商業都市ゼッペ
商業都市ゼッペ――。
王都アンハルの北東、アンバルハル王国国土のほぼ中心に位置し、国境を跨ぐ主要幹線街道の連結点でもある巨大都市。物資流通の一大拠点として発展してきた。
自国の農作物や輸入品の集積地なので、市民のほとんどが商業に従事し、異国の人間の姿も珍しくない。王都アンハルとは違った賑わいを見せていた。
脇道の歩道を歩きながら、中央広場で展開されている青空市場を横目に眺めた。
「すごい人出ですわね」
「ああ、ゲーム画面からはわからなかったが大した盛況ぶりだ」
さすが商業の町というべきか。右を見ても左を見ても商店が立ち並んでいる。
だというのに、憩いの場ともいえる広場にまで露店が出ていて、その無節操ぶりにはただ驚くばかりだ。地べたにムシロを広げて手作り工芸品を陳列すれば子供でも商売が始められる。実際、親なのか親方なのか、大人に混じって呼び込みや接客をしている子供もいた。ここでは商売こそが学びであり遊びなのであろう。
市場はさながら闇市のような様相だ。売物がどこ産の何であるかを保証するのは売り子の口上だけであり、買い手も品質をよく確かめもせずに買い漁っている。転売するつもりなのかと思い値札を覗き見てみると、桁が一つ違うのではないかと疑うくらいに安かった。なるほど。この人出の多さが薄利多売を成立させ、さらなる人出を増やしているらしい。
エルフや獣人といった亜人の姿も目に付いた。彼らからすれば人間が生み出すものはそれだけで価値があり、品質などは大した問題ではないのかもしれない。
「商業そのものが観光の目玉ってわけだ。【南境マジャン・カオ】がその点で突出しているイメージがあったが、なんのアンバルハルも負けていない」
「お兄様? ちょっと楽しそう?」
レミィが意外そうに口にした。
「……まあな。こういうお祭り騒ぎは実のところ嫌いじゃない」
クズ妹と違い、人と接するのは別に苦手ではない。時折煩わしくなるだけで、適度にであれば人付き合いは楽しいものだ。
賑やかな場所も嫌いではなかった。
むしろ……むしろ俺は――。
「お兄様? どうかなさいましたの?」
「なんでもない。それより、道はあってるのか? この先に本当にあるんだろうな?」
「レミィは【システム】ですのよ? マップを読み間違えたりしませんわ」
青空市場を抜け、さらに町の深部へと向かう。
辿り着いた先は、王都アンハルに本店を構える商会の支店――マロフ商館。
【商人ポロント・ケエス】の根城である。
「羊飼いの次は商人が勇者ですの。とても正統とは思えませんわね」
「ゲームの【システム】が何いってやがる」
「レミィは【運営】であって【開発者】ではありませんの。文句ならシナリオライターに言ってくださいな」
「文句を言ったのはおまえだろう。俺は別に誰が勇者だろうと気にしない」
使える道具は適材適所に利用する。
商人が勇者になる――、それを知っていたからこそ描いた絵だ。
「さあ、商人勇者に戦争の旨味を知ってもらおうか」
商館はあっさりと占星術師を迎え入れた。




