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迷いの森―赤魔女ナナベール―


 辛勝。


 ……いや、運が良かっただけだ。また同じ条件で戦ったとしたら今度は絶対に負ける気がする。見通しが甘すぎた。本当に反省した。


 さっき戦闘中にレベルアップしていなかったらきっとやられていた。


 一番大きかったことは低位天撃魔法を覚えたことだ。《ブラッディーローズ》は本来Lv.12で覚えられるような魔法じゃない。


 よくわからないけど……ゲーム内でキャラクターが自ら考え編み出したかのような印象がある。ルールの枠を越えて成長していっている感じ。


 これは……善いのか悪いのか。


 今回のことは予想外の幸運。えっと、こういうのなんていうんだっけ……あ、そうそう、『僥倖』だ。


 これって逆にいえば、予想が外れる可能性も大いにあるっていう証拠にもなるんじゃないか。たとえば、レベルがいくつになればあの魔法が使えるようになるなー、なんて考えていたら全然覚えなかったり。あのアイテムはあそこにある、ってわかっているのに無くなっていたり。そういうこともありえるのだ。


 一周目をクリアした経験値が今後に活かせる気がしない。


 もしや私の想定が通用しなくなっていやしないか。


 知識がある分、それ自体が足を引っ張ることにもなりそう。


 認識を改めなきゃだ。ゲームの難易度はとっくに【ハードモード】だ。


◇◇◇


 アドベンチャーパート――。



『さあ、【赤魔女】をお出しなさい』


『あ~~う~~』


 ホムンクルスは目を回している。


 それでも意地かプライドか、はたまたそれほどまでに『オシオキ』とやらが嫌なのか、リーザ・モアの前で両手を広げて通せんぼする。


『い……行かせましぇ~~ん……。ナナしゃまの命令は、じぇったい~~……』


『見上げた根性ね。いいわ。今度こそ灰になるまで焦がしてあげる』


 そこへ、【赤魔女】の声が割って入った。


『はいはーい。もーいいや。道を開けな、ホムンクルス。リーザもそれ以上いじめてやるな。な?』


『あなたね、自分でけしかけておいてよく言えたものよね。大人しく道を譲ったなら何もしなかったわよ』


『どうかな~。リーザさ、ホムンクルスみたいな女、嫌いだろ?』


『ええ。大嫌いな部類だわ』


『ええ!?』


 ホムンクルスが大慌てで振り返った。


【赤魔女】はクククと笑った。


『だろだろ!? うちが大人しく会っても絶対にいじめたよね! そうされるくらいならさ、ホムンクルスにも反撃の機会を与えてやらんとかわいそうだろ。ガチンコで殴り合ってお互いを知れたんならよかったんじゃね?』


『勝手なこと言わないでちょうだい。金輪際、私の視界に映りこませないで。そうしたらこんな小娘、秒で忘れてあげるから』


『ひ、ひどいですぅ……』


『中に入るわよ、【赤魔女】』


『ういー。いらっしゃーい』


◇◇◇


場面転換――【お菓子の家の中】


『よく来たねー、リーザ・モア』


 初めて【赤魔女ナナベール】の立ち絵があらわれた。


 前髪を切り揃えた幼い顔立ちをした少女である。笑ったときに覗く八重歯が活発な印象を与える。ツバの広いとんがり帽子と、その矮躯に似合わないぶかぶかの真っ赤なマジックローブが【赤魔女】と呼ばれる所以であった。


『ほれほれ、駆けつけ一杯』


『……絶対に普通のお酒じゃないわよね? ビーカーに入ってるし、濁った色しているし、なんかボコボコ泡が立ってるし。何の薬なの、これ?』


『むー。疑り深いやつだなあ。ただの若返りの薬なんだが。まだ実験中の』


『やっぱり薬なんじゃない!? 人を実験台にするんじゃないわよ! ……完成したら飲んであげなくもないけれど』


『そっかー、残念……。そんじゃ、これはホムンクルスが飲んどいてな』


『え!?』


 ホムンクルスが絶望した顔で振り返った。


 ガタガタ震えながらビーカーを手にして立ち尽くした。


『んで、リーザは何しにきたん?』


 盛大に溜め息をつくリーザ・モア。


『あなたを迎えにきたのよ。いつまでこんな森の中にいるつもり?』


『いやー、いくら閉じ込められててもさー、百年もいたら愛着も湧くってば。ここなら魔法研究を誰にも邪魔されずにできるもんね』


『外に出てみたら? 人間世界のほうが魔法は進んでいるかもしれないわよ』


『そりゃそうだろなあ。人間はすごいから』


『あら? 意外ね。てっきり人間を見下しているものと思っていたのに』


『うちも元はといえば人間だしなあ。ここでひとりで研究するよりも、大勢で別々の研究をして成果を共有したほうがそりゃ進歩も速いだろ。効率を考えたら外のほうがいいに決まってる』


『わからないわね。だったらどうして引き籠もっているのよ?』


『進歩とか成果とかどうでもいい。うち、研究していられるだけで幸せだもんよ』


『……でもね、魔王様はあなたの力を必要としているのよ』


『んー。魔王様のことは好きだけどなー。つかさー、うちがいなくても困ることなんてねーだろ?』


『私たちがそれを考える必要はないわ。召集がかかったのだから素直に従えばいいのよ』


『でもなー』


 赤魔女はいつまでも答えを渋り続けた。


『私たちがそれを考える必要はないわ。召集がかかったのだから素直に従えばいいのよ』


『でもなー』


『私たちがそれを考える必要はないわ。召集がかかったのだから素直に従えばいいのよ』


『でもなー』


『私たちがそれを考える必要はないわ。召集がかかったのだから素直に従えばいいのよ』


『でもなー』



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