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繝エ繧。繧、繧ェ繝ゥ隕ェ陦幃嚏④--SYSTEM ERROR[ヴァイオラ親衛隊④]


「あはは。レティーってば、王女様のことになると冷静じゃなくなるよねー。あれも健気っていうのかな? 王女殿下を慕っている全乙女ってのはともかく、国民の鑑だね」


「当然だ。僕たちアンバルハル国民は王女様と共にある。彼女の忠誠心こそ本来褒められるべきものなのだ」


 と、声がしたのでそちらを見ると、壁際にふたりの少年が立っていた。レティアが目立っていて全然気づかなかった。


 こざっぱりとした平服を着ているのは王都『第十二教会地区』の下町出身のラクトだ。そして、かっちりとした軍服を身に纏っているのが王都『第一教会地区』に住む軍人貴族イーレット家の次男、ロア・イーレット二世である。


 身分も出自も違うけど年だけは同じこのふたりは、よく一緒にいることが多かった。というより、いつもラクトがロアに絡んでいた。


 ラクトは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ロアの肩をつんつん突いた。


「えー? 忠誠心ー? そんなこと言ってー、ロアっちも実は引いてるんじゃないのー? 女の人こわいよーっていつも言ってるじゃーん?」


「そんなことを言った覚えはない! 軍人たるもの恐いものなど存在しない! ていうかだね、ラクト! 僕のことをロアっちと呼ぶのをやめないか! 僕の名はロア・イーレット二世! ロア・イーレット二世だ! 父の名を受け継いだ正統なるイーレット家の後継者の名だ! 変なあだ名を付けるのはやめたまえ!」


「えー? 寂しいこと言うなあ。それに、イーレット家の後継はお兄さんじゃなかったっけ? でなかったら、ロアっちが傭兵になるなんておかしいでしょ? イーレット家が軍人貴族ならさあ、息子は王宮兵になるのが妥当なんじゃない?」


「うぐ……! お、王宮兵幹部候補生には兄上が行かれた……」


「なーんだ! やっぱりロアっちは後継者なんかじゃないんだ! あー、安心した!」


「こ、後継者だ! 僕こそ後継者だ! そうに決まっている! だ、大体、安心したとはどういう意味だ!? ぼ、僕が幹部候補生にならないことがそんなに嬉しいのか!?」


「んなこと言ってないっしょ。ロアっちが偉くなっちゃったらさ、一緒にいられなくなるじゃん? それって寂しいじゃん?」


「な、軟弱な。僕は寂しくなんかない!」


「えー? 素直じゃないなあ」


 いつもニコニコしているラクトだが、その生い立ちは決して幸せと呼べるものではなかった。貧民街の大家族の長男に生まれ、まともな教育を受ける前から日雇い労働に駆り出されてきた。最近では病に臥せった父に代わり下の兄弟の面倒まで見る必要があり、とても学者になりたいという夢を叶えられそうになかった。


