VS グレイフル 決着!
『驚かされたのは事実ですけれど、わかっていればこちらにも遣りようがありますわ! まさかもう勝った気でいらっしゃいますの? 見くびってもらっては困りますわ!』
グレイフルの気勢は少しも削がれていない。むしろ、気力は充実している。
闘気のオーラがグレイフルを淡く輝かせる。
『さあ、続けますわよ』
『来なさい。すぐに終わらせてあげる』
『ええ。――今度こそ終わらせてやりますわ』
◇◇◇
再び開いた距離を詰めてくるグレイフル。近づくたびに魔法を喰らう。
残り五マス――《フレアウェーブ》で『24』のダメージ。
残り三マス――《フレアウェーブ》で『22』のダメージ。
たぶん、あと一撃で倒せるはず!
その前に、再びグレイフルの射程圏内に入った……ッ!
まあ、一発くらいはね。喰らっておかないとバランスが悪いっていうか。
「だからって【クリティカル】出るなよー、出るなよー、――って……あっ!?」
グレイフルの気力ゲージがいつの間にかMAXになっていることに気づいた。
気力満タンな状態だと通常の攻撃力が二割増で強くなり、そしてさらに溜まった気力を一気に解放することでキャラ固有スキルを使うことができるのだ!
まずい!
と思ったら、やっぱり、グレイフルの固有スキルが発動した……っ!
「ちょっと!? 嘘でしょ!? このタイミングでソレ使うなよッ!」
アニメーションカットインが差し込まれる。
蜂の大群が周囲に浮かぶ。兵隊蜂は一斉に尻についた針を突き出し、グレイフルの号令を待つ。その場でくるりと回るグレイフル。スカートがふわりとひるがえり、真上から捉えた映像では真っ白なドレスの花冠と、中央に輝く金髪がまるで花柱のようでいて、可憐なマーガレットを彷彿とさせた。蜜に群がる蜂たちを、女王蜂は日傘の槍の一突きと共に押し出した。
固有スキル《刺突・黄殺》!!!
◇◇◇
『――……ッ!?』
視界を覆い尽くす黄色い剣山の弾幕。避けようがなく、正面からまともにぶつかった。全身を無数の針に突き刺され、リーザの意識は遠退いた。
『……ぐ、かは、あっ!?』
『さようなら。リーザ』
一瞬遅れてやって来た主砲の槍が、リーザの脇腹を貫通した。
一閃。
手加減無用の一突き。
手応えは十分。
『ぐああぁあぁあッッッ!』
獣の咆哮のような悲鳴を上げて、リーザがその場にくずおれた。
勝負は…………ここに決した。
『貴女のことは忘れなくてよ、リーザ・モア』
グレイフルは宿敵を討ち取った喜びと、友を失くした寂しさを同時に味わっていた。
『虚しいですわね。――――ハッ!?』
しかし、それもたったの数瞬。
ぐさり、と腹に突き刺さる炎の槍に気づいたときにはもう、余計な感傷はあっさりと吹き飛んだ。
『あ、はうっ……!?』
グレイフルはそのときようやく気づいた。地べたに這いつくばったままのリーザの手許から炎が触手のように伸びていることに。
またしても、見たことのない魔法である。
『残念だったわね。私にも至近距離で扱える魔法はあったのよ?』
『な、ん……ですの? これ、は……』
『《ファイアーランス》……と、言うらしいわ。火と風の合体魔法ね。魔王様が開発なさったの』
膝を突くグレイフル。リーザは立ち上がり、トドメとばかりに炎の槍を突きつけた。
勝負はここに決した。
『私の勝ちよ。グレイフル』
◇◇◇
グレイフルの固有スキル【刺突・黄殺】がリーザに与えたダメージは『58』。
―――――――――――――――――――
リーザ・モア LV.5
HP 30/88
MP 65/101
MAT 28
―――――――――――――――――――
リーザの残りHPは【30】
たったの一撃でリーザのHPを三分の一にまで減らされた。
マジで危なかった。
グレイフル、マジパねえ……
それにしても《ファイアーランス》もなかなか使える魔法のようだ。射程距離は《ファイアーボール》と同じ五マスだけど、単体攻撃ではなく、一直線に並んだ敵すべてにダメージを与えられる範囲攻撃というから驚きだ。今回はグレイフルしか敵がいなかったけど、複数のザコキャラを相手にするときは、狭いところにわざと逃げ込んで一突きにするっていうのも快感があって面白いかもしれない。
それは、ともかく。
リーザ・モアの攻撃! 《ファイアーランス》が炸裂し、グレイフルにダメージを与えた!
