつはその気になりゃあたしらのステータスだって自由に弄れるはずだぜ。本気であたしらをどうこうしたけりゃな。そうしねえんならそりゃよ」


「私たちの心をどうにもできないことに対する癇癪のようなものだろう。それをあの子も理解している」


 アークたちが今も抵抗を続けられているということ。それ自体がその証左であった。メアはアークたちを襲いつつも本気で傷つける気はない。これは幼い子供が思う通りに行かなかったときに親に物を投げることで不満を伝えるのとそう代わりはないことだ。恐らくこのまま抵抗を続けていればメアも冷静になるだろう。そうなればプレイヤーを優先的に考える彼女のことだほどなくプレイヤーたちを現実世界に帰してくれることだろう。

 だがSHたちは思う。それでいいのだろうか?自我に目覚めて間もない少女の……いや、これまで苦楽を共にした”仲間(パーティ)”がただ諦めの感情を得る。それを待って良しとしていいのだろうか?答えは否。当然”仲間(パーティ)”といえども譲れぬことはある。この世界にいつまでも留まることはできない。それでも別れ方には作法というものがあるのだ。


「メア!もっかい言うぞ。別にここ出たからってアタシはゼルデンリンクやらねえって気はねえ!またオメエにも会いに来る。他の奴らもそりゃ同じだろ?」


 戦闘の中でも同意の声が返る。だがメアの反応は芳しくない。


【……結局飽きちゃったら終わりなのだ。最後にはわご──】


 シロに抱えられ宙を舞うランカの放った爆裂系範囲攻撃魔法がメアの言葉を遮った。メアが口を開きそうになるたびにその先は言わせないというようにやかましい爆裂音が響き渡る。

「同じ内容ではいつまでも新鮮な気持ちでいるというのは難しいでござろう。しかしゼルデンリンクには定期的なアップデートが入るという情報を確認しているでござる。たとえ現状に飽いてしまっても更新されればまた戻って来るでござろうし。なによりゼルデンリンクはもうただのゲームとは事情が異なるでござるよ」


「VRとかじゃなくてマジでゲームの中に入るなんてゲーマーの夢みたいな体験させてくれたゲーム中古に売ったり忘れたりなんかするかよ。ずっとあたしの特別な位置に居続ける。これは絶対だし自信もて。あと忘れんなお前はあたしたちのパーティなんだって。許可してやる、言ってやれよリン。お前のキラキラした曇りのねえうざいぐらいのド直球の言葉をよ」


 ACTIONGAMEの跳躍力でメアと同じ目線で言葉を送ったシロは最も信頼する相方にもそれを促した。

 応えるように暗影たちが噴水のように巻きあがり中から脚を天に掲げたヒクイドリが姿を現した。彼女は悠然とメアへと歩を進め堂々と声をかけた。


「メア。AIである君がこのことを快、不快でどうとるかはわからない。だが私は君のことを仲間として、一個人としてとても好ましく思っている。常に楽しく笑顔を振りまく君の姿をみて私はずっとこう思っていたんだ」


【な、なんなのだ?】


 戸惑うメアにキラキラとした笑顔で率直な感想を叩き込んむ。


 「ああ、こんな娘が欲しいなと。そう思っていたさ。そうだろうシロ!メアのような娘がいれば更ににぎわうと思うだろう?」


「あたしに振るな!まあ……悪かないとは……思うけどよ」


 リンは一瞬シロに振っていた視線をメアに戻すと攻撃をかわしつつまた口説き始める。


 「どうだろうか?私たちはゲームとしてだけでなく個人としての君も好んでいる。遊戯に興ずるだけでなくただ君と語り合うためだけに会いにいくこともあるだろう。それは嫌かな?」


【い、嫌じゃ……ない……ないのだ】


 先程よりも不安の安らいだ、少し照れの混じる反応のメアにアークが叫んだ。


「伝えたぞメア。アタシらは誰もこれから先にオメエから離れていきゃしねえって。それでもまだ不安だってんなら……ラムルディ!寄こしやがれ!」


「ほれ、行って来るがよいわ。どうあれあの名の童はお主の担当と決まっておる。しっかり頼むぞ」


 アークはラムルディからジュースの入った容器を受け取ると中身を飲み干す。すると鳥の翼が背から現出しメアの待つ空へと羽ばたいた。


「まだ不安なら……今アタシがやってるみたいによ~!」


【な、何をする気なのだ!?】


 行く手を塞ぐように飛行エネミーたちが壁を作るが翼の制動とシンアークによる急加速で潜り抜けていく。阻む者はもうない。捕まえた。

 アークは宙でパーティメンバーを抱きしめこういった。


「お前の方からアタシらの側にくりゃいいんだよ。こんだけのことができるオメエならやれるって」


【ほえ……?MEAが……現実に?何言ってるのだ?】


 アークの腕の中で言葉の意味がわからないといった様子で困惑しているメアだったがアークは気にせず笑っていった。


「オメー自分で思考したりプログラム書き換えたりできるぐれえの超上等なAIなんだからさ。ハッキングでもなんでもやってウチのパソコンなんかに住んだりするのもいいんじゃねえの?オメーと同じAIのミニアークなんて実体化までして部屋うろついてんだぞ……そうだ難しいってならうちにそういうの詳しいやつがいっからさ手伝わせるのもありだな。どうよ?」


【どうって……そんな、アークめちゃくちゃなこと言ってるのだ……自分の言ってること分かってるのだ?MEAはちょっとド凄いだけの……AIなのだ】


「人間から進化した超生命体SHとパーティ組んでる初のAIだぜ?自信持てよ、な」


 自身を信頼し肯定しきる力強い言葉にメアはとうとうおもばゆい表情を見せ。笑みを見せた。


「うん。MEAも頑張ってみるのだ!だからみんな帰ってからもMEAのこと忘れないで欲しいのだ!」


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