 だが、アニに才能を見い出されたとき運命が変わった。傭兵に志願したことで十分な支度金を家族に残せた。後はここで武功を納めさえすれば夢を実現できるかもしれない。


 この【ヴァイオラ親衛隊】は人生を変える転機であった。


 一方、ロア・イーレット二世にとってこの進路は落第の烙印でしかなかった。


 父、ロア・イーレット一世には次男を使って傭兵部隊の内実を探らせようという目論みのほかに、あわよくば商人貴族側に取り入ろうという魂胆があった。


 ロアは父に道具として使われていることを自覚している。だが、周囲にそうと思われるのだけは我慢ならなかった。ここは自分の居るべき場所ではないと反発していた。


 夢を叶えたいラクトと、抜け出したいロア・イーレット二世。


 少年ふたりの事情をなんとなく察しているアザンカはふたりのやり取りを見ていると、キュッと胸が締めつけられた。


◆◆◆


 実際に、むぎゅっと締めつけられる。


 背後から両の乳房を服の上から鷲掴みにされていた。


「キャア――――ッ!」


 咄嗟に背後を拳で振り払うが、セクハラした人物はすぐさま飛び退いた。


「うっひっひ。今日も百点満点の揉み心地だわいのう」


「ジャンゴさん!? んもう! またエッチなことばかりして!」


「そんな、揉んでください、と言わんばかりに扉の前で背中を向けて通せんぼしているアザンカちゃんが悪い」


「どんな理屈ですか!?」


 アザンカの背後にいたのは口周りに白ヒゲを蓄えた老人、ジャンゴ。


 普段から杖をつき、足腰悪そうに振舞っているくせに、何かと理由を付けてはアザンカに性的な嫌がらせをしてきた。


「どうしていつもいつも私にばっかりセクハラするんです!?」


「なんじゃ? ほかの子にならよいのかの?」


「よくありません!」


 言っているそばから杖の先でアザンカの胸をつんつんと突く。


 バシッと杖をひっぱたく。


「やめてくださいってば!」


「とはいえ、アザンカちゃん以外はのう……。リリナ隊長やレティア嬢はちと若すぎるし、クレハお嬢ちゃんは言うに及ばず……。のう? アザンカちゃんしかおらんじゃろう」


「じ、じゃあ、エスメさんはどうなんですか!? エスメさん、私よりもずっと大人っぽくて色気があるじゃないですか!?」


 名前を呼ばれたエスメは「あら?」とにっこり笑顔を浮かべた。


 ジャンゴは顔を背けるともごもごと呟いた。


「エスメさんはなあ……こわい」


 何度も殺されかけた、と遠い目をして言った。


「何度もって……。セクハラはしていることはしているんですね」


「そこへいくと、アザンカちゃんは程よい肉付きで触りがいがあるし、全然こわくないからのう! ふひひひ、どおれ、この老い先短いジジイに今度はその可愛いお尻を撫でさせてくれんかのう!」


「いい加減にしてくださいっ! やっ! スカート引っ張らないで! もう、誰かこのおじいさん何とかしてぇ!」


 よぼよぼで手足の皮も枯れているのにどこにそんな力があるのかと思うほど元気だ。老い先短いだなんて絶対にウソ。この人が一番長生きしそうだとアザンカは涙目で思う。


 年齢も経歴も不詳。どうしてこの年で傭兵になろうと思ったのかも話そうとしない。アニが連れてきたくらいだから魔法の才能があるのだろうが、訓練しているところを見たことがなかった。ただただ困ったお爺さんなのである。


「いやはやまったく、アザンカちゃんがいてくれてよかったわい。どこへ行っても居場所のなかったワシをこうして柔らかく迎え入れてくれるのじゃからのう。もふもふ」


「イヤアッ! お尻に顔をうずめないで!? 歓迎なんてしていませんってばもう! えい!」


 拳を落とす。が、ジャンゴはひょいと軽やかに離れていった。


「ひょ! まだまだじゃのう、アザンカちゃん! そんな攻撃じゃあワシは倒せんぞ! もうちょい相手の動きを見らんとな!」


「むー」


「怒るでない怒るでない。おかげでワシの寿命も延び延びじゃ。……しかし、アザンカちゃんを堪能したのになぜか物足りんのう……。やはり人妻の感触も必要じゃな! ちゅーわけで、やっぱりエスメさんにも相手をしてもらおうかの!」


