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魔王降臨


 さっきまで晴天だったのに、いつのまにか曇天に変わっていた。

 今にも降り出しそうな空。

 厚く黒々とした雲に雷光が奔る。

 羊が一斉に喚き始め、森は風に吹かれて葉擦れの音を立てた。


 事ここに至れば、ソレが凶事の前触れであることは誰の目にも明らかだった。


「バジフィールド師匠!」


 異変に気づいたガレロがバジフィールドの許に駆けつけた。


「ガレロよ、その師匠ってのやめろって前にも言っただろ。……つか、アニが言ったとおりじゃん。本当に来やがった」


「来たって何が!?」


「そりゃおめえ、こーんな薄気味悪い演出で勇者んトコに来る輩なんざ魔王軍以外にいねえだろ」


「魔王軍……」


 ごくり、と喉を鳴らすガレロ。


 バジフィールドは苦笑を漏らし、親指を立てて背後を指した。


「他の子たちを連れて避難しな。やつらの狙いはオレっちだ。オレっちがひとりで喰い止める。おまえらは馬に乗って町まで全力で駆けろ。そうすりゃたぶん逃げられる」


「ざけんなっ! 師匠ひとり残していけるわけねえだろっ!」


「だっから、師匠じゃねえっての。合宿に来た者の中でリーダー格だったのはおまえだ、ガレロ。おまえがあいつらを引っ張れ。おまえにしかできない」


「一緒に戦えばいいじゃねえか! 俺だけじゃなく、あいつらも残って戦えば、」


「ばかやろう! 生意気言ってんじゃねえぞコラァ!」


 普段温厚なバジフィールドに怒鳴られて、ガレロは思わず竦み上がった。


「おまえらは足手まといなんだよ。言わせんじゃねえよ」


「……ッ」


「まー聞け。オレっちのためでもある。オレっちもよー、死にたくねーんだよ。おまえらの面倒見ながら戦ってらんねえしよー、一人のほうがむしろありがてえんだわ。一人なら、まだ生き残る手があるからよー」


「……」


 ガレロの肩に手を置き、安心させるように微笑んだ。


「おまえさんが師匠と認めた男だぜ、オレっちは。頼りない男に見えるかい?」


「いや……」


「だったら、信じろよ。オレっちはおまえさんを信じてる。あいつらを無事逃がしてやってくれ。頼んだぜ」


 言いたいことは山ほどあった。だがもうそんな時間はない。


 駄々を捏ねるだけの子供ではいたくなかった。


 敵を倒すだけが戦いじゃないと教えてくれたのは、他の誰でもない、目の前にいるバジフィールドだ。師匠と仰ぐなら、ガレロはその教えを守る義務がある。


「死ぬなよ、師匠」


「任せろ。逃げ足だけには自信があるんだよ、オレっちは」


 その軽口を最後に、ガレロは踵を返して駆け出した。


◆◆◆


 リリナとルーノを乗せた馬を先頭に、一行は草原を抜けて街道に辿りつく。


 魔王軍の襲来をアニが予言していたというが――。


「だったら事前に兵をあそこに集めておけばよかったんじゃ……っ」


 返り討ちにすればよかったのに、とハルスが指摘した。


 否、と答えたのは意外にもガレロだった。


「王都の兵士を草原に集めたら戦力が分散しちまうだろ。王都の守りを薄くするのだけはやっちゃダメだ」


「でも! じゃあ、バジフィールドは!?」


「師匠はそう簡単にやられはしねえ……! だよな、師匠……!」


 振り返った先、野営地は遥か彼方。


「ねえ、ハルス! ガレロ! 私たちはこれからどうすればいいの!?」


 リリナに問われ、互いに顔を見合わせた。


「逃げろったって、王都に行けばいいってわけじゃねえよな」


「僕たちを追ってきた魔王軍を王都へ引き入れるのだけは避けないと」


「だよな。師匠はこの近くの町に逃げ込めって言ってたけど」


「あ、そうだよ! 町に行って魔王軍が来たこと教えないと! みんなを避難させなきゃ!」


「そ、そういやそうだな! 急ごうぜ!」


 そのとき、突如ルーノが叫んだ。


「あっ!? 見てッ! あっちのお空に何か飛んでるよ!?」


 野営地の上空。


 遠目にもわかる。鳥ではない何かが宙に浮いていた。


 あれは――もしや。


「魔王軍……っ!?」


 ついにきた。


 第二次人魔大戦の幕開けがついにやってきたのだ。


◆◆◆


「お兄様!」


 レミィが叫んだ。


「わかってる……。まさかなあ、この俺が驚かされるとは思わなかったぜ……」


 クソザコ妹のくせに。


 この展開は予想外だ。……いや、完全に妹を舐めていた。


 草原の上空に現れた魔王軍幹部は三人。


【殺戮蝶リーザ・モア】

【女王蜂グレイフル】

【魔忍クニキリ】


 そして――。


「王将自ら前線に出てくるとはなぁ――――!」


 幹部三将を従えるは漆黒の王。怨嗟と呪いを凝縮させたかのような闇をローブにして纏い、総身を覆い隠してさえなお毀れでる偉力が万物を支配せんと唸りを上げる。


 初見であっても間違えない。誰何は万死に値する。


 ひれ伏すがいい人間。


『余は魔王なり』



 魔 王 降 臨



「ぐっ……!?」


 闇の波動が水面を滑る波紋のように広がった。突風が吹荒れ、離れていても衝撃が凄まじい。煽られただけでこちらの戦意を削ぎ落とす。


 肌が、神経が、本能が、感じ取る……。


 戦力差がどうこう以前に……あれはそもそも次元が違う。


 大嵐の如く。津波の如く。噴火の如く。旱魃の如く。


 勝ち負けではなく、アレは大自然の猛威と同等かそれ以上のやり過ごすべきもの。


 挑んではいけない天災そのものだった。


「これが……恐怖か……ッ」


 ゲーム世界の住人になって初めてわかる魔王の恐ろしさ。おぞましさ。


 まだ序盤だ。ステータス上の数値は取るに足らないもの。しかし――。


「アレにはまだ敵わない……っ」


 体の芯から震えがくる。


「お兄様。……ですけど、顔は笑っていますわよ?」


「ああ。妹に感謝しないとな。今、ようやく、越えようとしている壁の高さを実感した」


 乗り越えたときのことを思うと武者震いがする。


 いいぜ。見せてもらおうじゃねえか。妹よ。


 久しぶりの兄妹喧嘩だ。


「遠慮なく掛かってきやがれっ!」



 初戦、開幕ッ!!!!


◆◆◆


――――――――――――――――――――

 魔王     LV.5

        HP  140/140

        MP  105/105

        ATK  31

        MAT  28

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

 リーザ・モア LV.6

        HP  102/102

        MP  123/123

        MAT  32

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

 グレイフル  LV.6

        HP  131/131

        MP   60/60

        ATK  35

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

 クニキリ   LV.5

        HP  111/111

        MP   20/20

        ATK  26

――――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――――

 バジフィールド LV.5

         HP  300/300

         MP    0/0

         ATK  50

―――――――――――――――――――――



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