特殊ステージ『大封リュウホウ――山岳の魔物』
さて。お次のミッションは【魔物退治】と洒落込みますか。
【大封リュウホウ】の人の居ないエリアを侵略する。
村や町がない場所には魔物の巣があり、魔王の支配からいまだに逃れ続けている魔物たちが地域を傍若無人に跋扈しているのだ。そのエリアを占領し、魔物を支配すれば、部下や道具の補充も行える。軍を強化する上では欠かせないミッションだ。
「それいけっ、ゴドレッド!」
◇◇◇
山岳の【大封リュウホウ】――国土の半分以上が岩山の、大陸中央にある国だ。イメージは中華ファンタジー。大昔の水墨画に描かれているような、煙突みたいに切り立った山々が連なりを見せている。東にアンバルハル、西にダカルマイルの国境が接する交易の要衝地域でもある。
急峻な山々にはいまだ人の侵入を許していない土地があり、魔物の住処が数多く点在していた。地元の人間は元より近づかない地域であるが、魔物の側は時折食料を求めて人里に下りてくる。魔物による被害は六大国中で一番多い。
特に狙われやすい山村には魔物専門の狩人が常駐しており、彼らは放浪の民・エトノフウガにも匹敵する武力を身につけていた。制御の効かない魔物と屈強な狩人が睨みあっているこの土地は、魔王軍にとって侵略しにくいエリアの一つでもあった。
ひとまず、一番端っこのエリアから侵攻を開始する。城や人里から離れたエリアであれば狩人と遭遇する可能性は極めて低くなる。侵攻は、端から徐々に徐々にが基本だ。ゲームバランス的にも辺境ほど弱い敵が配置されていることだしね。
侵攻とは、すなわち戦闘だ。選択したエリアに赴いたゴドレッドは、その土地を支配する魔物の群れと戦うことになる。
◇◇◇
『牙猿の群れが現れた!』
牙猿は人間を襲う凶暴な肉食獣である。人間大の大きさなので、非力な人間ではまともに太刀打ちできない。狩人が束になってやっと戦いの態を為すほどだ。
相手にとって不足無し――、ゴドレッドは闘志を漲らせ、魔物のテリトリーへと足を踏み入れる。
『推して参るッ!』
――――――――――――――――――――――――
特殊ステージ『大封リュウホウ――山岳の魔物』
勝利条件【敵勢力の殲滅】
――――――――――――――――――――――――
◇◇◇
バトルフィールドが展開される。
山岳フィールド。点在する障害物【大岩】が移動を制限するが、使いようによっては戦闘を有利に運べるアイテムとなる。他にも、岩肌が階段状に削れているので高低差が生まれ、キャラによっては平地以外での射程が狭められる危険がある。槍や弓といった武器ならば高低差があっても攻撃可能だが、ゴドレッドの斧圏は区切られてしまう。たとえ敵が隣接したマスに居たとしても、高低差があれば攻撃は届かないのだ。
だが、そのハンディキャップを物ともしないのが我らが鬼武者である。
宣言しよう。
この戦闘ではただの一度も回復アイテムを使わずに勝利してみせる!
バラバラとフィールド上に現れる牙猿たち。――全部で十体。
対してこちらの戦力は大将ゴドレッドと、五匹のゴブリンたち。ゴドレッドのレベルが3を超えているので部下のゴブリンたちを思い通りに動かすことができる。
―――――――――――――――――――
ゴドレッド LV.5
HP 155/155
MP 0/0
ATK 42
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
ゴブリン① LV.2
HP 45/45
MP 0/0
ATK 16
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
牙猿① LV.3
HP 60/60
MP 0/0
ATK 25
―――――――――――――――――――
ステータスで比べてみると、ゴブリンよりも牙猿の方がわずかに強いけど、ゴドレッドの敵じゃない。牙猿に数の面でアドバンテージがあるだけで、個々の能力差は歴然だ。
戦闘開始。
先攻は牙猿。十体が思い思いにこちら陣営に向かってマス目を詰めてくる。
こちら側のターン。ゴドレッドとゴブリンを牙猿に向けて進行させる。ゴドレッドには一対一で仕掛けさせ、ゴブリン五体は牙猿一体を囲んでリンチにする。とにかく短いターンで一体でも多く数を減らすのだ。
牙猿②がゴドレッドに接触した。牙猿②の攻撃。爪で引っ掻いた!
