迷いの森―赤魔女の住処―
『魔王様! 【殺戮蝶リーザ・モア】が【偵知】から帰ってきました♪』
プレイヤーのマップに新たな光点が灯る。そして、【軍議】の【指令】項目にも【NEW】と表記が付いたミッションが追加された。
ぃよし! ならばいこう!
新たな幹部を仲間にするのだ!
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特殊ステージ『東域アンバルハル辺境――迷いの森の魔女』
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◇◇◇
アンバルハルの辺境、羊飼いバジフィールドが放牧に利用していた草原のさらに東に広がる『迷いの森』の奥の奥。
曰く、森には赤い頭巾を被った魔女が住んでいる――。
鬱蒼とする茂み。
日光を遮断する梢。
行く手を阻む木の根。
閉ざされた森。
魔物が棲まうとされるここは、かつて魔王の配下であった【赤魔女ナナベール】を森ごと閉じ込めた結界であった。
人間はその不穏さに近づくことを躊躇わされ、魔女はその不吉さゆえに陽の下へ出ることを許されない。人魔大戦終結後の百年間、魔女は外界との接触を禁じられてきた。
魔女から外に出ることはない。しかし、逆はありえた。
ときに運悪く魔女の棲家に辿り着いてしまう人間がいたのである。
花を摘みに森に入った修道女が、ここが『迷いの森』だと気づいたのは遭難した後であった。
靄がかかり視界は真っ白に塗り潰され方向感覚をも狂わされた。
狼の遠吠え。
コウモリが飛び交い、カラスが罵倒する。
未開の土地。
人間が踏み入ってはいけない領域。
修道女は途方に暮れ、死を覚悟した。
そこへ、妖精が楽しげにやってきて修道女に道を指し示した。引き返す道がない以上進むしかない。
道の両端では悪霊が陽気に踊っている。
ケタケタと笑う木々の葉擦れ。
何もかもが奇妙で、愉快で、おそろしい。
やがて辿り着く魔女の棲家は『お菓子の家』で、そこが修道女の終着点だった。
出迎えた魔女がしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑う。
『いらっしゃい。待っていたよ。おやおや、今宵はご馳走だねえ』
拍手喝采。
狼もコウモリもカラスも嬉しそうに鳴いている。
妖精も悪霊も自立して動く木や花たちも楽しそうに笑っている。
修道女だけが泣いている。
自分が食材なのだと気づいて泣いている。
『久しぶりの人間だ。美味しく食べてやるからねえ』
うけけけけけけけけけけ。
ここは『迷いの森』の奥の奥。
囚われの魔女は森を自らの庭にし、外に出られぬ結界ではなく、何人をも逃がさぬ檻に変えて日夜獲物が罠にかかるのを待っている――。
◇◇◇
雰囲気は一言でいって「トリック、オア、トリート」!
魔女だしね! こういうの結構好きだな、私!
つってもハロウィンパーティーとかしたことないけど。仮装もね。あんなもんリア充だけの祭りだよ。海外でやれやボォケ!
おっと、いけねえ。思わず荒ぶっちまったぜ。
とにかく、今回攻略するステージがここね!
目的は魔王軍幹部【赤魔女ナナベール】を仲間に入れること!
前にクニキリでプレイした【ルドウェン竜骨火山洞穴】っていうミニゲームができるダンジョンにちょっと似てる。
でもここは、ダンジョンそのものの攻略が目的じゃないから一旦クリアしちゃったら消滅するんだ。【赤魔女ナナベール】を仲間に入れると『迷いの森』そのものがなくなっちゃうから、まあそうなるよね。
このダンジョンも一本道。戦闘フィールド上に味方の二頭身キャラを立てて、ひたすらゴールを目指すってわけ。
でも、ただゴールを目指せばいいってわけじゃない。道の途中には宝箱とか、レアドロップアイテムなんかもあるからそれらをいちいち拾っていく必要がある。コンプリートを目指すならそういった隅々まで気を配らないとね。見落としがあってはいけないのだ。
さっきも言ったけどこのダンジョン、一回クリアしちゃったら無くなってしまう。だから、一回でクリアするつもりならこのダンジョンでしか手に入らないアイテムを絶対に取り逃しちゃいけないのだ!
今回のミッション、結構神経使いそう。一周目クリア時にも攻略したけど、そのときは宝箱を一つ取り逃しちゃったんだよね。まあ、今はもうどこにいくつ宝箱が隠されてあるか全部把握しているから、たぶん余裕だと思うけど。
問題は……攻略推奨レベルが(12~15)ってことなんだ。
今回投入した幹部は【殺戮蝶リーザ・モア】。
現在のレベルは『10』
バジフィールド戦で経験値が溜まったおかげで二桁いったけど、それでも攻略推奨レベルには届いていない。
このステージは魔女の家に辿り着いたとき、ボスキャラが現れるのだ。
侵入者を排除する門番。
そいつがなかなか手強くて、そいつを倒さない限り魔女の家には入れない。このステージ最大の難関だ。
倒せるかな。
ええい、迷っていたってしょうがない。とにかく、やるっきゃない!
【赤魔女ナナベール】はお兄ちゃんをぎゃふんと言わすために絶対に必要なキャラだから。




