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モンスター襲来!


「すげえ……すげえぜ、師匠!」


 望遠鏡を覗き込んでいたガレロが声を上げた。


「魔物を一発でぶっ倒しちまった! ヒューッ。さっすが師匠だぜ!」


「それを返せバカモノ!」


 横から望遠鏡をひったくったのはヴァイオラである。先に戦況を見守っていたところを、街道を走ってきたガレロたちに見つかり勢い望遠鏡を奪われたのである。


「不届き者めっ!」


「王女殿下に対してなんたる無礼!」


 護衛兵士が剣を抜く。リリナが慌てて止めに入った。


「ごめんなさいっ! この人、バカなんです! 許してあげてください!」


「って、おい。リリナ。バカは余計だろっ」


「よせ。彼らは私の友人だ」


 ヴァイオラも兵士を制止し、リリナに向き直った。


「リリナ、あそこから逃げてきたんだな。無事でよかった。心配していたんだ」


「ヴァイオラ……様はどうしてここに?」


 このときようやくガレロも望遠鏡を奪った人物が王女であったことに気づいて腰を抜かす。


「ヴァ、ヴァイオラ様!? うおおおっ、し、失礼しましたっ!」


 それを無視してヴァイオラは続けた。


「アニが今日のことを予言していたんだ。それで、王宮から出るなと釘を刺された。だが、魔王軍が現れると聞いてどうして私だけが隠れていられようかっ」


「そこは隠れていてもらわないと困ります。ヴァイオラ様は王国軍の大将なのですから」


 兵士も挙ってうんうん頷く。ヴァイオラはそれを横目に舌打ちする。


「魔王軍の幹部を一目見ておかねばと思ったんだ。敵を知ることは軍略上必要不可欠だからな。見られる機会をむざむざ逃す手はないだろう」


「ですが、王女自らなさらなくてもよろしいでしょうに。あまりお転婆が過ぎますとラザイ王のご心労が増えてしまいます」


 中年の護衛隊長に窘められ、ヴァイオラはむっと唇を尖らせた。


「護衛の人たちもヴァイオラ様を庇いながらだと命がいくつあっても足りません。ご自重ください」


 畳み掛けるようにリリナにも叱られる。ヴァイオラは「ええい!」と癇癪を起こした。


「言われなくてもわかってる! だからこうして離れた場所から見ているのだろうがっ!」


「そ、そうだ! 王女様! それで、師匠はどうなった!? 戦いはっ!?」


「待て待てっ。いま確認する。――むむ。どうやらにらみ合っているようだな。動きがない」


 望遠鏡はヴァイオラが持つ一つだけだ。ガレロは居ても立ってもいられない。


「お、俺にも見せてくださいっ!」


「ちょっとガレロ! あなたも少しは自重して!」


 そこへ、ハルスが堪らず声を掛けた。


「みんな、今はそんなことしている場合じゃないだろ! 町の人たちを避難させなきゃ!」


 街道を急いでいたのはそのためだ。ガレロもバジフィールドの指示を思い出す。


「そ、そうだったな……。わりぃ、ハルス。俺が足を止めちまった」


「僕たちは僕たちにできることをしよう!」


「そ、そうね。ハルスの言うとおりだわ。私たちがここに居ても足手まといにしかならないもの。ヴァイオラ様、私たち行きます」


 リリナとガレロも再び馬に跨った。


「そうだな。君たちはすぐに避難するべきだ。護衛を何人か付けよう」


「王女殿下もですぞ。いつ魔王軍に気づかれるかわかりませぬ。今すぐここから離れましょう」


 護衛隊長が進言する。


「王女殿下に万が一のことがあれば……そのときこそ世界の終わりです」


 ヴァイオラはしばし葛藤し、「わかった」と不承不承頷いた。


「あっ! お姉ちゃん! 何かこっちに来るよ!?」


 ルーノが叫び、指差すほうを全員が見た。


 数体の魔物がこちらに向かって突進していた。


「あれ、師匠が【迷いの森】で手懐けていた魔物じゃねえかっ。そっか、魔王軍に驚いて慌てて森から出てきたんだな!?」


 魔王の闇の波動によりバジフィールドの勇者スキル《テイム》の効力が切れていた。


 魔物たちはもはや魔王配下の人類の敵である。


「お逃げください、王女殿下! 総員、撤退準備!」


「待て! ここで食い止めねば奴らは町まで押し寄せるぞ! この場で戦うべきだ!」


「し、しかし、王女殿下っ!?」


「見る限り、魔物の数はこちらの半数以下だ! この程度押し返せぬようでは人類が魔王軍に勝つことなど到底不可能! 覚悟を決めろ! 我が騎士たちよ!」


 護衛兵士たちが剣を構える。王女を逃がすため、どの道時間稼ぎをする必要があった。


 護衛隊長の決断は早かった。兵士たちに指示を出し、臨戦態勢を整える。


「俺たちも戦うぜ! なあみんな!?」


「お、おう! そのために魔法を覚えたんだからな!」


「やってやろうぜ!」


 ガレロが発破を掛けると仲間たちが呼応した。


「リリナとルーノは僕の後ろへ! ふたりは僕が守る!」


「ハルスっ!?」


「心配いらない。……僕だっていつまでも弱い村人のままじゃない」


 守ると告げた青年の背中がかすかに震えているのを、リリナは気づいてしまった。


「行くぞっ!」


 ヴァイオラの号令をきっかけに、ハルスたちの戦いもまた幕を切った。


―――――――――――――――――――――――

 【出現モンスター】

  コーンラビット    LV.1   ×10

  ビッグトード     LV.8   ×2

  エンシェント・ホーン LV.10  ×3

―――――――――――――――――――――――



◆◆◆


「ナイスタイミングだ! ヴァイオラたちが足止めを喰らったおかげで心置きなくバジフィールドの戦いを鑑賞できるぜ」


「ですけど、お兄様? お兄様も何気に命の危機ですわよ?」


「かもな。【コーンラビット】はともかく、【ビッグトード】と【エンシェント・ホーン】は強敵だ。魔王軍の幹部でさえ苦戦するだろう」


 ハルスたちも【農耕兵】として鍛え上げたが、まだアレは倒せない。チュートリアルのときの【黒騎士アディユス】は、LV.1の状態でスキルも魔法も使えなかったから倒せたのだ。


 しかし、いま向かってきている魔物はレベルが違いすぎる。


「あいつらだけじゃあ倒せないだろうな」


「でしたらどうしますの?」


「ま、なんとかなるだろ。いざとなりゃルーノが魔法をぶっ放して一網打尽だし、一応、保険も掛けている」


「そううまくいきますかしら? レミィ、こんな序盤で死ぬのは御免ですわ」


「俺だって御免だぜ。こっちのことはいい。とにかく、俺たちが気にすべきは勇者対魔王軍だ。あっちもようやく動いたぞ!」



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