ゴドレッドにダメージを与えた!
『18』
むむ。意外と喰らうな。喰らうのは八回が限度かな。注意しなきゃ。
ゴドレッドの番だ。さっきのお返しだ。牙猿②に直接攻撃!
ズバーンッ! と、普通攻撃音とは異なる小気味良い効果音が響く。これは――【クリティカルヒット】だ!
牙猿②にダメージを与えた!
『62』
牙猿②をやっつけた!
「――――ッ、しゃあ!」
チョーつえええッ!
いくら敵がザコいからって強すぎじゃない!?
今プレイ中最大ダメージを更新したよ、【クリティカル】とはいえ通常攻撃で!
ゴブリンたちも牙猿①を四方から取り囲んで棍棒でボコる。
『11』
『12』
『11』
『11』
――計45のダメージ。うーん。1ターンで一体倒せたらよかったんだけど。
お次は牙猿たちの反撃。
牙猿①がゴブリン①を攻撃。
『22』のダメージ。
――――――――――――――――――――
ゴブリン① LV.2
HP 23/45
MP 0/0
ATK 16
――――――――――――――――――――
続けて牙猿④がゴブリン①の背後に回って攻撃。
ゴブリン①にダメージを与えた!
『21』
おおっ。まだ生き残っている。ゴブリン①に攻撃が集中するのはありがたい。
他の牙猿たちは、牙猿①を囲んでいるゴブリン②③④に攻撃したり、少し離れたゴブリン⑤に接近したりと行動していく。
新たにゴドレッドに向かってきた牙猿⑨が攻撃を仕掛けてきた。――ガキンッ! 鋼が衝突する音。牙猿の爪をゴドレッドの斧が防いでいた。
ダメージはもちろん『0』
そして――
『――歯向かうのならば容赦はせん。我の得物は武具にあらず!』
握り締めた拳を牙猿の顔面にぶち込む。眉間を血で真っ赤に染めた牙猿⑨がキィーキィーッと悲鳴を上げて地面を転がった。
『この肉体こそが武器である。うぬらとそう違わぬだろう。遠慮は要らぬぞ。一斉に掛かってくるがいい』
カウンターアタックだ。接近戦に特化したゴドレッドは、近接攻撃を五十%の確率で防御し、さらに二十五%の確率で反撃するのだ。牙猿⑨に与えたダメージは『25』。
牙猿⑦⑧⑩がゴドレッドを囲むようにしてやって来た。
◇◇◇
背後左右からも牙猿が襲い掛かる。岩をも砕く爪を戦斧で受け止めて蹴り飛ばし、どんな肉をも抉るはずの牙は、噛み付かれた筋肉で締め付けて外させない。万力の握力を持つ牙猿の分厚い手のひらが背中を強打するも、ゴドレッドは微動だにしなかった。
『その程度か? ならば今度は我から征くぞ』
斧を両手で持ち、目蓋を閉じて深く項垂れ、体を沈みこませていく。瞬間、ゴドレッドの周囲は一切の闇に包まれた。稲光が上下に降り注ぎ、風も無いの大気の震えがわななきを轟かせる。突如異空間に放り出された四匹の牙猿たちは困惑し、間もなく、明鏡止水の如く研ぎ澄まされたゴドレッドの闘気の正体に気づいて発狂した。しかし、もはや逃げることはかなわない。斧圏に入ったが最後、鬼武者は必殺の一撃を以って宿敵に容赦のない敬意を顕す。
『――逝け。我が刃の錆びと成れ』
固有スキル《鬼轟円戟斧》!!!!