「あ、こら! 待ちなさい!」


 捕まえようとしても、ひょい、と軽快にかわされてしまった。


 スケベで言うことも適当。なのに、身のこなしは常人の域を超えている。


 本当に一体何者なのだろう――と深刻に考えてしまうも、エスメに抱きついて熱々のお茶を顔面にぶっかけられているところを見ると何だかどうでもよくなった。


「あらー? お爺ちゃん、熱かった? だいじょうぶー?」


「熱っちゃあああああああ! でも嬉しいぃいいいいい!」


「あらあら(笑)。お爺ちゃんたらお茶目さんねー」


 床を転げ回ったどさくさにエスメのスカートの中を覗こうとするジャンゴ。その顔面をえーい、と足で踏みつけるエスメ。ふたりとも笑顔なところがまたおそろしい。


 改めて思う。


 変なひとたちばっかりだ。




 ルーノとクレハが会議室に入ってきた。


「クレハちゃん、目を覚ましたよーっ!」


「ご、しんぱ、い、お、おかけ、して、す、すみま、せ」


「全員揃ったみたいね。――はい! それでは皆さん、ご着席ください!」


 リリナが号令を掛けると、各々好きな席に座った。


 朝夕必ず行われる部隊会議が始まった。


◆◆◆


「先ほどヴァイオラ王女殿下から令旨を賜りましたのでお伝えします。私たち【ヴァイオラ親衛隊】はこのたび王宮兵の部隊に編入されることが正式に決まりました。明日以降、ヴァイオラ様の在不在にかかわらず魔族との戦闘には強制参加しなくてはなりません。来るべきときがやってきました」


 会議室がにわかにざわついた。


 困惑する気持ちはよくわかる。皆まだまだ錬度が足りておらず満足に魔法を使える者も少ないのだ。こんな状態で戦場に出ても活躍できるとは思えない。


「上は目に見える形での成果を欲しています。私たちはその要望に応えるしかありません」


「リリナ、それはヴァイオラ様が望んでいらっしゃることなのね?」


「そうだよ」


「なら、レティーはやるわ! ヴァイオラ様が往く戦場にならどこへだってついていくわ!」


「いや、だから、ヴァイオラがいないトコにも行かないといけないって話で……」


「あーっ! またヴァイオラ様を呼び捨てにぃいい!?」




「リリナお姉ちゃんが行くなら僕も行くよ! がんばって敵をやっつける!」


「ル、ルーノ、君が、行く、なら、わ、わた、しも、が、がんばり、ます」


「子供たちだけに戦わせるわけにもいきません。私もできる限りのことはお手伝いさせていただきます」




「もうお金貰っちゃってるし、ここで逃げ出したら単なる卑怯者だよね。行くしかないよ。ね? ロアっち? まさか、こわいよー、なんて言わないよね?」


「い、言うわけないだろう! 僕を何だと思っているんだ! 僕はイーレット家の後継なんだぞ! 軍人たるもの、戦場を恐がるなど言語道断! ぼぼぼ僕には命を賭けてもこの国を守り抜くという信念が――」




「私ぃ、旦那様のために働かないといけないからー。お仕事がないと困るぅー」


「ワシも女子がおらんくなるのは困るのう。なあに、尻を追いかけるのは得意じゃわい。どのような戦場であろうと共に往く覚悟であるぞ、リリナ隊長殿?」


「みんな……」


 それぞれが特別な事情と信念を抱えている。


 そしてリリナは、全員分の思いを抱えて先頭に立つことになるのだ。


 恐い。でも、臆するな。


 ハルスもガレロも、立場は違っても各々の戦場でみんな頑張っている。


 ヴァイオラも。


(私もこの部隊を率いるんだ……。それが私にしかできないことなら、やるしかない!)


「戦う覚悟はいいですか?」


 全員が無言で頷いた。




 目隠れのクレハ

 教師アザンカ

 じゃじゃ馬令嬢レティア

 軍人ロア・イーレット二世

 やんちゃ坊主ラクト

 恐妻エスメ

 色爺ジャンゴ


 隊長リリナと天才ルーノの姉弟を加えたこの九人が、後に世界最強と謳わしめることになる【ヴァイオラ親衛隊】の初期メンバーであった。


 伝説の始まり。


「次に、アニの予言をお伝えします。私たちの初戦の舞台は【商業都市ゼッペ】です」



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