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幹部シナリオ④『流浪の果て(魔忍クニキリ)』


【軍議】の【引見】を選択。

――――――――――――――――――――――――――――――

 どのシナリオを閲覧しますか?


・ 鬼になった日      (鬼武者ゴドレッド)【既読】

・ 蝶よ、花よ      (殺戮蝶リーザ・モア)【既読】

◇ 流浪の果て         (魔忍クニキリ)【NEW】

・ ノブレス・オブリージュ (女王蜂グレイフル)【既読】

――――――――――――――――――――――――――――――


◇◇◇


 エトノフウガ族――


 定住する国をもたず、世界中を放浪し続ける謎の一族。


 彼らには族長がいない。代わりに意思決定をするのは各『家』の長である。族内には幾つもの『家』があり、『家』単位で行動するのが基本であった。掟に反しないかぎり、放浪する場所も、その土地で何を為すのかも各『家』で自由だ。


 他家と情報を共有することはない。旅先でかち合ったとしても、助けを乞われでもしなければお互いに関わりあうことはない。


 エトノフウガは自らを『道具』と認識している。道具は人に使われてこそ活きるもの、と弁えている。人や国を見定め、仕えるに足る主に忠誠を誓い、命を捧げる。大義の下、会得した剣技・体術を存分に揮うことに至上の栄えと誉れがあるとされていた。


 彼らは義を重んじる。一度忠誠を誓ったならばたとえ相手が蛮夷の王であろうと決して裏切ることはない。彼らの生き方はエトノフウガの掟に準ずるものであるから、もし道を踏み外すようなことがあればそれは一族への叛逆をも意味する。汚名を雪ぐため裏切り者を誅するのは同族が行うしきたりである――




『――堕ちたものよ。「主君殺し」の禁忌を犯すとは』


『……やれ。一思いに……』


『潔し。それでこそ「鶴家」の者よ。まだ若いが、名を聞いておこう』


『――フッ。咎人の本名は障りにしかならねえぞ?』


『同族のよしみだ。それに――その姿では死んでも死に切れまい』


 自我があり言葉も喋るが、すでに人間ではなかった。腐った肢体がいまだに動くのは魔法使いがかけた呪いによるもので、意識は刻一刻と薄まりつつあった。このままでは本当にただの屍鬼に成り果てるだろう。


(情けねえ。死んでまで体を好き勝手使われちまうだなんてな……)


 仕えた国が悪かったのか、利用された自分が間抜けだっただけなのか。


『鶴家』は「忍」を輩出するエトノフウガの名門だ。正々堂々を旨とする他家の武術と違い、暗殺術に長け奇策謀術を得手とした。諜報、毒殺、騙まし討ち。功名は時として卑怯者という謗りと同義であった。

 しかし、たとえ邪道であろうとも、繰り返した鍛錬と費やした月日と練られた業を卑しめられる謂れはない。他家の武術に比しても何ら引け目に思うものではなかった。


(だよな。最後まで忍をまっとうすりゃよかったのに。俺ってやつぁ……)


 隣国との戦争に駆り出され、部隊を率いて先陣する『将』に任じられたのが運の尽き。一騎当千の実力はあれども元より捨石の『将』、道を切り開き、疲弊しきったそのときに不覚を取る。呆気ない幕切れであった。


 そこまではいい。誤算だったのは、自軍の魔法使いが死体使いで、エトノフウガの鍛え抜かれた肉体を素材としてしか見ておらず、最悪なことにすでに敵側に寝返っていたということだ。魔法使いは最強の兵士を手に入れ、彼に『主君殺し』の罪を着せた。


 掟を破った慙愧により一時的に自我を取り戻したエトノフウガは、返す刀で魔法使いの命を絶ったのだが……すべて後の祭りであった。国は滅び、彼には後悔だけが残された。


 生き延びるつもりはない。


 ただ静かに粛清されるときを待った。




『……生まれて初めて他家の者に会った。本当にあったのだな、しきたりは』


『せめて武芸者として死ねるように――な。粛清とはいえこれは果し合いぞ』


『ハッ。お優しいこった』


『名を名乗れ。最期だ、人に戻れ』


『かたじけない。拙者の名は「鶴家國切」。――いざ尋常に』


◇◇◇


 昔々――『人魔大戦』よりも遥か昔のことである。


 現代のような七つの大国にまとまっていなかった時期。小国が小競り合いを繰り返す混沌とした戦国時代に、忍者『國切』は掟破りの咎により断罪された。


 ……だが、彼は死ねなかった。首を刎ねられてなお生き永らえた。刺客のエトノフウガに埋葬されてより一年後、地中から蘇ってしまった。


 永劫に死ねない体……。しかし、不滅ではない。いつかは呪いの効力も切れるだろう。


 こんな体にした魔法使いはもういない。復讐を目的に生きることができず、かといって再び主君を頂くなどこの身に余る願いであった。ただ、死ぬための旅に出るより他にない。


 それから数十年もの間、世界中を旅した。当てどもなく放浪し、行く先々で人間の性を嫌というほど見せつけられた。


(もしも次があるとするならば)


 絶望した心が救いを求めるように遠きユメを想う。


(この世界を変えうる王の下で)


 だが、屍鬼でなければ叶わぬユメがあるということを。


(思う存分力を発揮したいものだ)


 クニキリはまだ知らない。




『――余に仕える気はないか?』



(クニキリシナリオ 了)


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