◇◇◇
MAXに溜まった気力ゲージを一斉解放。
アニメーションカットイン。そして、独楽のように三回転――構えた斧で牙猿たちを薙ぎ払う。炎を纏った斧の一撃が四方に爆風を叩きつけ、囲んでいた牙猿たちを両断した。
敵グループにダメージを与えた!
『102』
『98』
『101』
『101』
牙猿⑦をやっつけた!
牙猿⑧をやっつけた!
牙猿⑨をやっつけた!
牙猿⑩をやっつけた!
「うはっ! ゴドさんマジ強いんですけど!」
ダメージポイント100越えとか。物語も中盤になればそんくらいは普通になるんだけど、序盤でここまでの大ダメージを与えられるキャラは他にいない。固有スキルだって、射程範囲は短いけれど、とにかく攻撃力のある技を覚えてくれる。ボス戦では特に重宝したい幹部だ。
「――さ、残り半分。さっさと片付けちゃおっと」
ゴブリンの攻撃で牙猿①を撃破し、次の標的を囲む。ゴブリン①は次のターンであえなく撃沈してしまったけど、まだ四体居る。この四体でリンチして、次の一体もHPを半分以上減らしておく。
「あっと、ゴブリンまた死んだ。もっと働けよなあ。使えねえなあ、何だよもー」
ゴドレッドを見習えよってんだ。
ゴブリンの数を順調に減らしつつ、牙猿のHPを削っていく。ゴドレッドの通常攻撃だとダメージポイントは大体『40』くらい。一撃で倒せるくらいにまで削っておこう。
ゴブリンが攻撃を受け、死んで、次のゴブリンが盾となる。その隙にゴドレッドが牙猿を一撃で倒していく。
ゴブリンが一体になった頃、ついに牙猿を殲滅できた。
「はい。終了~~っ」
――――――――――――――――――――――――――
特殊ステージ『大封リュウホウ――山岳の魔物』終了
――――――――――――――――――――――――――
・残存数
魔族 2
牙猿 0
勝利 魔族(鬼武者ゴドレッド)
敗北 魔物(牙猿)
◇◇◇
「――――お?」
戦闘終了したのにバトルフィールドから画面が切り替わらない。
この展開は……。
『牙猿の群れが平伏した。魔王様に忠誠を誓っている』
『牙猿を魔王軍配下に加えた!』
おおっ。こりゃ幸先いいわ。普通は占領した後に角笛で野良魔物を誘き寄せて倒し、運が良ければ配下に加えられるものなので、このように侵略と調達が同時に達成されるのはかなりの幸運と言えた。
牙猿は部下カテゴリーでは【猛獣系】に分類される。【猛獣系】の魔物を扱うには幹部自身が【猛獣系】の魔物でなければならない。
ちなみに――
ゴドレッドは【妖魔系】
リーザ・モアは【精霊系】
グレイフルは【昆虫系】
クニキリは【屍人系】
である。
同族の幹部がいないので牙猿はしばらくはお城で待機だ。つっても、【猛獣系】幹部を仲間に迎える頃には、牙猿なんて下級モンスターを部下に使う機会なんてないんだけど。
でも、いい感じ。ここのエリアを盗ったのだってちゃんと狙いがあったからだ。そのことを思えば、牙猿が配下に就いたのも計画が上手くいく前触れっぽい。
牙猿はおまけだ。
ここで欲しかったモノは侵略エリアの拡大と、ドロップアイテム【峠の角笛】である。
山岳エリアで魔物を倒せば大体【峠の角笛】が手に入る。
これを使ってお目当ての魔物を引き当てるんだ。
つーわけで、【魔物退治】ミッション終了。
そして、世界地図の【大封リュウホウ】の辺境エリアに魔王軍の最初の旗が立った。
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