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NPCグレイフル


 バトルフィールドが展開される。


【商業都市ゼッペ】の街並。石畳の道路。商店に囲まれた大通りに兵士たちが居並んだ。


 王宮兵 LV.10 × ⑥

 魔導兵 LV.5  × ③


 その最後尾に大将【商人ポロント・ケエス】が控えていた。


 左右には双子エルフの【エウネとハウリ】までもが参戦している。このふたりの【正規版】での戦闘シーンは無い。イベント上の演出で立ち絵とデフォルメキャラ、それに音声がくっ付いているけれど、バトルフィールド上で動いているところを見たことがなかった。商業路の【馬車を襲え!】ミッションで出てきたときも驚いたけど、この世界では彼女たちは戦えるキャラになっていた。


 以上、計十二体が敵勢力である。




 魔王軍側のデフォルメキャラを配置する。


 前衛に、ゴドレッドとグレイフル。近接攻撃型のパワーファイター。


 後衛に、リーザ・モアとナナベール。中長距離後方支援型の魔法使い。


 部下にはグレイフルが従える【昆虫系】モンスター・キラービー五体を召喚。機動力で敵勢力を引っかき回すのだ。


 以上、計九体が味方勢力である。




 画面上にポロント・ケエスの立ち絵が現れた。


『ようこそ。魔王軍のみなさま。私の名はポロント・ケエス、この町の商人です。そしてここは、商人の商人による商人のための町。あなた方魔族には関係のない場所ではありませんか。一体どのようなご用件でお立ち寄りになられたのか。もしや、何かご入り用で? もしそうなら、私が取り揃えて差し上げますよ。もちろんお代金は徴収させていただきますが』


 嫌みな口上に対抗したのは、ポロントに並んで立ち絵が現れたグレイフルだ。


『わらわが欲しいのは価値ある物すべて。財宝でもいいし食料でもいい。服も酒も家も家畜も価値があるならすべて頂きますわ。人間であっても……使い道があるなら飼うのもやぶさかではありません。わらわは器が広いんですの。――支払うものなどなくってよ。略奪するのも面倒ですわ。謹んで献上なさいな、人間』


『あっはははは! いやはや、まさかそちらから売っていただけるとは……』


『?』


『売られた喧嘩は買いましょう。商人をあまり舐めてはいけない』


◇◇◇


 激しい効果音とともに、戦闘開始。


 ここ【町フィールド】では、露店に出された樽や道行く馬車などが障害物としてランダムに配置されている。馬丁を欠いた馬は荷台を牽いてフィールド上を好き勝手に歩き回っている。もちろん攻撃できるし倒せば経験値にもなり、戦闘の邪魔なので排除したいところだが、不用意に手を出せばどんなしっぺ返しがあるかわからない。


 先の【緊急ミッション】にしろ、戦闘開始前のポロント・ケエスとのやり取りも、【正規版】とはまるで違う完全オリジナル展開で、ここでもお兄ちゃんエフェクトが効いていた。ポロントの言動からも魔王軍を準備万端待ち構えていたのは明々白々で、馬車に罠や何かが仕掛けられていてもおかしくないのだ。それは樽にも言えた。


 要するに、このフィールドは相手側のホーム。チュートリアルの【アコン村】並みにトラップを満載した要塞だと思って慎重に攻略する必要があるということだ。


 とはいえ、敵陣営との距離を縮めなければ話にならない。


 警戒はしつつも前進させていく。


 キラービー五体を前に出す。フィールドの三分の一ほど進めた。


 機動力の低いゴドレッドだけ一歩だけ前進させて、ほか幹部たちはスタート地点で待機させる。ポロントたちの動きを見ていく構えを取った。


『魔王様』


「んおっ!?」


 びびび、びっくりした。グレイフルが急に話しかけてきた。


『魔王様、聞いてますの?』


「う、うん。聞いてる聞いてる。どったの?」


『なぜ待機をご命じなさいましたの?』


「うんとね、まず相手の出方を見ようと思って。ここ、向こうのテリトリーだし、どんな罠が仕掛けられてるかわからないから」


『でしたら、わらわが囮になりますわ。わらわを行かせてくださいませんこと?』


「駄目。グレイフルは貴重な戦力だもん。不用意に飛び込んで取り返しのつかない事態にでもなったら大変。ここはグレイフルの部下に行かせるのが正解だよ」


『納得いきませんわね。キラービーはわらわの部下でしてよ。魔王様であってもわらわの所有物を勝手に動かされてはたまりませんわ』


「グ、グレイフル? 何言って」


『部下を率いるのは主の務め。キラービーを先行させるのでしたらわらわが先頭に立つのは当然のことですわ! 魔王様、貴方には援護のみお任せいたしますわ!』


 すると、待機を命じたはずのグレイフルが勝手にマスを進み出した。


 機動力があるグレイフルはあっという間にキラービーたちの前まで移動した。


「ちょちょちょちょちょーっ!? なに勝手に動いてんのよグレイフル!?」


 コマンドを受け付けない!


 制御が効かない!


 嘘でしょ、NPCになっちゃった!?


 幹部は魔王への好感度がマイナスになるまで下がりつづけると命令無視することがある。でも、普通にプレイしてたらそんなことはまず起こりえない。グレイフルのステータスを見てみても魔王への好感度は、高くはないが問題にするほど低くもなかった。つまりこれは好感度が原因なんじゃなく、原因は――。


『あの商人はわらわの獲物でしてよ!』


 それが本音か。ってことは、これはそういうイベントなんだ!


 ポロント・ケエスに恨みを抱えたグレイフルが暴走状態になる――っていうのが、このバトルステージの特殊ルール。今にして思えば、固定ユニットに意地でもしがみついていたあの段階からこうなることは予想された。


 となると、私に課せられた【勝利条件】とは――。


―――――――――――――――――――――――――――

 【ポロント・ケエスの撃破】及び【グレイフルの生還】

―――――――――――――――――――――――――――


 ってことになる。


 敵地で好き勝手動きまくるNPCを守りつつ、ほかの幹部も誰ひとり失うことなく、強敵勇者を撃破する――って、うわあ、もう! 難易度高ぇ――――!


「くっそ! ちょっと面白いかもって思っちゃったじゃんか!」


 思わず腕まくり。ゲーマー魂に火が点いた。


「一丁やってやっか!」


 2ターン目。キラービーを再び前進させていく――。



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