『30』
【女王蜂グレイフル】をやっつけた!
戦闘終了のファンファーレが鳴り響く。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
特殊ステージ『南境マジャン・カオ/名も無き島――黒白合戦』終了
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勝利 魔族(殺戮蝶リーザ・モア)
敗北 魔族(女王蜂グレイフル)
◇◇◇
戦闘は終わったが、イベントシーンは続く。
何事もなかったかのようにリーザ・モアとグレイフルの立ち絵が現れた。
『ずいぶんと頑張りますわね。そんなにわらわに戻ってきてほしいんですの?』
『勝ったのは私よ。負け惜しみもそこまでになさい。さあ、とっとと土下座して投降するのね。今ならお城のメイド長くらいにならしてあげるから』
『わらわに相応しいのは玉座のみ! それ以外受け付けませんわ!』
『懲りない女ね』
『ですが、魔王様が是非にとおっしゃるなら、幹部として戻るのもやぶさかではありませんわ。それでよろしくて? リーザ・モア』
『……最初からそう言えばよかったのよ』
はあ、と疲れた溜め息をこぼした。
『ところで、この遺跡に張られた神の結界とやらは破れますの?』
『なかなか強力のようだけど、私たちが力を合わせればどうということはないでしょう』
『わらわとリーザの前に打ち崩せない壁はない、というわけですわね』
『ええ。不本意にもね』
『うふふ。これからもよろしくお願いしますわ、リーザ』
差し出される右手。良くも悪くも裏表のないグレイフルからの歩み寄りにリーザは面食らう。
『……仲良くはできないけれど、同志であることは認めてあげるわ、グレイフル』
本音と照れ隠しが半々といったところだが、とりあえず和解する。仲間割れを遠巻きに見ていたハボホロイ族は、どうやら戦いは終わったらしい、と伝え合って安堵した。
だが、握手を交わす二人の表情が「ん?」「え?」と戸惑いを浮かべた。
『同志? 何を勘違いなさっていますの? わらわは幹部。リーザは部下に、と申し上げていますのよ?』
『……聞き間違いかしら? そのバカ丸出しの話し口調のせいでまるで頭に入ってこないみたいなの。ねえ? 私を部下にしたいとそう言ったの? 命が惜しくないの? え?』
『したいだなんてとんでもない! 貴女みたいな年増、頼まれたって部下になんてしたくありませんわよ! ですが、寛大で慈悲深いわらわはあえてリーザを使ってあげてもいいと、そう言っていますの。泣いて喜びなさいな、リーザ!』
『ほんっっっっっと、いい性格してるわ、貴女ッ!』
『ほら、何をしていますの? わらわのために、わらわに忠誠を誓う証として、ここの結界をぶち破りますわよ。さあッ』
『いいわ。お望みどおり、――貴女ごとぶち壊してやるわ!』
『ッ!? どこ目掛けて魔法を撃っていますの!? これだから貴女は役立たずだと言っていますのよ! 見ていなさい。こうですわ!』
『ちょっと!? いまその槍で明らかに私を狙ったでしょ!? 手許が狂ったなんて言い訳は聞きたくないわね!』
『お互い様でしてよ! ――くッ!? この至近距離から《ファイアーボール》!? 正気ですの!? それでどこの結界をぶち破ると言うつもりですの!?』
『洞穴に住んでて耳まで遠くなったようね! 貴女ごとぶち壊すって断ってあげたでしょ! ――って、あっぶないわねッ!?』
『ならばわらわも協力しますわ! 手始めに、その眉間に風穴をぶち開けて差し上げますわよラアァァアアアアア!』
『上等ォオオオオオオ!』
グレイフルの突きが烈風を生み、避けるリーザの背後に衝撃波を放つ。
リーザの風と炎の魔法が竜巻を引き起こし、遺跡の壁を削岩機の如く削り取る。
再び始まった仲間割れ。今度のはさらに熾烈を極め、古より遺されてきた由緒ある神殿もついに悲鳴を上げ始めた。壁には無数に亀裂が生じ、天井からも大小さまざまな瓦礫が崩れ落ち、神がお怒りだとハボホロイたちが慌てふためく。
二人の魔力波がついに岩の神殿を内側から破壊した。
崩落する遺跡。薙ぎ倒される周囲の密林。嘆き悲しむハボホロイ。
遺跡を覆っていた封印も力を保つことができずに消滅した。
