幹部シナリオ③『ノブレス・オブリージュ(女王蜂グレイフル)』
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・ 鬼になった日 (鬼武者ゴドレッド)【既読】
・ 蝶よ、花よ (殺戮蝶リーザ・モア)【既読】
・ 流浪の果て (魔忍クニキリ)【NEW】
◇ ノブレス・オブリージュ (女王蜂グレイフル)【NEW】
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幹部の居住区である北側の尖塔に、ひっきりなしに貢物が運ばれていく。
世界中から送り届けられる金銀財宝の数々。女王蜂グレイフルが封印から解かれたことを祝う進上物で、グレイフルの寝ぐらは数日経たずに黄金で埋め尽くされた。
『わらわにはやはり太陽の輝きこそ相応しい――ですわ!』
部屋の中央から照り返す金色をうっとりと眺めるグレイフル。
『はあああ……、美しいですわね。わらわの次に美しい……』
溜め息にも色がつきそうだ。
バケツリレーしていた貢物がようやく途切れた。宝物を収納するべく空間拡張魔法を行使し続けた魔王は、運搬作業が終了したのを見計らって肩の力を抜いた。
『なぜ余がこんなことをしなければならぬのか……』
『何をおっしゃっていますの、魔王様? わらわを部下として置くからには福利厚生はきちんとしていただきませんと』
さも当然というふうに言い切るグレイフル。主を立たせて自分だけが椅子に腰掛けているこの状況にもまったく疑問を抱いていない。女王様気質はこの日も全開であった。
魔王は女王蜂に代わりせっせと働いていた侍女たちを労った。
『働き蜂たちよ、ご苦労であった』
『はぁ~い』
一斉に返事したのはメス蜂たちだ。貢物をバケツリレーし、グレイフルが気に入る配置に財宝を飾り立てていた。見た目は大人びた美しい女性たちだが、子供のように無邪気に女王の許へと駆け寄ると、甘えた声を出した。
『グレイフルさまぁ~。それではぁ~、リーザ・モアさまの寝所からぁ~、お花の蜜をぉ~、こっそりぃ~、拝借してきまぁ~す』
『ええ。いってらっしゃい。バレたらチクリとやってもよろしくてよ』
『チクリぃ~! チクリぃ~!』
キャッキャと楽しげに声を上げながら部屋から出て行った。
『リーザ・モアから食料を貰っていたのか?』
『ええ。リーザがわらわに貢ぎたいというので仕方なく』
こっそり拝借、といっていたので実際は盗んでいるのだろうが……花の化身であるあのリーザ・モアが気づいていないはずがないので、貢いでいるという表現もあながち間違いではないのかもしれない。
『しかし、あの者たちは本当によく働くのだな。荷物整理が終わったばかりだというのにすぐに飛び出していった。動かぬ女王のためとはいえ大した忠誠心だ』
『強く美しく頼りがいのあるわらわの兵隊ですのよ? 当然ですわ』
嫌みのつもりだったのだが、グレイフルには通じなかった。
人型の職蜂はグレイフルの身の回りの世話が主な仕事であるらしい。戦いに駆り出されるキラービーは全員オスだ。なるほど、雌雄で役割分担ができているのだな、と感心したものだが……それは大きな間違いであった。
通常、ミツバチの群は『女王蜂』『働き蜂(雌蜂)』『雄蜂』の三つで構成されている。女王蜂の主な仕事が繁殖であるのに対し、働き蜂の仕事は営巣・保育・蜜採集・守衛など多岐にわたる。
そして雄蜂の仕事は……別コロニーの女王と交尾することだけである。女王蜂が死ぬか繁殖期にならなければ雄蜂に出番はなく、出番がないまま生涯を終えることも珍しくなかった。
つまり、自巣において雄蜂はただの穀潰し! メスに養ってもらわなければ生きていけない単なるヒモ! ヒモなのである!
野生のミツバチならいざ知らず、魔王軍幹部のグレイフルがそのような美しくもなんともない存在を黙って飼い続けるはずもなく……
大型昆虫のキラービーは城内への立入を許可されておらず、今も城外で必死に戦闘訓練に励んでいた。
『見た目にも美しくありませんし戦力としてもイマイチですわね。働き蜂のほうが強いことですし、そろそろクビにいたしますわ』
王として戦力を采配する将軍幹部を頼もしく思う反面、キラービーには思わず同情してしまう魔王であった。
『それにしても……グレイフルは人望が厚いのだな』
目一杯広げた空間は貢物でいっぱいになっていた。たかだか幹部が戻ってきたというだけでこの有り様だ。一体どれほどの魔物が彼女を崇めているのだろう。
カリスマ性だけでいえば魔王に匹敵するのではなかろうか。
『まったく……。【女王蜂】も楽ではありませんわね』
『? どういう意味だ?』
『魔王様も、皆に貢がせなくては生きていけないほどわらわが脆弱だとお思いですの? やれやれですわね。見当違いも甚だしいですわ。よろしくて? わらわが皆を従わせ貢がせているのはそれが義務だからですわ。上に立つ者の義務、ですわ。下々の者どもは誰かに心酔していなければ不安なのですわ。わらわがいるだけで、威光を示すだけで、多くの者たちは安心いたしますの。わらわのためではありませんわ。彼らは彼らのためにわらわに貢いでいますのよ』
『ほう。興味深いな』
貢ぐという行為がグレイフルへの依存度を高め、庇護下にあることを強く意識し心の安定を図るのだそうだ。グレイフルが何かを強要することはない。ただ導くのみである。
義務などと意識したことが魔王にはなかった。最上位に就いた者が『魔王』なのであり、形式が魔王を魔王たらしめているわけではない。
役割を鑑みるのは未だ成り上がりの最中、上を仰ぎ見ている証拠である。
『では、グレイフルよ。おまえは何に心を寄せているのだ?』
『うふふふふ。わらわに何を言わせたいのかしらん?』
椅子から立って魔王に日傘の槍を向けた。
殺気はない。だが、確かな叛意を突きつける。
『魔王様に玉座を貢がせる。いずれ来るそのときをただ思っておりますわ』
『叶うとよいな』
グレイフルは満面の笑みを浮かべた。
『王はふたりも要りませんことよ! をーほっほっほっ!』
どこまでも華美に。優雅に。
金色の女王の宣戦布告であった。
(グレイフルシナリオ 了)
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