外に出られた黄金の女神は、自由を手に入れてもなお黒き魔女と死闘を繰り広げた。
『これでも喰らいなさいませ! 《刺突・連閃》!』
『《蝶・インフェルノ》! 消え去れ豚ァ!』
ハボホロイ族は涙を流し、左右の指を組んで頭を垂れる。
『おおおっ、おおお……っ、グレイフル様……っ! なんと神々しい……!』
あれこそ神話の再現。この世の奇跡を目の当たりにし、ハボホロイ族は信仰を新たにするのであった。
これより三日三晩の後、魔王が直接止めに入るまで女たちの戦いは続いた――
◇◇◇
玉座の間にて。
魔王は新たな幹部を歓迎した。
『をーほっほっほ! よくってよ! よくってよ! わらわの帰還を盛大に祝うがいいですわーっ! さあさ、もっと酒を! もっと音を! もっともっと煌きを!』
無数の働き蜂を動員して楽隊を作り、自分のためのパレードを敢行する。蜂蜜を固めて敷いた黄金色の歩廊を、玉座の前まで威風堂々歩いてくる。
魔王もアーク・マオニーも言葉がない。
『お久しぶりですわね、魔王様。それとそこのちっこいの』
『う、うむ。一段とすごくなって帰ってきたな』
『うへえ、僕もう見てるだけでお腹いっぱい』
グレイフルは魔王軍幹部の中でも特に面倒臭い存在であった。
『グレイフルよ、よくぞ無事でいてくれた』
『当然ですわ! わらわを誰だと思っていますの。お空の太陽よりも尊き存在でしてよ。わらわの消滅はすなわち世界の破滅。世界の在る限りわらわ在り、ですわ!』
『そこまで大口叩けるなら何も心配いらないね。……あー、頭の具合はもう諦めてるから気にしないけど♪』
『あら? そこの羽虫が耳障りですわね。魔王様、駆除してもよろしくて?』
『……おまえたちは喧嘩しながらでないと会話ができないのか』
なぜウチの幹部どもは揃いも揃って我が強いのか、と魔王は途方に暮れる。
戻ってきたグレイフルを魔王軍の幹部に迎えるには、形式だけでも就任の儀を行う必要があった。魔王配下に就くことをグレイフルに自ら選ばせることで忠誠とするのだ。
『して、グレイフルよ。再び余に仕える気はあるか?』
『……』
グレイフルは立ち並ぶ幹部たちを見据え、さらにその部下たちを眺め回し、天を仰ぐ。
『わらわはとても欲張りですのよ? 欲しい物は全部手に入れなければ気が済みませんの。理想を言えばわらわが奪うのではなく、自ら貢いでほしいですわね。魔王様にも』
『ほう……。余から何を望む?』
日傘を閉じ、先端を差し向けた。
『玉座を。王は二人もいりませんわ』
『ちょっとちょっと【女王蜂】! 口を慎もうよ! ったくぅ、あんまりおふざけが過ぎると食べちゃうよ?』
『ちっこいのがイキったところで恐くも何ともありませんわ。文句がおありなら掛かってきなさいな』
「あっ、そう。じゃあ遠慮無く――――食べちゃうね♪』
アークの影が伸び、壁を伝って天井にまで広がっていく。すべてを飲み込む暗黒の孔。グレイフルはそれを黄金の魔力波で抑え込む。一触即発。【不死影アーク・マオニー】は参謀役であるが、魔王の右腕を張るに足る戦闘力の持ち主でもあった。
グレイフルは肌でそれを感じ取る。
開戦すれば、どちらかが確実に死ぬ――
その緊迫した空気を打ち破ったのは魔王の哄笑だった。
『ふははははっ! 良い! 良い! グレイフルよ、それでこそ強欲の戦士だ! 余のためでなく自らの理想のために邁進し、励むがよい』
魔王が放った闇の波動が玉座の間を走り抜ける。正面に立つグレイフルはおろか、左右に控えている幹部たちまでもが震え上がる。
圧倒的偉力。比類なきカリスマ性。
吐く息すら何者をも従わせる言霊となり得た。
『余はおまえを許そう』
『――……っ』
許された――それだけでグレイフルは不本意にも無上の喜びを感じてしまう。
越えるべき王の器の何と広きことか。
だが、――わらわなら、いずれその底にも手を突いてやりますわ。
風穴を開けてやるッ!
『いずれその椅子いただきますわ、魔王様』
『いずれ、か。その日を楽しみに待つとしよう』
―――――――――――――――――――――――
【女王蜂グレイフル】が魔王軍の幹部になった!
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